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【8】目的地

 地面から這いだしてきた僧侶が、ゼンマイ仕掛けのようにゆっくりと立ち上がる。瞼は閉ざされている。僧衣を通して空気の流れや陽の当たり具合を感じながら、近くにある 白い箱形の建物【9】へと歩み寄り、しっとりと濡れた弾力のある壁に体をうずめていく。ひんやりとした清明な空間に抜け出た僧侶は、土色の僧衣を脱いでありふれた男【10】になった。次に両手を突き出し眼を見開いた途端、両手にあやふやな量感を覚える。男は商人であった。なぜなら目の前には顧客が待ちわびた様子で座っていたし、腕のなかで震えている透明と黒の同心球を、彼は必要としていないからだ。白い空間の四方から無数の視線を浴びせられるのを感じながら、最初の顧客【11】に卵を手渡した。顧客は卵を優しく抱えたまましゃがみ込むと、深く頭をさげてしばらくそのままの姿勢を保った。思いがけずすばらしい報酬に商人は喜び、相応しい時が訪れるまで取っておくことにした。次の顧客【12】は、商人から僧衣を受け取ると、生地の編み目にへばりついた円化ナトリウム【13】の結晶をスコップでこそぎはじめた。袋がいっぱいになると、僧衣を返して頭をさげる。そう珍しいおじぎ【163】ではなかったので、商人はこの部屋から立ち去るときの賃料として使った。商人は僧衣をはおった。二百人分の罪が彼を強く締め付けた。

リンク元【4】地下洞窟

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