岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

吹き荒れし飢饉のあとに村人は土粥作りを語り伝えぬ

2009年10月10日 21時41分17秒 | 岩田亨の作品紹介
確か東北地方の伝承を扱ったテレビ番組だったと思う。小学生の頃の、その遠い記憶をたどってみると土粥の作り方は次のようなものだ。

1・黒土を選んで土鍋に三分の一ばかり入れる。

2・時間をかけてよく水にさらし、不純物を洗い流す。

3・土鍋に多めの水を入れ、さし水をしながら弱火で時間をかけて煮詰める。

だった。味見をした人の話によると、「薄味のさらし餡のように、ほんのり甘い味がする・・・。」

 高度経済成長期の真っただ中にいた僕にとって、この話は衝撃だった。角川「短歌」の「ふるさと」題詠に入選したものだが、選者のコメントは僕のところだけスルーされていた。初めての入選に僕は驚いたが、一番驚いたのは選者だったかも知れない。「懐かしいふるさと」という応募歌が多かったなかで、飢饉の話それも土粥を詠むなど。

 入選作の初句は「天保の・・・」だったが、歌集「夜の林檎」収録時には「吹き荒れし・・・」に改作した。歴史の学習事典ではないのだから、年号や飢饉の名前(歴史用語)はふさわしくないと思った。

 歌集出版後に一通の手紙を頂いた。長年のシベリア抑留を体験された方からだった。生死の縁を体験された人ならではの感想・批評だった。それゆえ、この一首は僕にとっての忘れ得ぬ作品のひとつになった。



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