あの人に迫る
2019年7月5日 中日新聞
橘ジュン NPO法人「BONDプロジェクト」代表
◆居場所ないキミ リアル聞かせて
「居場所がほしい」と訴える瞳に、どれだけ向き合ってきただろう。親子の不和からくる孤独、虐待の被害や自殺願望…。心に深い傷を負った各地の十~二十代の女性らを、NPO法人「BOND(ボンド)プロジェクト」(東京都)が行政の支援などにつなぎ続けて十年になる。代表の橘ジュンさん(48)は少女らの心の声をすくい上げ、「生きづらさ」に寄り添う。
-少女らの相談に日々応じる橘さんは、必ず背景に目を向けるそうですね。どんな生きづらさを抱えた子が多いですか。
圧倒的に多いのは、家族の悩みです。親、きょうだい、親の恋人との関係など。心の状態は「寂しい、しんどい、居場所がない」ですかね。メンタルの不調で眠れず、過去を思い出すフラッシュバックも多い。
そうした状況が性被害やいじめ、ドメスティックバイオレンス(DV)、虐待、妊娠・中絶など深刻な問題と絡み合っています。
少女らの伝え方は「もうだめだ」「死にたい」などとざっくりしている。こちらが「どうしてそう思うの」と、時間をかけて丁寧に聞かないと、本当の姿は見えづらい。援助交際する子に聞くと、食事代や泊まる場所が必要だったり、スマホ代がなかったり。貧困という問題にもつながる。
-心と心で向き合うため、彼女たちの胸の中にどう入るのですか。
知りたい、という気持ちが大事ですね。キミを知りたい、話を聞きたい、と。私たちはずっと「聞かせて」というスタンスです。
ただ、会いたい子がいる、伝えたい声があるというだけで対応できたかつてとは、状況が変わりました。
私は十代でフリーライターになり、いわゆる「アウトロー」の女の子たちの声を聞いて伝えてきました。彼女たちは自分の言葉を持っていた。取材で「書いちゃいけない話はある?」と聞くと、「ないよ。私の生き方だから」と答えが返ってくる子たちだった。
-どんな子たちと出会ってきたのですか。
「極道」の男しか愛せない子、風俗店に身を売られた子、獄中結婚した子もいました。「十六歳でどうして一人暮らししているの」といった興味から取材に入ったこともありました。
若者向けの雑誌で連載コーナーを持っていた時は、編集部に私宛ての手紙や電話がくると、まず自宅の住所を聞いて家まで訪ねていました。(女性らで構成する暴走族の)レディースの取材でも、全国各地に行った。十五、十六歳で赤ちゃんを抱いている子がいると、取材先に残り翌日も話を聞かせてもらっていた。
でも、今の女の子たちの多くは受け身なんです。「生まれてこなければよかった」と思っている子ばかり。共通しているのは、自分を大事にできない点です。
-今はインターネットで誰もが発信できる。それなのに、心の底に潜む本音はかえって見えにくくなっていることも、支援の難しさにつながっていませんか。
すごく感じますね。今年三月までに、東京都内の街頭で高校生ら三百三十二人にアンケートをしました。友だち三、四人でいる子に声をかけ「死にたいと思ったことがあるか」を聞くと「ある」と答えたのは百十五人。全体の35%だった。
ただ、BONDへ相談に来た高校生に、友だちといる時と一人きりの時でアンケートの回答が変わるかどうか、聞いてみたことがあるんです。「はい、違います」と即答だった。両親と仲が良くて、友だちとうまくやっている子なのに。
会員制交流サイト(SNS)は友だちだけでなく、親や先生が見るかもしれない。そう考えながらの投稿しかできない。楽しそうで、元気なところしかネットには上げない。だから、自分とは他人に分からない裏アカウントが必要になる。
-神奈川県座間市で二〇一七年、若い男女九人がツイッターで知り合った男に相次いで殺害された事件の後、ネット上で危うい書き込みをする子たちを自ら見つけるネットパトロールにも力を入れていますね。
今は、相談に来るのを待っているだけで対応するのは無理。顔の見えないまま、困っている人がたくさんいる。そうした子を、ツイッターや、さまざまな掲示板から、ネット世代の若い子たちが協力して探し出しています。これまでに二百人余を実際の相談につなげました。
昔は私たちが街に出て、終電がなくなった子に声をかけていた。どうやってネットの奥のリアルを感じることができるかが、本当に大事な時代になりました。
