介護保険、現状と課題(その3止) 制度改正、予防に軸足
2000年度に始まった介護保険制度は、初の本格的な制度改革となった05年改正で、予防重視に軸足を移した。ただ、給付の抑制に力点を置くあまり、必要なサービスを受けられない人が現れるなど、支障も出ている。一連の給付カットは介護職員の処遇低下も招き、人材確保を難しくしている。介護保険をめぐる現状と課題をみる。【吉田啓志】
◇「社会で支える」理念
Q そもそも介護保険ってどんな制度?
A 00年4月、それまで主に家族で担ってきた高齢者の介護を、社会全体で支えようという理念で始まった。保険に加入するのは40歳から。40~64歳の人は保険料を医療保険に上乗せして負担する。ヘルパーによる入浴や家事の援助などのサービスを受けられるのは65歳以上だけど、この人たちも主に年金から天引きされる形で保険料を払っている。40~64歳の人は、末期がんなど特定の病気になった場合しか使えない。
Q サービスを受けるにはどうするの?
A 市町村に申請し、どの程度の支援が必要かを示す「要介護認定」=<1>=を受ける必要がある。最も軽い「要支援」と「要介護1~5」の6段階から、05年改正で「要支援1~2」と「要介護1~5」の7段階になった。数字が増えるにつれ介護の必要度が高い。要支援と要介護の境目には一時的に「経過的要介護」の区分も設けた。区分ごとに給付の上限が決まっていて、その範囲内で利用した費用の1割を自己負担する。自己負担を除く給付費は、保険料と税金半々で賄っている。
◇「なるべく元気に…」
Q なぜ制度改革が必要だったの?
A 制度定着とともに給付費が増え=<2>、放置すれば保険料がどんどん跳ね上がる事態になったんだ。施行5年目の見直し規定もあり、団塊世代が65歳となる15年をにらみ給付抑制に転じた。
Q どんな改革?
A 従来は介護が必要になった人のケアに重点が置かれていた。それでは給付費が膨らむ一方なので、介護の必要度が進まないようにするため、予防を重視するシステムに転換した。その「介護予防」の導入と、各種サービスのカット、そして在宅介護を進め、独居や夫婦のみの世帯を地域で支える「地域ケア体制」の整備が柱だね。
Q 介護予防って?
A 軽い要支援1や2と認定された人は、「新予防給付」を受けることになった。リハビリや栄養改善指導のほか、筋力トレーニングによる運動機能向上や、入れ歯の手入れといったメニューもある。
Q 筋トレ指導を受けている近所のおじいちゃんは、「介護認定は受けていない」と言っていたよ。
A 将来介護サービスを受ける可能性がある65歳以上を対象に、市町村が予防に取り組む「地域支援事業」も新設されたんだ。元気になって、なるべく介護保険の世話にならないで、というわけさ。
◇相次ぐサービスカット
Q 認定を受けているのにサービスがカットされたとも聞くよ。
A 要支援1、2の人は、家事をヘルパーと一緒にしたり、ヘルパーに見守ってもらうだけとなった。これまではヘルパーに料理を作ってもらっていた人たちが、野菜を切らなきゃいけなくなったわけだ。自分でやれることまでヘルパーに頼むと身体機能が低下する、と国は説明している。
Q へー。
A 訪問介護報酬がこれまでの1時間半に相当する額で打ち切りになったのも影響が大きい。延長報酬はなく、従来2時間以上の家事援助をしていた業者の中には、サービスをカットして1時間半以内に圧縮するところが少なくないんだ。
Q ほかにはどんな給付削減をしたの。
A 介護施設入所者の食費や家賃相当額、光熱水費を全額自己負担にした。在宅の人とバランスを取るためとされ、標準的な人で月3万円程度の負担増だ。あと06年の医療制度改革で、お年寄りの長期入院施設である療養病床のうち介護保険適用の13万床全廃が打ち出され、現時点から見ても12万床減らされる。
Q 削減効果は?
