先週明らかになった「生コンへの溶融スラグ使用」問題ですが、もともと溶融スラグはレッキとした廃棄物であり、これをJIS化したこと自体が間違いでした。連日積み上がってゆく溶融スラグを目前に危機意識を持った企業・行政の焦りがそうさせたのでしょう。
◆ポップアウトが起きた
ちなみに建築基準法37条によると、柱、壁など主要構造物には「JIS規格に適合したコンクリートを使うよう」定めており、生コン(正式にはレディミクスドコンクリート・略してレミコン)については使用禁止となっています。生コンとはまだ固まりきらないコンクリートですから溶融スラグの配合率など決めようがありません。新聞でも報じられたようにこの業界が最も忌み嫌うポップアウト現象を起こすからです。神奈川新聞によれば「建設中の6階建てマンションと藤沢市内の自動車工場の工事で壁に直径数センチの穴やコンクリートの表面が剥がれる」現象が起きたそうで、これがポップアウト現象です。
古くからの知り合いで、現在大手セメント会社の部長をしている方が嘆息まじりにメールを入れてくれました。「自らのモノづくりに誇りのない輩が増えていることを、製造業に身を置くものとしてたいへん嘆かわしく思います」。
◆タダ同然の骨材
「六合(ムツアイ)コンクリート」という企業は藤沢市内でかなりな有力企業らしく、昨年(07年)以降横浜、藤沢、鎌倉、茅ヶ崎、大和など300ヶ所以上の建築現場などに生コンを納入。かの「美男におわす鎌倉大仏」のトンネル整備などの公共工事も引き受けたといいます。
ある大手セメント会社によると溶融スラグを使った原因は一にも二も経済性です。通常、生コン(ミキサー車でおなじみですが)に使う土砂も値段が上がり、1リュウベ(1立方メートル)あたり4,000円から5,000円もするそうですから、どこの自治体も持て余し気味の溶融スラグならタダ同然で入手できるのです。しかもこの発覚は県内工事業者による国交省への通報だそうですから、まさに土建業界における船場吉兆問題か、鰻産地の偽装事件というべきでしょう。ちなみに生コン業界も不況にあえいでいるといいます。1988年時点がピークで全国に5,404工場。ところが昨年3月時点では4,110工場に減っています。
◆溶融スラグ中の生石灰
もうひとつ気になるのはポップアウトの原因が「溶融スラグ中に残留した生石灰」だということです。いうまでもなく高温溶融の流動性を高めるためには生石灰の添加が不可欠であり、JIS化に当ってその辺の論議があったのかどうか定かではありません。つまりこの手の話には「何が起こるかわからない」ということで、やってはいけないことはやるべきではないのです。官庁が集める有識者にもいろいろな方がいますからね。
別のブログに「溶融スラグはどこから持ち込まれたのか」という疑問が出されていましたが、横須賀に自治体の焼却灰溶融を一手に引き受ける大手産廃業者があり、多分出所はそこだろうというのが地元の噂です。神奈川新聞も「同社(六合)が不正を始めたとされる昨年7月以降、横須賀市内のリサイクル業者からスラグを無料調達していたことが9日、分かった。六会コンクリートが昨年7月から今年6月までに無料調達したスラグは約9,350トン。このリサイクル業者が通常は1トン当たり200~500円で供給するスラグを無料としたのは『スラグの認知度を高め、新たな取引先を開拓する』ためで、無料提供先はほかにもあるという」と報じています。
◆東京ドーム12個分
以上の事実が語るように、官民あげてJIS化についての激論を交わしたにも関わらず、日ごと山積みになってゆく溶融スラグが順調に捌けている気配がないことです。ところが昨年(07年)この問題に決着がつくかのような動きがありました。
