おととしの紅白歌合戦だったか、サザンオールスターズの桑田佳祐がチャップリンの独裁者(つまりヒトラー)を真似たのか、ちょび髭姿で歌った。それが安倍首相を独裁者と揶揄しているのではないかと問題になった。桑田が真顔で「平和」を説けば説くほど、滑稽なむなしさを感じる人は多かったはず。所詮、ロック・ミュージシャンの「思想」など、児戯に等しい浅薄なものだと。
先日の台湾総統選・立法院選挙で、新政党「時代力量」から立候補して当選した林昶佐は、ヘビーメタル・バンド「Chthonic(ソニック)」のリードボーカル、Freddyとして有名だ。彼の代表作であるアルバム「高砂軍」の中の一曲「玉砕」(Broken Jade)では、昭和天皇の「玉音放送」が曲中に使われていることからわかるように、Chthonicはサザンのようなチンピラバンドではない。皇軍兵士として太平洋戦争に参加した台湾原住民を採りあげ、「祖国」とは何かをファンに問いかけた。「日本」を題材に使ってはいるものの、それは「親日」「反日」という次元では全くない。「台湾独立」という、その政治主張は明確そのものだ。
Chthonic(ソニック)の林昶佐(左)と葉湘怡(Doris Yeh) ドリス(葉)は「自由チベット」とペイントし、背後には「チベット国」の国旗がある。この二人は、夫婦。
台湾総統(大統領)および立法院(国会)議員選挙をつぶさに視察した宮家邦彦氏(元外務官僚)は、日本のマスメディアが「高め目線」から台湾の選挙を報道していることに疑問を呈している。国民が自由に選挙権を行使できるようになってからわずか20年余りの台湾を、「なかなかやるじゃないか」という高め目線で見るのは間違いだというのだ。そのひとつは、女性の進出がはるかに顕著だという事実。総統選挙の総統・副総統のペアは、三大政党とも男女の組み合わせだったし、立法院議員113人のうち40人は女性だ。また、「台湾は中国の一部ではない」「台湾は台湾」という台湾人意識の中で生まれた「時代力量」のような政党に、若者たちが積極的に関与しているという事実。これらは、政治意識、政治参加の度合いにおいて、台湾は日本よりむしろ進んでいるのではないか、という指摘だった。
彼我の違いの最たる例が、サザンとChthonicだろうか。
Chthonicの次の映像が、そのことを如実に示しているようだ。