A 厚労省は12~14年度の給付費について、新予防給付の導入と自己負担増で、本来なら10兆6000億円に達するところを8兆7000億円に抑えられると試算していた。それで65歳以上の平均保険料=<3>=は、何もしないより1100円安い4900円にできると説明してきた。
◇低賃金で人手不足に
Q 介護職員の報酬が問題になっているね。
A 06年度の報酬改定は平均0・5%減で、軽度の人に対するサービス報酬は5%カットされた。改定は3年に1度で、09年度にも報酬改定がある。
Q 09年度もカット?
A いや、介護職の仕事が重労働なうえ賃金が安い=<4>=ため、人材確保が難しくなっている。政府・与党は介護報酬アップの必要性について大筋一致しているけど、財政難の折、改定幅がどの程度かは不透明だ。
Q 人手不足は深刻なの?
A 外国人労働者受け入れの呼び水ともなったしね。経済連携協定(EPA)で、来月にはインドネシアから300人の枠で介護福祉士候補生が来日し、来年はフィリピンからも来る予定だ。「外国人を入れないと介護が立ち行かなくなる」という受け入れ積極派と、「賃金水準を一層引き下げ、人材確保がより困難になる」という慎重派の対立が今もある。
Q 去年、大手の介護事業者が廃業したね。
A 政府は介護への民間参入を後押ししたけど、介護報酬引き下げで企業業績は悪化し、撤退が相次いでいる。そうした状況を、職員数の水増し申請や、保険対象外の介護報酬請求などで不正に乗り切ろうとしたのが、廃業した最大手のコムスンだ。もちろんトップの姿勢が問題なんだけど、今の介護報酬体系ではビジネスとして成り立ちにくいのも事実なんだ。
……………………………………………………
<1>増える「軽度」
要介護・要支援の認定者数は、00年度の約256万人から06年度には1.7倍の440万人に増加した。特に「要支援」が05年度に当初の2.2倍の約72万人、「要介護1」も2倍の約142万人と、軽度の人の伸びが大きい。05年改正で、06年度から旧来の要支援と要介護1の一部の人が「要支援1」「要支援2」に移行。予防重視を名目に、サービス量の抑制が図られた。
<2>在宅給付が5割に
利用者の自己負担を除く給付費は、要介護・要支援認定者数の増加に伴い、00年度の3兆2427億円から06年度は1.8倍の5兆8743億円に増えた。当初3割強だった在宅系サービスが06年度には5割弱に増加。ただ05年に施設の食費などが全額自己負担となり06年度の給付費総額の伸びは前年度比1.4%増に抑えられた。
<3>推計上回る保険料
保険料は、3年ごとに改定される。65歳以上の保険料に関する厚労省の試算(04年)によると、介護施設の食費などを全額自己負担とし「介護予防が相当進む」場合も、全国平均の月額保険料は09~11年度4400円、12~14年度4900円に上がる。ただ、この04年時点で3900円とみていた06~08年度の保険料は4090円になっており、今後も推計値を上回る可能性が高い。
<4>賃金は全産業比6~8割
07年6月の介護労働者の賃金は、福祉施設介護職員(フルタイム)の男性で平均月給22万5900円で全産業平均37万2400円の約6割。勤続年数も4.9年で全産業平均(13.3年)を大きく下回る。男性ホームヘルパーは23万9300円。女性は施設職員20万4400円、ホームヘルパー20万7400円で、こちらも全産業平均の8割台だ。
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◇実情無視の「予防」促進--淑徳大准教授・結城康博氏
介護保険制度は本来、家族介護の負担を減らす「介護の社会化」を目指した。現状はその理念に逆行している。制度開始以来の極端な市場原理と、形だけの介護予防を導入した05年の制度改正は、「国の失策」だ。
中・高所得層が対象で採算が取れる場合は、企業間競争が正常に機能する。しかし低所得層、重い認知症や精神疾患で介護の手間がかかるのに利益の出ない人は、事業者に敬遠される。介護報酬の2回連続マイナス改定で、事業者の経営は悪化する中、不採算部門まで民間任せにしていることが、介護現場の低賃金化と人材不足の要因にもなっている。
過疎の市町村は高齢化が進み保険料が上昇しているのに、民間サービスが行き渡らない。保険料を都道府県単位にし、民間任せにするのは競争原理が働くサービスに特化して、採算の取れない分野は市町村が担う仕組みに改めるべきだ。
社会保障費削減のため、介護予防を大義名分にするのは大きな誤り。本気できめ細かな予防施策をやるには逆にお金がかかるのに、例えば「ヘルパーが家政婦代わりになっている」と生活援助を削減し、ヘルパーと一緒に家事や散歩で体を動かして状態の悪化を防いできた利用者たちの現実を無視したのが、05年改正だ。そもそも予防は「要介護というリスクが起きないため」のもの。リスクが起きた場合に備える保険制度になじまない。
特にコムスンの不正後は「介護の適正化」が強調され、事業者は介護報酬の返還命令を恐れて自主規制に陥った。不正は許されないが、利用者のニーズに沿ったサービスすら認めない自治体は少なくない。行政の指導監督に介護福祉士ら現場の人間も加え、実情に沿った判断をする体制が必要ではないか。
介護報酬の改定を来年度に控え、「報酬を上げると保険料も上がる」と二者択一論がさかんだ。しかし、無駄な公益法人の廃止などで生じる財源や、上限を10%とする福祉目的の消費税によって、介護保険の公費割合を現行の50%から60~70%にすれば、保険料は上がらない。要介護度の低い人を支援の対象外にするようなやり方は、逆に軽度者が重度化し、将来の財政負担を増大させてしまう。
官僚主導の歳出削減一辺倒から脱し、国民一人一人が「介護崩壊」を防ぐことに自覚を持ってほしい。【構成・夫彰子】
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「読む政治 選択の手引」は毎月1回掲載します。
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■人物略歴
◇ゆうき・やすひろ
社会福祉士、ケアマネジャー。昨年から現職。著書に「介護 現場からの検証」(岩波新書)など。38歳。
(出所:毎日新聞 2008年7月28日 東京朝刊)
2000年度に始まった介護保険制度は、初の本格的な制度改革となった05年改正で、予防重視に軸足を移した。ただ、給付の抑制に力点を置くあまり、必要なサービスを受けられない人が現れるなど、支障も出ている。一連の給付カットは介護職員の処遇低下も招き、人材確保を難しくしている。介護保険をめぐる現状と課題をみる。【吉田啓志】
◇「社会で支える」理念
Q そもそも介護保険ってどんな制度?
A 00年4月、それまで主に家族で担ってきた高齢者の介護を、社会全体で支えようという理念で始まった。保険に加入するのは40歳から。40~64歳の人は保険料を医療保険に上乗せして負担する。ヘルパーによる入浴や家事の援助などのサービスを受けられるのは65歳以上だけど、この人たちも主に年金から天引きされる形で保険料を払っている。40~64歳の人は、末期がんなど特定の病気になった場合しか使えない。
Q サービスを受けるにはどうするの?
A 市町村に申請し、どの程度の支援が必要かを示す「要介護認定」=<1>=を受ける必要がある。最も軽い「要支援」と「要介護1~5」の6段階から、05年改正で「要支援1~2」と「要介護1~5」の7段階になった。数字が増えるにつれ介護の必要度が高い。要支援と要介護の境目には一時的に「経過的要介護」の区分も設けた。区分ごとに給付の上限が決まっていて、その範囲内で利用した費用の1割を自己負担する。自己負担を除く給付費は、保険料と税金半々で賄っている。
◇「なるべく元気に…」
Q なぜ制度改革が必要だったの?
A 制度定着とともに給付費が増え=<2>、放置すれば保険料がどんどん跳ね上がる事態になったんだ。施行5年目の見直し規定もあり、団塊世代が65歳となる15年をにらみ給付抑制に転じた。
Q どんな改革?
