草むしり作「ヨモちゃんと僕」前3
(秋)物置小屋の子猫⓶
「食べる物を探してくるから、おとなしく待っているンだよ。決して外に出てはいけないよ。人間に見つかると、保健所に連れていかれるからね。それから道路に出てはいけないよ。車にひかれてしまうからね」
その朝、母ちゃんは僕たちを残して外に出て行きました。僕たちは母ちゃんに言われたと通りに、バネの飛び出したソファーの下に隠れて母ちゃんを待っていました。けれども母ちゃんは夕方になっても、次の日の朝になっても帰って来ませんでした。
あの日も今日と同じように明け方から風が吹き始め、大粒の雨が物置のトタン屋根を激しくたたきました。
「母ちゃん遅いね」
待ちくたびれた僕は、姉ちゃんに言いました。けれども姉ちゃんは黙って俯いたままでした。その時物置の窓が揺れました。
「母ちゃんだ」
僕たちはソファーの下から飛び出しました。でも風が窓を揺らしただけでした。
「母ちゃんを探しに行こう」
風が何度か目に窓を揺らしたとき、姉ちゃんが言いました。
外に飛び出した僕たちは大粒の雨に打たれながら食堂の横を通り抜け、大通りの前に出ました。猛スピードで近づいて来た車が、泥水を跳ね上げて走り去りました。
「うわー」
泥水を頭からかぶったとたん、鼻の中がキーンと痛くなって、僕はしばらく息をすることも眼を開けることもできませんでした。
「行くよ」
姉ちゃんが道路に走りだしまた。
「待ってよ、姉ちゃん」
やっと息の出来るようになった僕は、慌てて姉ちゃんを追いかけようしました。その時、目の前を車が走り去りました。
「わー」
僕は弾き飛ばされて、そのままアスファルトに打ち付けられました。
気がつくと僕は道路の端に倒れていました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます