今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

熊倉山・酉谷山

2005年12月12日 | 山登りの記録 2005
平成17年12月9日(金)

 今年も残るところ20日と少し、今月に入ってから強い冬型が続き1月上旬の陽気だという。先日は見渡せる周囲の山全てが真っ白になるくらい、山は既に厳冬期に入っている。登れる山も少なくなってきた。それでも、先月赤火岳などに登ってから山に行っていないから、登れそうな山をあれこれと調べていた。
 酉谷山。今年の5月に三峰から雲取までピストンした時に、霧藻ヶ峰辺りから大血川を挟んで、高くは無いけれど形良く聳えている酉谷山を見て、ぜひ登ってみたいと思った。残念ながら、雪が多くて通いなれた山方面はもう行けそうもない。
酉谷山だけでは面白くないから、尾根続きの熊倉山から往復ピストンで行くことにした。熊倉・酉谷間は一般登山道扱いでは無いと言うことだが、ネットの情報でも特に問題は無いと思われた。

 9日に休みを取った。前夜発、秩父までだから2時間少しで行ける。秩父市内のスーパーは夜遅くまで営業しているので、そこで食料を調達した。秩父から旧荒川村(今は秩父市内)の白久という駅を目標にしてR140を走る。白久駅から熊倉山登山口がある城山峠への林道を見つけて、伐採地の城山峠に着いた。今回、熊倉山に登る最短ルートということで、秩父方面から3つある登山道の一つ城山ルートを選んだ。ここに来るまでにあった看板によれば、他の2つのルートは現在林道工事のために通行禁止になっているようなので、結局今は城山ルートを使ってしか熊倉山には登れないようだった。
 城山峠は伐採されたいかにも峠といった地形の場所で、林道が頂上部だけ少し広くなっていたから、ここに車10台くらいは停められそうだった。直ぐ前に登山道入り口の看板があり、「熊出没注意」と書かれた2つの大きなプレートが目立った。空は満点の星空、風も無く晴れている。アラームを6時にセットして眠った。

 6時にアラームで目覚めたが、まだ周囲は薄暗い、もう少し眠ることにしてシュラフを被る。
結局6時半に起きだし、いなり寿司などを食べ、支度をして出発した6:50。思ったほど寒くは無い、大血川方面の下の方から熊の声らしい音が直ぐ近くに聞こえている。ここまで登ってくるとも思えないが、あまり心休まらない。伐採された荒地にはうっすらと雪が積もっている。ここから見える、熊倉山方面から西に下っている尾根にも樹下に白く雪が見えていた。熊ベルをちんちん鳴らしてヒノキの植林を行くが、時々意味も無く声を出して自分の存在をアピールするのだった。熊に聞こえたかな?
 いきなりの急登で始まったが、ジグザグを切った後もかなりの傾斜の登りが続いた。伐採跡からヒノキの植林を抜け、左手に植林帯で右手が雑木に変わった後も尾根筋に出るまでは、ずっと急な登りだった。この山は市街地から急に高まったところで、登るにつれて朝の下界の生活音が聞こえてきた。里の直ぐ上の山だ。
 熊倉山に繋がる尾根の突端に出ると、秩父の市街が木の間越しに見下ろされ、向かいに武甲山がシルエットになっていた。直ぐ東隣の尾根は急峻で、ザイテングラードから見る前穂高のように階段状にピークを高まらせて、上の熊倉山頂付近(頂上辺りは見えない)に突き上げていた。大分尾根は痩せてきて、時々露岩が出るようになり、北面の日当たりが無いところには10センチほどの積雪があった。先日の寒波で、この方面にもかなりの積雪があったようだ。見上げる熊倉山頂付近は北面が真っ白だ。前穂高の様な向かいの支稜も、木の下に積雪が見えた。急峻なコブを越えると、日野からの登山道の分岐があったが、この道は通行止めで塞いであった。更に尾根は痩せてきて、最後までこの山は急な登りだった。9:20熊倉山頂に着いた。

 イヌブナやダケカンバにヒノキが混じる樹林の中に熊倉山の山頂があった。低木層にはリョウブやアセビが多い。樹木に囲まれてやや薄暗い雰囲気の山頂には大きな岩がいくつか中央にあり、三等三角点と錆びた山名看板があった。頂上は南北に細長く平坦で、道の途中といった感じ。登山道から飛び出した山頂の北端に、木製の登山道案内図と白久から登ってくる登山道に日野・城山登山道を示す標識があり、北西方面の展望があった。樹林の切れ間から、この春に登った懐かしい和名倉山がよく見えた。やはり、雪で真っ白になっている。三角点の先に進むと、真新しい奉納札が置かれた祠があり、平坦な山頂部はここで西に鍵の手に曲がって少し先で終わっていた。何となく、この山だけを目的に来たのでは物足りない雰囲気の山頂だった。
 最初の計画では、熊倉山まで約2時間と思っていたのだが、2時間半たっぷりかかった。どうしても、この距離とこの傾斜ではこれ以上早く登ってこられそうもない、今日の行程はやや時間修正をしなくてはならない。積雪も、この先酉谷山まで増えこそすれ減ることは無いだろうから、これもタイムオーバーをする要因だ。場合によっては酉谷山まで行けないという可能性も出てきた。取りあえず、水を飲んで食べ物を少し口に入れた。

 9:28熊倉山頂から、赤テープを目印に酉谷山への尾根に入る。アセビとリョウブの茂みを一気に下った。今朝登り初めから雪の上に付いていたトレッキングシューズの足跡は、熊倉山で終わっていた。寒波の積雪の後で、熊倉山を往復した登山者が一人いたようだ。この先は雪に人の足跡は全く無かった。トレースは無かったが、コースははっきりとしていて登山道と変わらないレベルの歩き良さだ。赤テープやビニールひもが要所にあるから歩くのに全く不安はなかった。熊倉山を下って、登り返したピークは尾根が二分して下り道が不明瞭だった。行きも帰りも、ここで間違えてしまって行ったり戻ったり時間ロス。このピークの頂上部は低木が茂って見通しが利かず、大きな岩がコースを分断しているから良くわからなくなるのだった。この先は、石灰岩の岩稜に樹木が茂って痩せている。雪があるので、岩場は滑らないように注意が必要だ。落ちればかなりの急斜面だから、相当なダメージになりそうだ。痩せた岩尾根の上下をしばらくで、やや尾根は広くなる。振り返ると、もう熊倉山は遠くに見えている。代わりに行く手の樹林越しに酉谷山と長沢背稜が逆光で見えてきた。
 
 飛び出したところは石灰岩の岩頭が樹林から頭を出した大変眺めの良いピークだった。2万5千図で見ると、熊倉山と1,451㍍ピークの間、コンターから見て約1,440㍍のピークだと思われる。ここからは大血川を挟んで三峯妙法ヶ岳から白岩・雲取山まで真正面に大きく、その向こうに和名倉と唐松尾山、雁坂嶺から甲武信方面、両神山や上武国境稜線の山々とそれに繋がる上信国境の山(蟻ヶ峰・大蛇倉・赤火岳も見えた)、西上州、浅間や遠く草津白根から谷川岳、榛名、赤城と日光山群までずらりと並んで、素晴らしい眺めだった。薮を先に行った北面からは、これから向かう酉谷山が大きく、長沢背稜の稜線が雲取まで繋がっていた。張り出した岩頭なので、テラスのような雰囲気だ。今日は風もなく、穏やかな日和で日差しが暖かかった。ここで小休止とした。おそらくここが今日一番眺めの良い場所だろう。今日の目玉である「おはぎ」を食べた。誰もいない静かな岩の上で最高の眺めを前に、気分は上々だった。10:27眺めの良い岩頭から下り、再び酉谷山に向かう。岩頭から見た加減では、この先に黒木に覆われた細長い1,451㍍峰があり、そこから2つの尖ったピークを越えて行かなくてはならない。時間は予定よりオーバー気味で、かなりの積雪がありそうだから楽ではなさそうだ。

 岩頭を下りきると、平坦でやや広い尾根がしばらく続く。秩父市側はヒノキの植林で大血川側はダケカンバや雑木の斜面だ。ヒノキの樹間から遠く秩父の市街が見下ろせた。雪が大分多くなってくる。急峻な1,452㍍峰を越えると、急に広くなった尾根にスズタケが薮状になってきた。背丈を超すスズタケの葉の上に積もった雪が落ちてきて、雪だらけになる。雪は気温が上昇しているので、直ぐに融けて服やズボンは濡れてきた。毛糸の手袋もびっしょりになった。薮は大したことはないが、この落ちてくる雪には閉口だ。枯れ枝を杖にして、それでスズタケの雪をたたいて落としながら進むので、時間が掛かってしまう。この辺りは尾根が広く迷い易そうだが、ルート自体はハッキリしていて不安はない。スズタケは時として2㍍以上の高さで、トンネル状になっている。ルートの雪の上にはウサギや、シカの足跡が沢山付いていた。動物も歩きやすいこの踏み跡を利用しているようだ。酉谷山に近づく辺りには熊の足跡もあった。
 スズタケの薮も終わり、小黒と名付けられたピークをよじ登る様な登りになった。この小黒は酉谷山と双耳峰の様なピークで、初めは巻くものと思ったが、実際には忠実にこの極めて急峻なピークも登っている。雪にロープが埋まった、滑り台のような急な登りをしばらくで、小黒頂上部の窪みの様な地形の場所に出た。この辺りはコメツガなどの原生林で、ようやく奥深い山の雰囲気になってきた。

