goo追撃コラム&取材メモ【予備サイト】

かったるい話ヌキの情報発信ブログ。改革派政治家とマスコミ検証。独自取材もとに元記者が追撃する。マスコミにない情報満載

朝日「虚偽メモ事件」深層

2005年10月07日 | 長  野  県  政

田中康夫長野県知事と亀井静香衆議院議員らによる新党結成に関する問題で「長野県で会談した」とする朝日新聞長野総局西山卓記者(28)作成の虚偽メモ問題が8月29日発覚し、同記者が懲戒解雇になる事件があった。

NHK番組改変報道問題と併せて、この事件は編集局幹部が次々交代する事態となり、朝日新聞を揺るがす大問題となっている。朝日新聞はこの問題に関する検証記事を自社のホームページトップ最上段の「朝日新聞社から」というところに載せている。
http://www.asahi.com/information/release/index.html#memo

この検証記事を参照しながら、私が掴んだこれまで知られていない若干の新事実などを盛り込みこの問題を検証してみたい。
私はこの問題の真相を知っているわけではないが、長野県庁を足場にして田中県政を五年も取材しているので、その体験からこの問題について他の人より語れる部分があるのではないかと思う。

虚偽メモ問題が発覚してからマスコミ関係者に「あれはどうなってんだ?」と聞かれることが多い。ある週刊誌の記者はこのニュースが流れたその夜に、出張先のホテルから私に電話を掛けてきた。

最初に聞かれるのが、西山記者ってどんな人?というものだ。
私は西山記者個人を直接知っているわけではない。長野県庁を取材する多くの記者の中の一人としてどこかですれ違っているかもしれないが、これが西山記者だと認識したことはない。
この事件が起こってから県庁内で西山元記者について何人かに聞いてみたが知っている人は少なかった。「名刺交換をしただけ」という県職員や「一度取材を受けただけ」という議員がいた程度だ。去年4月に長野総局に来たものの、県政担当はこの4月からだからそれも当然か。地味で物静かーというのが数少ない彼の評だ。

朝日新聞は西山記者の「功名心」を事件の原因に挙げているが、これにはいくつかの疑問符がつく。いまの記者に「功名心」を持つようなタイプはそうはいない。
役人より役人体質なのが今の多くの記者なのだ。決まった勤務時間だけ仕事をし、それがすんだら自分の時間を大切にーというのが現代若者気質でもある。世間一般にある「記者像」を元にこの問題を見ると見誤る。


問題となっている8月20日、西山記者は長野県塩尻市で行われた車座集会に行っている。
http://www.pref.nagano.jp/keiei/callc/kurumaza/hp-up/20050820.htm
午後1時から3時までの予定で田中知事が塩尻市に行き、住民らの意見・要望を聞く集会だ。集会そのものは形骸化している。住民の意見に耳を傾ける知事ーのポーズを取り繕うだけのものだ。

西山元記者はここで、田中知事に亀井静香氏とどこで会ったか確認をとっておけば何の問題もなかったのだが、途中で帰ってしまっている。
なぜ帰ったか?
朝日新聞は検証記事で
http://www.asahi.com/information/release/20050915b.html
「車座集会は午後1時から始まったが、予定の3時を過ぎても終わらなかった。N記者は総選挙の話題が出そうにないと判断し、泊まり勤務に間に合うよう会場を後にした。塩尻発午後3時50分の特急に乗り、長野に向かった。」
と書いている。

集会は予定では3時に終わることになっていたが、県の車座集会担当者に私が聞くと午後3時45分に終わったという。ここでいう終わりは県の記録としての終わりであって、実際は話が終わった後10~20分ぐらい田中知事は会場にいることはよくある。この時もそうだったようだ。

田中知事の場合、予定が変更になることはよくある。予定に縛られないのをひとつの売りにしていることもあるので、わざとしている気配もあるぐらいだ。取材するにはそれを織り込んでおかなければならないが、西山記者は予定通りに終わると思っていたようだ。これがそもそもの問題だ。西山記者は記者に向いていないのではないか。

高度に政治的な話が車座集会の中で出るものではないことぐらい見当を付けなくてはいけない。亀井会談の話を聞くなら、集会終了後に狙いを定め、ぶら下がり等で聞くのが順当と思われる。午後5時に長野市に帰るつもりなら、よほどの幸運に恵まれなければ取材は成功しないーと考えなければならない。西山記者は最初からできない取材のために塩尻に行ったようなものだ。記者としてのセンスがない。

