佐太郎短歌の斬新さ(5首鑑賞)
1、鋪道には何も通らぬひとときが折々ありぬ硝子戸のそと「歩道」
2、戦はそこにあるかと思うまで悲し曇のはての夕焼「帰潮」
3、氷塊のせめぐ隆起は限りなしそこはかとなく青のたつまで「冬木」
4、冬の日の目に満つる海あるときは一つの波に海はかくるる「開冬」
5、杖ひきて日々遊歩道ゆきし人このごろ見ずと何時人は言ふ「星宿」
この5首で「佐太郎短歌の斬新さ」が語り尽くせると思う。佐太郎の青年時代は産業革命を経た時期だった。そこで佐太郎は、積極的に都市を詠った。1、がそれである。しかも見えない時間を切り取っている。当時の「アララギ」では非常に珍しかった。
佐太郎の短歌は、戦後の一時期「思想性、社会性の欠如」を指摘された。しかし2、のように「中国内戦の激化」をきっかけとした作品も残している。
また「音楽性の高さ」も、佐太郎短歌の特徴の一つだ。3、の歌のように「虚語」が「音楽性」を担保している。
また「写実派」では、土屋文明とは大きく違う。フィクションを許容している。4の作品がそうだ。季節は春から秋、それも複数の記憶に基づいている。
そして最後に、愚痴やボヤキのない「老境の歌」なんと自らを厳しいまでに直視しているのだろうか。
言葉遣いも「象徴詩」のそれに近い。いわば「写実派らしからぬ写実派」なのだ。
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