-幼い子が親から虐待を受ける事件も相次いでいます。埋もれているケースがあるかもしれません。
BONDを始めたころ、相談に来た女の子が支援を受けるか迷っていたことがあります。十六歳で父親からの虐待がある子だった。
「お父さんの子を妊娠しているかもしれない」という状況だったから、本人を説得したけど「やっぱり児童相談所に行くのは嫌だ」と。それでも「絶対にこの子は帰したくない」と考え、タクシーに乗せて連れて行きました。結局、女の子は児相では「(虐待は)事実ではありません」と話してしまい、施設に受け入れられなかった。児相が間に入ると、親との接触もあるので、居場所がもっと不安定になった。正しいかどうかではなく、彼女が迷ってもいい時間をつくってあげなければいけなかった。
今は、ネットパトロールと併せて、無料通信アプリLINE(ライン)を使った相談を週に五日間、受け付けています。相談員をしてくれる女性スタッフには、かつて自分自身も虐待を受けていた子も、加わっています。
-BONDには「必要な支援にくっつける」という意味があるのですね。
生活に関する相談、虐待やDVの相談があると、行政の窓口に同行して支援します。福祉事務所、児相、女性相談センターなどですね。心のケアが必要なら、病院。家出、援交、売春といった事情を抱えている子は、警察につなぎます。
だけど、つなぐ先の窓口に行っても担当者がどう対応すればいいか分かっていない場合がある。窓口によって温度差や、関心の低さを感じてしまう。行政は根拠法があるかが重要で、措置という感覚が根強い。
行政から「家出した女性から相談を受けているけど、十八歳を過ぎているから対応できない」と、逆に私たちが対応を依頼されたケースまでありました。安全な場所で彼女たちにゆっくり休んでもらいながら解決策を考えてゆくというスタンスではない。支援が必要な若い子たちにすれば、ギャップを感じる。現状に制度などが追いついていない。私たちにはそのリアルを伝えていく役回りもある。
-NPOの設立から十年。BONDの今後は。
今、優先的に会って、つながりをつくらなきゃと思っているのは「自分が虐待をしてしまうかもしれない」と苦しんでいる若い母親たちです。彼女たちは「加害者」「母親失格」などとレッテルを貼られるのでは、と不安定になるんです。
その中には、自分も虐待を受けてきて、施設にしか安心できる場所がなかったという子が多いのです。そんな女の子たちに会い、状況を知りたい。今まで受けてきたこと、抱えてきたもの、見過ごされてきたこと。声をきちんと伝えたい。
<たちばな・じゅん> 1971年、千葉県生まれ。女性の暴走族「レディース」で改造車を走らせていた18歳のころ、雑誌の取材を受けたことをきっかけに、自身もフリーライターの道へ。数多くの少女らを取材し、雑誌でルポルタージュなどを執筆。取材現場で知り合ったカメラマンのKENさんと結婚後、東京・歌舞伎町で援助交際する子や、深夜の渋谷センター街をさまよう少女らに声をかけ話を聞く取材を2人で続け、声を伝えるフリーマガジン「VOICES」を2006年に創刊。さまざまな困難を抱えた子を必要な支援につなげるため09年に「BONDプロジェクト」を設立した。著書に「最下層女子校生 無関心社会の罪」(小学館新書)など。
◆あなたに伝えたい
どうやってネットの奥のリアルを感じることができるかが、本当に大事な時代になりました。
◆インタビューを終えて
橘さんと取材で初めて会ったのは二〇一七年、若者でごった返す渋谷センター街。眠らない街にたどり着き、漂流する少女らと数え切れないほど出会ってきたという。ネットの仮想空間に居場所を求める若者が増え、社会が複雑化する今も、リアルを知りたいという原点を貫く。
大人の責任って何だろう。インタビューの最後に、橘さんに問いかけた。「よかれと思ったことが、少女にとっていいとは限らない。彼女の幸せを彼女が選ぶ。その前を行くとか後ろを追うとかではなく、横を一緒に歩く関係性を築くことでは」
自身も悩みながら道を探る。それが、多くの少女らをひきつける理由なのかもしれない。
(神田要一)
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NPO法人「BONDプロジェクト」
生きづらさ抱えた若い女性に寄り添う
