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【11】最初の顧客・ミラー氏・待ち布施

ミラー氏と呼ばれていた彼は、両性類の卵を円化カルシウム【13】白い殻【14】で卵形に包み込んで保水し、車【52】の助手席に載せてぴかぴかの小さな王冠をかぶせると(あくまでミラー氏の個人的な趣味である)、海沿いにある棺詰工場【349】へと向かった。検問所の前にはすでに二十数台の車が並んでいて、各地から集められた卵が助手席や後部座席に載せられている。殻の表面に汗の滴が散らばっている。今日も暑い日だった。歴史【302】たちがのっそりと建物をまたいでいくのが見える。そのおぼろげな姿を透して見ても、太陽はやけに眩しい。突然、両の手のひらで車の窓が叩かれた。卵の滴がいくつも弧を描いて流れ落ちる。待ち布施か……とミラー氏は呟く。男は真っ黒に汚れた顔のうしろに、埃や汗でフランスパン【15】のように固まった長い髪の毛を垂らし、体にはボロを重ね着している。正に貴族【16】だった。おじぎ【163】をしろ、おじぎをしてくれ、頭をさげろ、と彼は所望したが、ミラー氏は貴族が見えていないかのように、分厚い百科事典【83】を開いて読み始めた。一台分前に進んだ。後ろには三台増えていた。


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