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【23】活字・朝刊

 まだ何人の目も覚めやらぬ早暁、憑依文字とも呼ばれる活字たちが、まったくのだしぬけに玄関のチャイムを鳴らす。扉を開けると、夜色のインクがまだ乾ききっていない群服に身を包んだ活字たちが次々と押し入ってきて、 購読者【28】の周囲を巡りはじめる。ベッドで夢うつつの家族がいたら、優しく手を取って引きずり出しながら。まだ寝起きで朦朧としている購読者たちは、次々と前をよぎっていく活字たちのイソギンチャクのような手に操られるまま、最後の活字が片足を軸に回転してぴたりと立ち止まるその瞬間を待つしかない。これこそが朝刊である。記事の内容によって数分ですむこともあれば、丸一日かかっても終わらず夕刊に引き継ぐこともある。住人が事の重大さを理解するのは、たいてい活字が出て行った後、食事を始めてカップを持つ手が震えているのに気づいてからである。


リンク元【17】成長の早いヒヨコ

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