栃木市西北部の大谷石採石跡に溶融スラグを投入しようという話です。平安時代から採掘が行なわれていたという同地域に存在する廃坑(空洞)は東京ドーム容積(124万m3)の12個分といわれていますが、地元の古手議員に言わせれば「とてもそんなものじゃない」そうです。すでに地元では四半世紀以上にわたって地元住民や議員、石材商、企業、役所などが廃坑を埋めるのに土砂を使うか、残土にするか、焼却灰、あるいは安定五品目(産廃)を投入するか、などの論議が続けられてきたのです。
そんなところに登場してきたのが小泉流規制緩和の白眉ともいうべき「構造改革特区構想」でした。
◆処理料を貰う
この話は一部企業や議員が首相官邸などに働きかけ、「溶融スラグを大谷地区に限り、廃坑に埋めてもよい」というお墨付きを獲得したというものです。その準備が如何に用意周到だったかは関東一円や福島・新潟などの自治体について地元有力者が溶融スラグ排出可能量を調べ上げていたことでも明らかです。むろん「排出可能」イコール「タダで提供してくれる」ことを意味しませんが、問題の議員に会って話を聞いたところ「いや、どこも(溶融スラグを)持て余しとるよ。そこで大谷という格好の処分場が見つかったわけだから、我々は処理料金をつけてもらって全量受け入れるということだ」と答えました。
それが実現すればまことにおめでたい話ですが、やや面子を潰された形の環境省は「一般廃棄物の処理業と施設許可をとって宇都宮市自体が事業申請する」という条件をつけました。そのため、地元との調整がまったくまとまらず、この話は先延ばしになってしまったのです。もはや小泉の神通力もなくなりましたからね。
◆問題を矮小化するな
ちなみに当時、溶融スラグ提供可能な自治体の一覧を挙げればさいたま市、前橋市、東金市、八千代市、川口市、横浜市、八王子市、所沢市、大月市、上越市、大田原市、いわき市、東埼玉資源環境組合(越谷市)、潮来市など30を超える自治体で、構想では大谷地区から100km圏の自治体から15万6,000トン、150km圏の自治体から2万5,900トンを集めるという試算になっていました。
如何に溶融スラグ問題の根が深いかを物語る数字ですが、マスコミも一部不良業者の違法問題に留めず、もう少しことの背景に迫る姿勢が必要と思います。
◆ポップアウトが起きた
ちなみに建築基準法37条によると、柱、壁など主要構造物には「JIS規格に適合したコンクリートを使うよう」定めており、生コン(正式にはレディミクスドコンクリート・略してレミコン)については使用禁止となっています。生コンとはまだ固まりきらないコンクリートですから溶融スラグの配合率など決めようがありません。新聞でも報じられたようにこの業界が最も忌み嫌うポップアウト現象を起こすからです。神奈川新聞によれば「建設中の6階建てマンションと藤沢市内の自動車工場の工事で壁に直径数センチの穴やコンクリートの表面が剥がれる」現象が起きたそうで、これがポップアウト現象です。
古くからの知り合いで、現在大手セメント会社の部長をしている方が嘆息まじりにメールを入れてくれました。「自らのモノづくりに誇りのない輩が増えていることを、製造業に身を置くものとしてたいへん嘆かわしく思います」。
◆タダ同然の骨材
「六合(ムツアイ)コンクリート」という企業は藤沢市内でかなりな有力企業らしく、昨年(07年)以降横浜、藤沢、鎌倉、茅ヶ崎、大和など300ヶ所以上の建築現場などに生コンを納入。かの「美男におわす鎌倉大仏」のトンネル整備などの公共工事も引き受けたといいます。
ある大手セメント会社によると溶融スラグを使った原因は一にも二も経済性です。通常、生コン(ミキサー車でおなじみですが)に使う土砂も値段が上がり、1リュウベ(1立方メートル)あたり4,000円から5,000円もするそうですから、どこの自治体も持て余し気味の溶融スラグならタダ同然で入手できるのです。しかもこの発覚は県内工事業者による国交省への通報だそうですから、まさに土建業界における船場吉兆問題か、鰻産地の偽装事件というべきでしょう。ちなみに生コン業界も不況にあえいでいるといいます。1988年時点がピークで全国に5,404工場。ところが昨年3月時点では4,110工場に減っています。
