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【302】歴史

 世紀が始まる頃には人間と大差ない身長であると考えられている。今世紀の歴史はまだ見つかってはいないので捜索中なのだが、これまでの歴史を見る限りでは、回遊の果てに辿り着いた魚【78】を吸収しつくし、発見時にはいつも取り返しのつかない大きさまで育ってしまっている。

 古くから伝わる説話によると、 史(ふびと)たちの中でも最高位にあたる〈お歴々〉という役職を務めていたギチ・ククタイが、休みなく史面の隅々を練り歩いていたことから、その一生が歴史と呼ばれ、ひとつの時代を表すようになった。お歴々は自らを世間そのものを表す「世(よ)」と称していたという。現在の十二面を練り歩いている数々の歴史は、言子【217】を最小単位としているため言生動物門に分類【309】されているが、ギチ・ククタイとなんらかの頁縁関係にあるのではないかと考えられている。

 新世紀ごとに現れ出づる歴史は、各地を歩き回って魚を吸収し、臓物に世相を反映させながら成長していくが、世紀の終わりと共に清聴ホルモンの分泌が止まるため、魚の戯言を受け付けなくなる。それを歴史の終焉だ、などとしたり顔で言うものもいるが、顧みられている間はおぼつかない足取りながら相変わらず歩き回ることができるし、体内の組織も変容し続けている。もちろん歴史によってはカタレプシーに陥り、忘れ去られた遺物となって街の片隅で待ち合わせ場所などにおちぶれてしまうものもあったが、動物介護団体【105】の活動によってかなりの歴史が脚光(地面からでは脚しか見えませんからな)を浴び、再び闊歩できるようになった。そんな歴史に平然と飛び込んでいけるのは、史、もしくは女史の称号を持つ区役所の過去官僚で、歴代大棟梁とも称される歴史上の人物【303】である。

 

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