今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

蟻ヶ峰・大蛇倉山 その1

2005年11月30日 | 山登りの記録 2004
平成16年11月17日(水)

 蟻ヶ峰とか大蛇倉山なんて名前は全く知らなかった。これらの山は長野県側からも、群馬県側からも過去の山行の折り何度も見ている。この山域としてはかなり高い2,000㍍近い山々が並んで群馬と長野の県境を作っている。今まで、漠然と見ていたせいもあるかと思うが、特に抜きんでて目立つピークもなく、どちらかといえば凡庸な山並みのように感じていた。とはいえ、上野村に属する群馬県の山であるから、気にはなっていた。しかし、何よりの理由は、今までどんな地図を見てもこれらの山に山名の表記が無いことと、どんなガイドブックや登山地図・国土地理院の地形図にさえ登路記号もコース紹介も書かれていないことだった。やはり名前のない山に登ろうとは普通考えないものだろう、まして過去にこれらの山に登った記録さえ読んだことはない。

いわゆる登山で「山域」として分類される、奥秩父・西上州・佐久などの、いずれのエリアにもこの山々は属していない、というより登山対象として全く無視されているのはどうしてなのだろうか?この県境の両側、群馬県側は西上州として昨今中高年登山ブームの人気エリアでもあり、長野県側は或いは西上州という名前に大きく括られてしまう事も多いが、古くから佐久の山として御座山や茂来山・男山や天狗山などガイドブックにも紹介されている。また、長野・埼玉・山梨にまたがる奥秩父も登山のメインエリアとして多くの登山者があふれているのにだ。この辺り、西上州にあってはほぼ1,500㍍以下の山が中心で、小さくとも岩場など変化が多くそれが魅力になっているのだが、隣接している奥秩父は2,000㍍級の山がずらっと並び、2,500㍍近いアルペン的な山頂部を持つ山々も連なる中にあって、これらは全く陽の当たらない忘れられた地味で無名な山並みだろう。

群馬・長野・埼玉三県境の三国峠に近い三国山(二本木の頭)だけは昔から地図に標記もあり、峠から簡単に登れる山で、昔登ったことがある。通常この山までは奥秩父に属しているようだ。日航機が墜落して一躍有名になった御巣鷹山は、実を言えば地図に墜落した地点の山名が書かれていなかったために、少し離れた別の山であったにもかかわらず、間違ってか便宜上かの都合でそう呼ばれてしまっただけで、最近では御巣鷹山はこの山の名称ではない別の山だから、「御巣鷹の尾根」とか、訳のわからない勝手な名前が付けられている。しかし、これとても正しくはないのだろうが、今更正しい名前と言ったところで、もう御巣鷹山で世間ではすっかり定着してしまっている。この辺り、国土地理院の地形図に名称が付けられている山は数少ない、わずかにその御巣鷹山と対岸の諏訪山ぐらいだ。或いはもう少し上野村の中に入る品塩山とマムシ岳などあるが、これらも登山対象にはなっていない。これらの中で登山の対象はわずか諏訪山のみ、後は登路のない藪山。これがつい最近まで知っていた情報の全てだった。

最近ネットで情報を得ることが多いが、品塩山やマムシ岳、そして県境のぶどう岳に登った記録をいくつか読んでいる。しかし、この県境にあって一番高いこれらの山の登山記録はついぞ見ない。
ダイソーの分県別100円地図の「群馬県」を買ったら、三国山続きの、この辺りとしては一番高い1978㍍峰に蟻ヶ峰という名前が付いていた。この山に名前があるのを知ったのは、実はこの地図が初めてだった。そして、その名前はとても魅力的に響いたのではあるが、登れない山として自分のインデックスに括られていた。昨年、小川山に登った際、直ぐ近くの長峰が登りたい山として急浮上した(これは勘違いで本当に魅力的に見えたのは大原平の頭という別のピークだった)のだが、それとは別に長峰の向こうの群馬県との県境付近に台形に高く形の良い見事な山を見た。長峰とともに気になったが、情報はなかったし、その山が蟻ヶ峰だと確認できなかったから印象に残りはしたものの、取りあえずその時はそれで終わった。ところが、今月になって五郎山と長峰に登り、五郎山の山頂から再びこの見事な台形の山を見て、俄然気になったのだ。家に帰ってからいろいろ調べたが判らず、本屋で開いたエアリアマップからその山こそが蟻ヶ峰であることを知ったのだった。

