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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

溶融スラグのJIS化について(私見)

2007年10月07日 | 溶融スラグ
 遅れに遅れ、ひょっとして実現不能と思われていた溶融スラグのJIS化が06年7月20日にあっさり通っていました。規格名称は「一般廃棄物、下水汚泥又はそれらの焼却灰を溶融固化したコンクリート用溶融スラグ骨材(規格番号JIS・A5031)と、同じ文脈による「道路用溶融スラグ」(規格番号JIS・A5032)です。要するにコンクリート骨材と路盤材に溶融スラグの規格を決めるJIS化作業を行ないました、ということです(詳細は別表を参照してください)。
 もともとこの話(溶融スラグのJIS化)は2002年のTR制度の中に組み込まれていたもので、その有効期限は3年間でした。ちなみにTRとは技術情報などを早めに公開することによってJIS化の前提となる合意形成を促進させることを目的とした、いわば環境版仮免制度のようなものです。したがって本来なら3年後、つまり2005年7月までにJIS化作業を終えておくことになっていたのにその論議が紛糾していたということなのです。では何がどう揉めたというのでしょうか。
 経済産業省や業界関係者の話を総合してみると議論の焦点は産廃、とりわけ「シュレッダーダスト(ASR)の溶融スラグを含めるかどうか」という点にあったようです。ただしこれもかなりいい加減なところがあって、たとえば小生も調査してきた香川県豊島(直島)の溶融スラグが高松港の造成に使われていました。品質が保証されるならそれでもいいということです。それはともかく、問題になったのは溶融スラグ中の溶出量と含有量をめぐる意見の不一致でした。特に鉛については1,500℃~1,800℃ぐらいの高温で飛灰の方に移行させ、それを山元還元(精錬)すればいいなどという意見も出たといいます。メーカーによっては出てきた飛灰を再び溶融炉に投入しているケースもあり、スラグの品質はますます劣化する一方でした。
 ある中部地方在住の技術者(匿名)はJIS化される以前、「自治体の溶融スラグによっては事故の発生などもわずかながら報告されており、コンクリート骨材として何ら問題がないとはいいきれない」とやや控えめな警告を発していました。溶融スラグの用途はコンクリート骨材と路盤材の二つがあり、将来を考えたら含有量数値も厳しく設定すべきでしょう。

 JIS化推進を強力に進めたがったのは日本産業機械工業会(エコスラグ利用普及センター)で、その会員には日本を代表するプラントメーカーの大半、道路会社、ゼネコンなどが参加していますが、各都道府県も会員になっています。もうひとつはコンクリート業界です。これら「つくる側」がJIS化を急いだのは当然の話ですが、ある有力業界誌の編集長によると産廃関連のスラグ製造者は「JIS化されることでヤブ蛇になる」と(JIS化に)不賛成だったそうです。つまりスラグの品質に責任が持てないからでしょう。今回のJIS化が一般廃棄物由来に限定されたのはそんな理由からのようです。
 そこで問題になるのが「使う側」の事情ですが、「お墨付きが出た。ではどんどん使おう」という市町村が今後増えるのでしょうか。JIS化という大義名分が立った以上、経済行為ですから使ったほうがいいに決まっていますが、いまは環境レスポンシビリティといいますか、後で何か不祥事が起こったら誰が責任をとるのかという問題がついて廻ります。前出の技術者はこうもいっています。「本来工業製品としての規格であるJIS化にあたっては単に『現在不具合が出ていないからよい』というものでは十分ではなく、『こんな品質のコンクリート製品の品質は現時点ではこうだ』という数多くのデータがまだまだ必要で、各種データがないままのJIS化はあまり意味がないように思います」。
 なお同じ溶融スラグでも産廃由来のJIS化は見送られました。理由は「性状が複雑でデータの蓄積が不十分」というものです。
 最後に独立行政法人・国立環境研究所の貴田晶子・廃棄物試験評価研究室長に見解をお聞きしたところ、次のような答えをいただきました。
 「これまでJIS化されないことが不安材料になっていたという面はあります。といってJIS化は必ずしも安全性を保証したものではありません。絶えず厳密なモニタリングが行なわれることでその主旨が生かされるのです」。
 多分今後、JIS化問題は行政側と市民との鋭い対立点になるに違いありません。いま、行政側に決定的に欠けているのは設置者責任と、運用者責任です。わずか3年か、4年の人事異動で前にやった仕事の責任がチャラになってしまうような体制が続く限り、JIS化を錦の御旗にさせるべきではありません。

グラフは PDFファイルで~
溶融スラグのJIS化について(私見)

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