食べ物の恨み
ここ数日風邪で寝込んでいた。丈夫だけが取り柄だったのに「鬼のかく乱」である。
しばらくは市販の薬を飲んでいたのだが、いっこうに治る気配がしない。それどころ口唇の周りにヘルペスができてしまった。ヘルペスなんて一個ポチっとできただけで痛いのに、私の場合は大人の人差し指の爪くらいの大きさの中に、びっしりと赤いポツポツが……。もうこうなると痛いのを通り越して怖くなり、さすがに病院にいった。
医師には喉が真っ赤だといわれ、何種類かの薬を処方してもらい、おかげでだいぶ楽になった。もっと早くに医者に行けばよかったのか、今回の風邪が強烈だったのか、それとも歳をとったせいなのか……。
子どもの頃熱を出すと父が、桃の缶詰を食べさせてくれた。もっとも食べさせてもらっていたのは姉の方で、私はまたに食べ過ぎでお腹を壊すほかはいたって元気だったので、それを傍で見ていただけだったのだが。たぶん姉のおこぼれくらいは頂戴したのだろうが、その辺のところはまったく覚えていない。
ただある時熱が出て、ついに缶詰を買ってもらえると喜んだことがあった。だが「そんなものを食べさせるから子供がご飯を食べなくなるのだ」という母のひと言で、桃の缶詰は買ってはもらえなくなった。以来子供が病気の時に、桃缶を買うこと自体がなくなってしまった。
今思えば母の言うことはもっともなことであっが、やっと私の順番になった時にそんなことを言わなくていいじゃないかと、母を恨んだりした。
その時幾つだったのかは覚えていないが、その時のことははっきりと覚えている。食べ物の恨みは実に恐ろしいものだと思う。
「たかが桃缶、されど桃缶」
やれやれ本当に体調が悪いようだ。すっかり忘れていたことをふいに思い出してしまうのだから。そろそろ薬が効いてきたようなので、今日はこれまで。