長峰は登山道のない山だったが、どうにかそんな自分としてはハードルの高い藪山に登れたこともあって、地図を見たところ三国峠への道路から沢を詰めるか、ゆるく延びた尾根を辿れば容易に山頂に到達できそうに思えた。この辺りは落葉松の植林が多く、藪は総じて少ないから、天気さえ良ければ案外簡単に登頂できそうだ。地図を詳細に調べると道路から沢を詰めた場合標高差400㍍くらいで、ほぼ長峰に登るのと変わらない。蟻ヶ峰を撮った画像から落葉松の植林が山頂付近まで続いているようで、藪の心配もなさそうだ。沢を詰めた場合、地図から沢の中間地点辺りにある岩場記号が気になった。(険悪な岩場じゃないかな?)きれいに麓まですっと落ちている尾根を辿る方が簡単か?しかしイマイチ情報もないが、とにかく今月中に挑戦したいと考えた。雪が降る地域ではない、木の葉が落ちた今月後半が最適との結論に達した。

蟻ヶ峰をネットで検索していたら、一件だけヒットした。この山に登った記録があったのだ!それは三国峠から県境稜線を辿っていったものだった。どうやら県境稜線には踏み跡もテープもあるらしい、三国山から約2時間で辿り着いたという。
蟻ヶ峰にはたくさんの名前がある、ショナミノ頭・高天原山・神立山など、無名峰のはずが4つもの名前を持つ山であったのだ。しかし、自分的には蟻ヶ峰という名が気に入っていたので、是非ともこの山はそう呼びたい。ショナミノ頭というのも変わった名前だが、所並川という千曲川の支流がここから発しているので付けられた、明らかに長野県側からの名前のようだ。上野村のhpを見ると高天原山とある、それからすると上野村では高天原山と呼んでいるのかな?それじゃ神立山やお気に入りの蟻ヶ峰というのはどっちの命名なんだろうか?後で調べてみたい。ということで、蟻ヶ峰はターゲットに入った。県境稜線を辿ってそこに登ることに決めた。

国土地理院の地形図には蟻ヶ峰の記載がない。エアリアマップの金峰山・甲武信岳を書店で購入した(既に持っていた、西上州・妙義にもちゃんと記載されていたのに…気づかず、ウウウ)。この地図を見ると、蟻ヶ峰に続く県境稜線で2番目に高い山に大蛇倉山というすばらしい名前が付いていた。大蛇倉沢という名前は上野村にあって、25,000図に記載があったから以前から知っていた。すげえ名前だなあと思っていたが、この沢の発するピークに何とこの大蛇倉の名前が付いているのだ。ここまで行けないかなあ?無理だろうなあ。藪はもしかしたら薄くて、踏み跡もあるようだ。記録文こそなかったけれど山岳会などのレベルではで県境稜線を辿っていて、大蛇倉山も登られているようだ。地図を詳細に調べたところ、蟻ヶ峰から更に4㌔近くある、道のない4㌔は難しそうではあるが…。高低差は意外に少なくてこの山の手前に1,922㍍峰があるが、蟻ヶ峰との間100㍍前後の上り下りがある程度だ。去年帳付から撮った県境稜線の山の画像を調べたら、ここにちゃんと三国山から蟻ヶ峰そして大蛇倉山までの山並みが写っていたので、画像を接続してプリントアウトして更に検討した。確かに写真を見ても高低差は少なそうだ。つまり上り下りはそれ程でもないということ、そして樹相はやはり落葉松が頂上近くまでありそうだったから藪は薄そうであることが窺えた。一つ気になる事は大蛇倉山と1,922㍍峰の頂上部や稜線にある岩場記号だ。折角頂上に近づいても岩場を登れないこともありうる。うーん、どうにかここまで行きたいものだ。再三大蛇倉山の情報を検索したが、記録などは全くなかった。つまりは情報は地図と作成した画像だけだ。この山の長野県側に新しい南相木ダムが造られているので、或いは変化があるかもしれない。とにかく、蟻ヶ峰と大蛇倉山、この二つの山に関してはこれ以上の情報は無かった。そして、なんとか17日に行けることになった。こんなに登る山にわくわくするのは錫ヶ岳以来だな、その前は御神楽岳だな。厳しく困難な山、そして秘境の山、こういった山こそ行ってみたい衝動が湧くのは当然だろう。人が登らない、或いは登れない山に行ってみたい、その山の山頂に立ちたい…。探検と言うほどのものでもないが、やはり小さな冒険?ではあるだろう。人が登らない山はどんな景色が広がっているのだろうか。


