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岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

「星座79号」4人競詠 夏の落葉10首詠

2016年10月06日 22時19分36秒 | 岩田亨の作品紹介
『星座』の4人競詠は巻頭の尾崎左永子主筆の作品10首に続き4人の会員がそれぞれ10首詠を出詠するもの。『星座』79号では僕を含む4人が出詠した。



 「夏の落葉」



・さわがしき幹線道路のかたわらに乾きて軽し夏の落葉は


・後味の悪い会話をしたのちにホットココアを飲むのがたのし


・時を経てかくまで固く乾きたりパレットナイフに付きし絵具は


・照明を落としし酒場にボレロ聞き体の芯が震うはげしく


・夏の夜の夢の中にて聞いている河原に響くサックスの音


・ちち・ははのDNAを継ぎしとぞ思う日の暮れ風が冷たし


・スタジオの隅まで響くを聞きいたり開放弦の太き低音


・落ち蝉の数の少なき夜半にて外階段をゆっくりくだる


・ミミズクの声低くひびく夜(よ)の卓に手紙書く手を不意に止めたり


  「尾崎主筆の批評」

 「この作者は近ごろ朗読発表することを心がけていると聴くが、この一連も、耳から入って一つの歌境を読者に伝えるという意思が感じられ、その面からいうと読者側としては「分かり易い」利点がある。同時にそれは現代語の持つ俗性を如何に排除するかの努力を伴う。「分かり易さ」が「軽み」と「属性」を帯びない努力が、次第に実を結びつつあるだろう。短歌という定型の現代詩を如何に自家薬籠中のものとするか。次なる脱皮を更に期待しよう。」


 夏の落葉はいたく印象的なものだ。落葉と言えば秋だが、夏の落葉は排ガスのためであったり、木が枯れかけたりしているのが原因となっている。いわばいわれなく絶たれた命を連想させる。この連作のタイトル「夏の落葉」は僕自身がつけた。歌集のタイトル『聲の力』と同じである。誰かの許可を得たり、誰かにつけてもらうものではないと思う。短歌が文学である以上独立した個人の産物であると思う。


 この10首で僕が表現したかったのは事実ではない。一種の寂寥感だ。そのために象徴的に使ったのが、夏の落葉、ホットココア、乾いた絵の具、酒場のボレロ、河原に響くサックスなど。


 僕はマイホームパパではない。孫の顔をめでる環境もない。90歳の母と二人暮らしだ。親戚づきあいもほとんどない。天涯孤独とは言わないが、ある覚悟はできている。


 覚悟がつくまでは時間がかかった。覚悟がついたあとは、寂寥感だけが残っている。それが短歌で表現できれば今の僕には十分だ。






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