◆溶融スラグ中の生石灰
もうひとつ気になるのはポップアウトの原因が「溶融スラグ中に残留した生石灰」だということです。いうまでもなく高温溶融の流動性を高めるためには生石灰の添加が不可欠であり、JIS化に当ってその辺の論議があったのかどうか定かではありません。つまりこの手の話には「何が起こるかわからない」ということで、やってはいけないことはやるべきではないのです。官庁が集める有識者にもいろいろな方がいますからね。
別のブログに「溶融スラグはどこから持ち込まれたのか」という疑問が出されていましたが、横須賀に自治体の焼却灰溶融を一手に引き受ける大手産廃業者があり、多分出所はそこだろうというのが地元の噂です。神奈川新聞も「同社(六合)が不正を始めたとされる昨年7月以降、横須賀市内のリサイクル業者からスラグを無料調達していたことが9日、分かった。六会コンクリートが昨年7月から今年6月までに無料調達したスラグは約9,350トン。このリサイクル業者が通常は1トン当たり200~500円で供給するスラグを無料としたのは『スラグの認知度を高め、新たな取引先を開拓する』ためで、無料提供先はほかにもあるという」と報じています。
◆東京ドーム12個分
以上の事実が語るように、官民あげてJIS化についての激論を交わしたにも関わらず、日ごと山積みになってゆく溶融スラグが順調に捌けている気配がないことです。ところが昨年(07年)この問題に決着がつくかのような動きがありました。
栃木市西北部の大谷石採石跡に溶融スラグを投入しようという話です。平安時代から採掘が行なわれていたという同地域に存在する廃坑(空洞)は東京ドーム容積(124万m3)の12個分といわれていますが、地元の古手議員に言わせれば「とてもそんなものじゃない」そうです。すでに地元では四半世紀以上にわたって地元住民や議員、石材商、企業、役所などが廃坑を埋めるのに土砂を使うか、残土にするか、焼却灰、あるいは安定五品目(産廃)を投入するか、などの論議が続けられてきたのです。
そんなところに登場してきたのが小泉流規制緩和の白眉ともいうべき「構造改革特区構想」でした。
◆処理料を貰う
この話は一部企業や議員が首相官邸などに働きかけ、「溶融スラグを大谷地区に限り、廃坑に埋めてもよい」というお墨付きを獲得したというものです。その準備が如何に用意周到だったかは関東一円や福島・新潟などの自治体について地元有力者が溶融スラグ排出可能量を調べ上げていたことでも明らかです。むろん「排出可能」イコール「タダで提供してくれる」ことを意味しませんが、問題の議員に会って話を聞いたところ「いや、どこも(溶融スラグを)持て余しとるよ。そこで大谷という格好の処分場が見つかったわけだから、我々は処理料金をつけてもらって全量受け入れるということだ」と答えました。
それが実現すればまことにおめでたい話ですが、やや面子を潰された形の環境省は「一般廃棄物の処理業と施設許可をとって宇都宮市自体が事業申請する」という条件をつけました。そのため、地元との調整がまったくまとまらず、この話は先延ばしになってしまったのです。もはや小泉の神通力もなくなりましたからね。
◆問題を矮小化するな
ちなみに当時、溶融スラグ提供可能な自治体の一覧を挙げればさいたま市、前橋市、東金市、八千代市、川口市、横浜市、八王子市、所沢市、大月市、上越市、大田原市、いわき市、東埼玉資源環境組合(越谷市)、潮来市など30を超える自治体で、構想では大谷地区から100km圏の自治体から15万6,000トン、150km圏の自治体から2万5,900トンを集めるという試算になっていました。
如何に溶融スラグ問題の根が深いかを物語る数字ですが、マスコミも一部不良業者の違法問題に留めず、もう少しことの背景に迫る姿勢が必要と思います。