A 従来は介護が必要になった人のケアに重点が置かれていた。それでは給付費が膨らむ一方なので、介護の必要度が進まないようにするため、予防を重視するシステムに転換した。その「介護予防」の導入と、各種サービスのカット、そして在宅介護を進め、独居や夫婦のみの世帯を地域で支える「地域ケア体制」の整備が柱だね。
Q 介護予防って?
A 軽い要支援1や2と認定された人は、「新予防給付」を受けることになった。リハビリや栄養改善指導のほか、筋力トレーニングによる運動機能向上や、入れ歯の手入れといったメニューもある。
Q 筋トレ指導を受けている近所のおじいちゃんは、「介護認定は受けていない」と言っていたよ。
A 将来介護サービスを受ける可能性がある65歳以上を対象に、市町村が予防に取り組む「地域支援事業」も新設されたんだ。元気になって、なるべく介護保険の世話にならないで、というわけさ。
◇相次ぐサービスカット
Q 認定を受けているのにサービスがカットされたとも聞くよ。
A 要支援1、2の人は、家事をヘルパーと一緒にしたり、ヘルパーに見守ってもらうだけとなった。これまではヘルパーに料理を作ってもらっていた人たちが、野菜を切らなきゃいけなくなったわけだ。自分でやれることまでヘルパーに頼むと身体機能が低下する、と国は説明している。
Q へー。
A 訪問介護報酬がこれまでの1時間半に相当する額で打ち切りになったのも影響が大きい。延長報酬はなく、従来2時間以上の家事援助をしていた業者の中には、サービスをカットして1時間半以内に圧縮するところが少なくないんだ。
Q ほかにはどんな給付削減をしたの。
A 介護施設入所者の食費や家賃相当額、光熱水費を全額自己負担にした。在宅の人とバランスを取るためとされ、標準的な人で月3万円程度の負担増だ。あと06年の医療制度改革で、お年寄りの長期入院施設である療養病床のうち介護保険適用の13万床全廃が打ち出され、現時点から見ても12万床減らされる。
Q 削減効果は?
A 厚労省は12~14年度の給付費について、新予防給付の導入と自己負担増で、本来なら10兆6000億円に達するところを8兆7000億円に抑えられると試算していた。それで65歳以上の平均保険料=<3>=は、何もしないより1100円安い4900円にできると説明してきた。
◇低賃金で人手不足に
Q 介護職員の報酬が問題になっているね。
A 06年度の報酬改定は平均0・5%減で、軽度の人に対するサービス報酬は5%カットされた。改定は3年に1度で、09年度にも報酬改定がある。
Q 09年度もカット?
A いや、介護職の仕事が重労働なうえ賃金が安い=<4>=ため、人材確保が難しくなっている。政府・与党は介護報酬アップの必要性について大筋一致しているけど、財政難の折、改定幅がどの程度かは不透明だ。
Q 人手不足は深刻なの?
A 外国人労働者受け入れの呼び水ともなったしね。経済連携協定(EPA)で、来月にはインドネシアから300人の枠で介護福祉士候補生が来日し、来年はフィリピンからも来る予定だ。「外国人を入れないと介護が立ち行かなくなる」という受け入れ積極派と、「賃金水準を一層引き下げ、人材確保がより困難になる」という慎重派の対立が今もある。
Q 去年、大手の介護事業者が廃業したね。
A 政府は介護への民間参入を後押ししたけど、介護報酬引き下げで企業業績は悪化し、撤退が相次いでいる。そうした状況を、職員数の水増し申請や、保険対象外の介護報酬請求などで不正に乗り切ろうとしたのが、廃業した最大手のコムスンだ。もちろんトップの姿勢が問題なんだけど、今の介護報酬体系ではビジネスとして成り立ちにくいのも事実なんだ。
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<1>増える「軽度」
要介護・要支援の認定者数は、00年度の約256万人から06年度には1.7倍の440万人に増加した。特に「要支援」が05年度に当初の2.2倍の約72万人、「要介護1」も2倍の約142万人と、軽度の人の伸びが大きい。05年改正で、06年度から旧来の要支援と要介護1の一部の人が「要支援1」「要支援2」に移行。予防重視を名目に、サービス量の抑制が図られた。
<2>在宅給付が5割に
利用者の自己負担を除く給付費は、要介護・要支援認定者数の増加に伴い、00年度の3兆2427億円から06年度は1.8倍の5兆8743億円に増えた。当初3割強だった在宅系サービスが06年度には5割弱に増加。ただ05年に施設の食費などが全額自己負担となり06年度の給付費総額の伸びは前年度比1.4%増に抑えられた。
<3>推計上回る保険料
保険料は、3年ごとに改定される。65歳以上の保険料に関する厚労省の試算(04年)によると、介護施設の食費などを全額自己負担とし「介護予防が相当進む」場合も、全国平均の月額保険料は09~11年度4400円、12~14年度4900円に上がる。ただ、この04年時点で3900円とみていた06~08年度の保険料は4090円になっており、今後も推計値を上回る可能性が高い。
<4>賃金は全産業比6~8割
07年6月の介護労働者の賃金は、福祉施設介護職員(フルタイム)の男性で平均月給22万5900円で全産業平均37万2400円の約6割。勤続年数も4.9年で全産業平均(13.3年)を大きく下回る。男性ホームヘルパーは23万9300円。女性は施設職員20万4400円、ホームヘルパー20万7400円で、こちらも全産業平均の8割台だ。
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◇実情無視の「予防」促進--淑徳大准教授・結城康博氏
介護保険制度は本来、家族介護の負担を減らす「介護の社会化」を目指した。現状はその理念に逆行している。制度開始以来の極端な市場原理と、形だけの介護予防を導入した05年の制度改正は、「国の失策」だ。
中・高所得層が対象で採算が取れる場合は、企業間競争が正常に機能する。しかし低所得層、重い認知症や精神疾患で介護の手間がかかるのに利益の出ない人は、事業者に敬遠される。介護報酬の2回連続マイナス改定で、事業者の経営は悪化する中、不採算部門まで民間任せにしていることが、介護現場の低賃金化と人材不足の要因にもなっている。
過疎の市町村は高齢化が進み保険料が上昇しているのに、民間サービスが行き渡らない。保険料を都道府県単位にし、民間任せにするのは競争原理が働くサービスに特化して、採算の取れない分野は市町村が担う仕組みに改めるべきだ。
社会保障費削減のため、介護予防を大義名分にするのは大きな誤り。本気できめ細かな予防施策をやるには逆にお金がかかるのに、例えば「ヘルパーが家政婦代わりになっている」と生活援助を削減し、ヘルパーと一緒に家事や散歩で体を動かして状態の悪化を防いできた利用者たちの現実を無視したのが、05年改正だ。そもそも予防は「要介護というリスクが起きないため」のもの。リスクが起きた場合に備える保険制度になじまない。
特にコムスンの不正後は「介護の適正化」が強調され、事業者は介護報酬の返還命令を恐れて自主規制に陥った。不正は許されないが、利用者のニーズに沿ったサービスすら認めない自治体は少なくない。行政の指導監督に介護福祉士ら現場の人間も加え、実情に沿った判断をする体制が必要ではないか。
介護報酬の改定を来年度に控え、「報酬を上げると保険料も上がる」と二者択一論がさかんだ。しかし、無駄な公益法人の廃止などで生じる財源や、上限を10%とする福祉目的の消費税によって、介護保険の公費割合を現行の50%から60~70%にすれば、保険料は上がらない。要介護度の低い人を支援の対象外にするようなやり方は、逆に軽度者が重度化し、将来の財政負担を増大させてしまう。
官僚主導の歳出削減一辺倒から脱し、国民一人一人が「介護崩壊」を防ぐことに自覚を持ってほしい。【構成・夫彰子】
==============
「読む政治 選択の手引」は毎月1回掲載します。
==============
■人物略歴
◇ゆうき・やすひろ
社会福祉士、ケアマネジャー。昨年から現職。著書に「介護 現場からの検証」(岩波新書)など。38歳。
(出所:毎日新聞 2008年7月28日 東京朝刊)
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