それにしても、取材を切り上げるとき西山元記者は誰かに相談しなかったのか?という疑問が湧く。普通は上司に相談し、指示を仰ぐだろう。その上で帰ったとすれば西山記者をそう責められないのではないかーと思うのだが、どうも朝日の検証記事を見ていると、近頃の朝日新聞は取材より、記者の勤務ローテーションを優先しているようだ。相談するまでもなく、午後5時から泊まり勤務になっていたので取材を切り上げて帰ったということのようだ。これにはちょっと驚く。同時にこういった感覚がこの問題の発生の土壌になっているような気がする。

取材は相手あってのことだ。相手の都合に合わせなければ取材なんて出来ないーと、思うのだが、朝日新聞はそうではないらしい。

長野総局の西山元記者がなぜ塩尻まで行ったのかも疑問だ。塩尻の近くには松本と諏訪に支局がある。朝日新聞は特別の取材態勢をとったと書いている。ならばわざわざ遠くから行く必要はない。近くのものに任せればいい。
そうしなかった理由として次のことが考えられる。この取材は微妙だから少しでも田中知事と馴染みがある記者のほうがいい、だから県政担当の記者がわざわざ行ったーということだ。しかし、これも無理がある。馴染みがあるといっても、この4月から県政担当になったばかりだ、馴染んでいる間があっただろうか?


もうひとつ分からないことがある。この日田中知事は、午前中に軽井沢駅構内でサンタ・プロジェクト(外国籍児童就学支援)の街頭募金を行っている。朝日新聞の検証記事はこれに触れていない。件の取材ならここで募金の合間をみてすることも可能だ。むしろ車座集会よりこっちのほうがいいかもしれない。地理的にも長野市からは近いし、新幹線を利用すればわずか30分ほどの距離だ。塩尻までは長野市から一時間掛かる。しかも列車の本数も少ない。なぜわざわざ遠く、不便なところに行ったのか分からない。考えられるとすれば西山記者の勤務時間の都合ということか?

朝日新聞は若い記者の「功名心」を原因に挙げている。なるほど「功名心」のために西山元記者は遠いところへわざわざ取材に行ったのかもしれない。しかし、それならなぜ途中で帰ってしまったのか?変ではないか。

社を挙げて取材していることを次の勤務があるからといって、しかも泊まり勤務という重要度の低い勤務のために、二の次にして途中で帰ってしまうのはよく分からない。記者は臨機応変、融通無碍であれーと叩き込まれる。いい取材のためだったら規則なんか無視しろーというのがマスコミのルール・・・だったはずだ。

泊まり勤務があるからといって「取材を切り上げる」というのが私には分からない。そういう言い訳を堂々と書いている朝日新聞も少し変だ。そんなのは理由にならない、どころか恥ずかしいことだ。近頃はルールが変わったのか?

「功名心」というのは世間向けの説明のためではないのか。近頃の記者にそういうものがあるとは思えない。世間の記者に対する思い込みを利用した言い逃れのような気がする。

西山元記者は28歳だ。地味で目立たない彼の性格を考えると、先輩を差し置いて功名を焦るのは考えにくい。

田中知事にじかに話をするのに気後れし、取材できなかった。そんなことを上司に言うのは恥ずかしいので、日ごろ田中知事が会見で喋っていることをメモにしたのではないか?田中知事の言うことはパターン化しているので言いそうなことを推測し、メモを作るのは簡単だ。

記者が取材対象者に気後れするなんていうことがあるのか?と思われるかもしれないが、あるのだ。朝日新聞はこの意外な事実が一般化するのを恐れるあまり、記者個人の功名心に問題の原因をすり替えた可能性がある。記者が人見知りだった日には取材の根底が問われる。全部の記事の信用性にかかわる。

朝日新聞に五十嵐京治記者というのがいる。彼は長野支局勤務の平成13年8月10日の知事会見で田中知事相手に執拗なやり取りをしているが、
http://www.ransta.jp/backnumber_2814_468874/
この数週間後の朝日新聞コラム「記者の眼」(?だったと思う)で、田中知事とやり取りするのは正直精神的に負担だーといったようなことを書いている。