ほんの2週間程で、また川上村へ向かう。2週間前は名前も知らなかった大蛇倉山、蟻ヶ峰も登れるとは思っていなかった。こういう知って間もない山に登るなんてあまり無い、というよりこんなに衝動的に登頂意欲が湧いてきた山も初めてだ。名前を知らなかったとは言え、以前から「見ていた山」であり、関心があったのは事実だった。前回帰りに通った上野村経由でぶどう峠を越えて行こうとしたが、なんと南牧まで来たら湯ノ沢トンネルが夜間通行止めだという、突然もう少しでトンネルと思うところに掲示してある、もっと手前で知らせるべきだろう。仕方なく内山経由で長野入り、R144を川上に向かう、去年からこの村には良く来るな。
五郎山・長峰の時に右折した町田市民休暇村の分岐を過ぎ、更に奥に向かう。群馬の山でありながら、群馬県側からは登路が無いのだ(登って初めて知ったが、上野村側から登るルートがあった)。上り着いた三国峠は満天の星空、天の川まで良く見える。下の川上村の電光板で既に気温-3度とあったからここは今何度か?かなり冷え込んでいる。三国峠は長野県側が舗装されているが、埼玉県側は中津川林道となり未舗装で、このエリアでも相当なラフロードに入るらしい。大体群馬から長野に抜ける峠は内山以南はほぼ悪路で、割合道がよいのは田口峠とぶどう峠くらい、それとて群馬県側は狭路できついヘアピンカーブが続く、埼玉から長野・山梨に抜ける峠もまた悪路揃いだ。秩父から甲府に抜ける雁坂トンネルが開通して、関東から甲信に抜ける普通に走れる道が初めて出来た訳だ。こまかい襞のような秩父や西上州のいわゆる関東山地は昔から交通の難所だった。

三国峠、正しくは新三国峠というらしいが、ここには「三国峠」という看板がある。埼玉県側に行ってみたら直ぐ悪路、峠にトイレがあった。晴れてはいるものの関東平野の夜景はここから見えない、ただそちら方面がやや曇っているだけかもしれない。しかし、そちらの空は薄明るかった、信州側が真っ暗なのと対照的だ。稜線や三国山を透かして見るが、良く分からず。まだ、ここから登るか三国山の先から稜線に上がるか、決めかねている。全ては夜が明けてからだ。未知の山に分け入る不安と、どんな山なのかという期待とで少し興奮していたが、取りあえず寝ることにした。長野側の休憩舎脇のスペースに車を停め、わざわざ実家から持ってきた冬用のシュラフにもぐりこんだ。もうこの時期、いくら車の中とはいえ、3シーズンでは寒い。ケータイのアラームは前回と同じ6時半とした。

目が覚めたら外は黎明の時間。奥秩父の山々が黒々とシルエットになり、やや青紫の空が少しづつ明るくなっているところだった。もちろん誰もいない、ここは切り通しになっていて、地層がむき出しだ。ゆっくりとシュラフから出て、朝食のコロッケパンとおむすびを食べ、コーヒーをすする。さあゆくぞ、という感じより少し消極的な気分かな、不安の方が勝ち気味だ、もちろんそれは起き抜けのまだ完全に目が覚めきっていない身体の状態が、脳にそう指令させるのだと思うが。ともかく、目指す蟻ヶ峰は向こうに意外に近く見えていた。落葉松はすっかり葉を落とし、毛が生えたように山頂部までその落葉松が覆っているようだった。
ここから三国山往復で1時間、先が全く読めないから少しでも目的地に近い地点から出発する方が得策だ。三国山は登ったこともあるし、その分をはしょることに決め、長野県側にヘアピンの最初のカーブまで戻って、幸いかなり広い駐車スペースが道路脇にあったので、そこに車を停めて稜線を目指すことにした。

時間は6時38分だった。いきなり踏み込んだ落葉松の植林された沢の登りはかなり急傾斜だったが、藪もなくどんどん高さを稼いだ。決して歩きやすいとは言えない。枯れて倒れた木やごろごろした苔むした岩を、慎重に足下にしていくのだが、踏み後も無い山の斜面は掴んだ立木が腐っていてぼっきり折れたり、足を乗せた石がごろりと下に落ちていったりと登山道とは比べものにはならない。30分近く登って県境稜線に出た。ここまで来たら赤テープはうるさいくらいあるし、踏み跡以上のくっきりとした道に近いルートが延びていた。普通に山道を歩く感覚で落葉松の斜面を登って1,818㍍ピークを越え緩い下りで太い落葉松の林が続く道になる。行く手に近く蟻ヶ峰がおいでおいでをしている。