小黒から一旦、酉谷山との鞍部(大血峠)に下る。この辺りで積雪は20㌢を楽に越えている。広くて迷いやすそうな斜面をルートは右回りに回り込んで、長沢背稜の稜線から遠ざかり、後はほぼ直登してようやく待望の酉谷山頂に12:52に到着した。歩き始めてからほぼ6時間を要した。少なくとも、初めの予想より1時間は遅かった。初めの予想が少し甘かったのかも知れない。エアリアマップで破線扱いのコースだけど、なんと言っても東京近辺のハイキングエリアだからとタカをくくって甘く見ていた。コースの難易度はともかく(薮は問題ないし、迷うような所も無い)、アップダウンが多くてそれにはいささか辟易した。

 酉谷山の山頂に立って初めて南の展望が開けた。ここから見える山々は、東京近郊のハイカーには馴染みの深い山なのだろうけど、ぼくにとっては未知の領域。わざわざ、人が沢山居る山に人口密度が低い地域から遠征するほど魅力も感じないから、足が向かなかったのだった。こうして見ると、やはり人目を惹くほどの峻峰も見あたらないし、見ようによっては穏やかで親しみ易そうな山塊だ。この酉谷山は奥多摩最奥で、東京のハイカーにとっては健脚向きの静かな山ということだが…。すぐ向かいの山には林道が中腹まで上っていたし、見えるその先には町が広がっていて、里山+αくらいの山という印象だ。この山がある長沢背稜も、人の往来が少ない山域らしいが。秩父側から目指してきた酉谷山の奥深い山という印象は、こちら側には感じられなかった。
 本来は全山樹林に覆われた山なのだろう。頂上の南側が伐採されて、その方面だけ広く展望があった。時間がかかった分、そんなに長居はできないから、持ってきた食料で空腹を満たすと13:20山頂を後にした。

 小黒に登り返し、滑り台の様な雪溝を下って、またしばらくでスズタケの薮になる。今度は行きと違って笹の上に雪が無かったから、ずんずん直進した。そのまま1,452㍍峰を一気に越え、また広い尾根を進んで、帰りはもう既知のコースで自分の足跡が雪にくっきり残っていたから飛ばした。1,451㍍峰は見上げるほどにそそり立っているが、却って楽しく登っていった。石灰岩のやせた露岩の尾根は、帰りは下りが多くなり雪で滑りやすいので慎重に通過した。
 
 再び立った見晴らしのいい岩峰で一休み。振り返れば、午後の陽にやや赤くなりかけた酉谷山がもう遠くなっていた。早い日暮れが近づいている、今、太陽は丁度雲取山の上あたり。それにしてもこの場所は、まれに見る好展望のスポットだ。静まりかえった周囲の山々は、冴えた絶景を惜しげもなくぼくに与えてくれるのだ。ああ、こんな景色を独り占めできると、またぼくの「山恋し」の病は重くなるんだよな。こういうのが幸せの瞬間というのだろうかと、またもや少しずつおかしくなっていくのだった?

 思う存分景観を楽しんだ後は、更にペースを上げて戻った。なにしろ、この時期は4時半で暗くなる。少なくとも、暗くなるまでに熊倉山を下りたかった。行きに間違った、熊倉の直ぐ手前の小ピークでまた少し間違った。ここはコースがほぼ直角に曲がり、先が分かりにくくて勘違いしやすい所だ。ここを通過すれば、後は問題なく熊倉山に戻ってきた。時間は、もう4時を回った。やや薄暗くなって、奥秩父の主稜線の辺りまで太陽は下がってきた。熊倉の下りも急で足場が悪い。どうにか暗くなるまでに植林のジグザグ下りまで降りた。すっかり山陰に暗くなった秩父市街の夜景が見えるようになった。樹間からシルエットになった両神山がとても崇高で美しく見えた。
 最後はヒノキの暗い道で、とうとう足元が怪しくなりヘッドランプを点けたが、5時15分に車まで戻ってきた。どうにか真っ暗闇になる寸前の到着だった。距離もアップダウンも結構なものがあったが、疲労度は中程度、少し余力を残しての帰還で気分も良かった。

帰りは武甲温泉で汗を流し、秩父で食事をして、静かで楽しい山行は終わったのだった。

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