虚偽メモ問題は、こんな騒ぎになると思わず、軽い気持ちで送ったメモが、思いのほか重要な記事に使われ大ごとになっているーのが真相ではないのか。

記者はメモなどたくさん上げる。上げた時点ではどのように使われるか分からない。大半は無視される。そうでなくても記事を書く上での参考にされるだけだ。生のまま使われることは珍しい。

実は記事だって出先の取材記者は最終的にどのような記事になるか分からないことがある。自分ではどうってことないと思って送稿した短い記事に、識者のコメントがつき、資料や写真が付き、大きな見出しが付いて意外に大きく扱われ、内心慌てるのはあることだ。


この問題の発端は本社から「8月13日」と日にちを特定して<亀井氏が田中知事と会談した。その場所と内容について取材しろ>と長野総局に要請があったことにある。

本社からそう言われれば、それなりの根拠があるのだろうーと思うのが普通だ。それが西山記者に虚偽メモを書かせる後押しになったのではないか?


話が長野や田中知事にばかりにいっているが、朝日新聞は亀井氏側に取材はしなかったのだろうか。亀井氏が選挙前の忙しい時期にわざわざ長野まで行くのも変な話だ。長野まで行くとなればそれなりに時間もかかる。亀井氏のスケジュールを確認すれば分かる話ではないのか。その辺のことについて朝日新聞の検証はほとんど触れていない。

「虚偽メモ」の前に、それを誘発することになった「虚偽情報」のほうも問題にすべきではないのか。また、虚偽メモを元に記事を書いた記者。そして、掲載してしまった立場のものの責任も重いはずだが、これについては誰がどういう風にーという説明されていない。ひとり、西山元記者だけの問題が具体的に説明され、責任を押し付けられているように思える。

西山元記者はこの事件の主犯のようになっているが、実は主役ではない。ホンの端役だが、目立つところに座らされてしまっただけのような気がする。責めを負うべきは、長野で田中・亀井会談があったと長野総局に知らせたものであり、上がってきたメモを鵜呑みにして記事を書き、掲載してしまったものにあるだろう。

この事件で実害を受けたものは誰かと考えると誰もいない。朝日新聞が勝手に騒いで勝手に転んでいるだけだ。田中知事も亀井氏もたいした害は受けていない。ありもしないことを言われたーというだけだ。名誉を毀損されたわけでも、経済的損失を蒙ったわけでもない。政治家として信用を失ったということもない。


朝日新聞は調査委員会を設けて二度とこのようなことがないようにしたいーとお定まりのことを言っているが、真相究明の熱意は感じられない。真相を明らかにする気があるなら、西山記者を解雇する前に会見させ、洗いざらい喋らせればいいのだ。しかし、それでは朝日新聞は具合が悪いのだろう。お気に入りの識者を選んで調査委員会を設置し、ほどほどの真実を発表して一件落着としている。

騒ぎが大きくなり、処分が重くなったのは朝日新聞が書いているように、田中知事から強い抗議を受けたせいだろう。一流ホテル代を踏み倒す田中知事のことだから、どんなクレーマー振りを発揮したのか想像に難くない。

相手が田中知事でなければ、朝日の幹部が知事に頭を下げて「一点借り」で済む話だ。
田中知事はマスコミ操作を露骨にしている。
SBC・水野正也記者、中日新聞・石川浩記者、共同通信・伊藤豪記者などがその実例だ。
http://members.goo.ne.jp/home/tuigeki
SBC記者が、議員名挙げて選挙で”落とせ”と田中知事にメール
http://blog.livedoor.jp/tuigeki/archives/13385387.html

田中知事はこれらの記者に飴を与えることによって情報コントロールを行った。朝日記者のクビを獲った田中知事は飴だけでなく鞭を手にしたことになる。これはある意味田中知事にとって”勲章”でもある。たったこれだけのことで朝日記者のクビを獲った田中知事には怖くて近づけないーという思いを朝日だけでなく多くのマスコミ記者は持つだろう。朝日の罪は虚偽メモ記事を掲載したことより、田中康夫に鞭=勲章を与えたことのほうが大きいような気がする。
これは朝日のとんでもないオウンゴールだ。


最新の画像もっと見る