この稜線は幅も広く太い落葉松が林を作る明るく気持ちの良いプロムナードだ。落葉松林は下草もほとんどなくどこでも歩ける感じだが、ここははっきりとした道が延びていた。長野県側は落葉松の樹林越しに奥秩父の高峰がシルエットになって見えている、この間登った五郎山が国師ヶ岳からなだらかに千曲川に下っている尾根の上に弁当箱を二つ置いた様な不格好な形で見えた。長峰もその隣の尾根の雨降山の下に、ほんの少してっぺんを尖らせて見えていた。町田市の施設も見えている。群馬県側は落葉松ではなく落葉広葉樹にシャクナゲの下生えが基本だが、コメツガやその他の黒木も混じって薄暗い雰囲気だ。時折り樹間から両神山がくっきりと見えたが、そこから派生する上武国境を作る赤岩尾根の岩峰群が間近に望まれた。帳付や天丸、諏訪山などが懐かしく眺められた。赤岩尾根や大ナゲシ等はこれからのお楽しみだ。それにしても、長野県側の落葉松の林や、なだらかで畑や里も近い眺めと、襞のように細かく、ごつごつとした山稜を黒木に覆われ鬱蒼とした原生林が延々と広がっている群馬・埼玉県側の眺めは、今更ながら対照的で全く違った世界をこの稜線が限っている不思議を目の当たりにさせる。視線を左右するだけで、そこは全く雰囲気の違った二つの世界がこの境目を作っているのだともいえそうだった。でも、歩いているここはどちらかというと信州の領域で、上州側は密藪が急傾斜の崖状になって真の県境よりほんの少し?向こう側に別世界を作り、通行困難な薄暗い景観を見せていた。

蟻ヶ峰の登りはそれほど急ではない。落葉松の植林から舟窪と名付けられた二重山稜になる、規模はごく小さいもので群馬県側が急角度で落ち込んでいる稜線の長野県側に最大幅10㍍程舟窪状に凹んでいる。その中は低い笹が生えているが、ここから出てきた笹は蟻ヶ峰の肩まで登るうちに身の丈を越えて笹の中を漕ぐようになる。しかし、ネットの情報であったとおり道型は極めてはっきりしてテープもあり、それでも時々は道を失いがちになるが、特に問題なく通過した。ここから蟻ヶ岳への本当の登りになり傾斜もかなりきつくなってきた。この辺りまで来ると落葉松にダケカンバが混じるようになる。蟻ヶ峰の肩まで登るとダケカンバにシャクナゲも混じり、その後は大した登りもなく北面が伐採されたのか、北面だけ展望の開けた頂上に着いた。

頂上は登山道の途中と言った雰囲気で余り頂上らしくない。まだ8時28分だ、2時間足らずで登ってしまった。秘峰と呼ぶにはあまりのあっけなさか?奥秩父の国師ヶ岳から金峰山辺りがシルエットになって浮かんでいる西方から、南アルプスの白峰三山と手前に鳳凰三山から仙丈ヶ岳・甲斐駒ヶ岳、中央アルプス、そして一番ここで目立ったのは八ヶ岳の眺めだった。天気は快晴、静かで穏やかな日よりの山頂だった。
多分、この山だけを考えていたらこれで満足?したのだろうが。あまりにあっけなく早く頂上に着いてしまったから、ここで引き返したのでは印象も薄い。山頂には山名のプレートが3つほどあった。蟻ヶ峰が2つと高天原山が1つ、ショナミの頭と神立山というのはなかった。こうしてみると結構藪山マニアには登られているようだ。藪山のランクで言うとAランクか、大変簡単に登れてしまう初歩の部類、長峰よりずっと容易だった。三等三角点の頭は赤く塗られ、赤白だんだらのポールに破れた旗の残骸がひらひらしていた。近頃測量されたものと思われた。そういえば、三国山は最近測量し直して1,834㍍という標高に訂正されたと聞いたから、ここも同時期に測量し直されたものかもしれない。群馬県側はシャクナゲやダケカンバがびっしり茂って何も見えない。家に℡をしたがエリア外で通話できず。
蟻ヶ峰の山頂からは川上村の畑や家屋が手に取るように見える。これだけ見ても、とても秘境の山と呼ぶようなものではなかった。やや落胆。おむすびを食べて、まだこの時間だから充分大蛇倉まで行けると確信した。ここまでの感じでは県境稜線は問題なく歩けそうだ。

その2に続く

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2 コメント

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蟻ヶ峰、大蛇倉山の続きは? (椛澤初男)
2006-09-26 23:09:04
現在、群馬県境を踏破しようと頑張っていますが、舟留付近の情報が少なくて、捜しています。大蛇倉から赤火岳のことを御存知でしたら御教示くださいませ。

前橋市の住人

「山が一番」です。
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はじめまして (あさぎまだら)
2006-09-28 00:02:26
赤火岳周辺は私の記録にあります。

残念ながら、赤火岳と大蛇倉山間の詳しい情報はありませんが、赤火岳付近の笹藪の深さと、大蛇倉から先のシャクナゲのヤブからするに、かなり手強い薮じゃないかと思います。

稜線を忠実に辿るのは厳しそうですね。



特に群馬県側の薮は強烈ですから…。
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