弁護士と連携しながら同行支援
顔が見える関係が重要
「SOSを出してね」と伝えたい。
新型コロナによる休業要請でネットカフェに寝泊まりする人たちが居場所を失う。
私たちの元には、死にたい、消えたい、寂しい、居場所がないといった10代20代の若年女性の声が全国から寄せられます。その背景には、虐待、いじめ、性被害、貧困など様々な社会問題が関係しています。
また、18歳未満の子どもたちは児童福祉法によって守られていますが、18歳以上の子どもたちに手を差し伸べる法律はありません。そのため当NPOでは、年齢に関わらず居場所を失った女の子の自己肯定感向上や自立に向けた支援を行っています。
メール、電話、面接にて相談を受け、必要な場合には弁護士と連携をし、一時的な保護をし行政機関等に繋げたり、自立支援のための中長期的な保護をしています。また、相談窓口までたどり着けない若年女性の声も多く聞いているため、待っているだけでなく、街頭パトロール、街頭アンケート、出張面談等、アウトリーチの部分にも力を入れ活動しています。声は全国各地から寄せられ、女の子に寄り添った活動を展開しています。
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ネットカフェ追われた人々…ビジネスホテルに入れず、劣悪な「三密施設」に移る可能性も
4/17(金) 14:10配信
新型コロナに関する緊急事態宣言を受けて、東京都は4月11日、インターネットカフェに休業要請をおこなった。これによって、都内に約4000人いるとされるネットカフェで寝泊まりしている人たちが居場所を追われることになった。 これに先立って、都は4月6日、補正予算223億円のうち12億円を、住まいを失った人への一時住宅にあてると表明した。
また、ネットカフェを追われた人への一時宿泊施設として、ビジネスホテルを無料提供するとしていた。 SNS上では「行政がんばった」といった評価も見受けられたが、ネットカフェで寝泊まりする人全員がビジネスホテルに入れるわけではない。実は、ネットカフェよりもさらに劣悪な環境に追いやられることが少なくないのだ。(ライター・碓氷連太郎)
●生活保護申請者には「無料低額宿泊所」をあっせん 「東京都は半分はいいことをしたと思います。しかし半分はふざけるなと思います」 こう語るのは足立区議の小椋修平さんだ。 4月11日、小椋さんのもとに、足立区のネットカフェで生活していた20代の青年から連絡があった。彼は、都が確保したビジネスホテルに身を寄せていた。
小椋さんは13日、彼と一緒に足立区役所の福祉事務所を訪れて、生活保護の申請を手伝った。すると、職員から「生活保護受給者は無料低額宿泊所に入所してもらう」と言われたという。 そのとき、緊急事態宣言の期限である5月6日(4月17日現在)までビジネスホテルに滞在できるのは、貯蓄があるなど、生活保護を受給していない人に絞られていたことがわかった。
●劣悪な無料低額宿泊所も少なくない 無料低額宿泊所とは、無料もしくは低額で住まいと食事を与える施設のことで、NPO法人などの団体が運営している。 入居者を適正にあつかっている宿泊所も多いが、中には「生活保護者の自立支援」をうたいながら、生活保護費のほとんどを食費や滞在費と称して巻き上げるところも存在している。 複数人を相部屋に押し込めているのに、仕切りはカーテン1枚しかなかったり、個室でも壁が薄く、プライバシーが守られていないなど、劣悪な環境のところもある。
小椋さんが以前、視察に訪れた無料低額宿泊所では、6畳間に2段ベッドが2台も置かれ、そこで4人が生活していた。風呂も3日に1度しか入れない「典型的な貧困ビジネス」だったそうだ。 まさに究極の「三密空間」だが、パーテーションで仕切られている分、まだネットカフェのほうがマシと言えるかもしれない。 「生活保護者であっても、5月6日までは、東京都が確保したビジネスホテルに滞在しながら、仕事や部屋探しができるものだと思っていました。
しかし、生活保護者は、無料低額宿泊所や保護施設に収容するのが原則で、そこが定員オーバーになってようやくビジネスホテルに宿泊できることがわかったんです。 ネットカフェを追われた人のために、ビジネスホテルを借り上げたことは評価します。
しかし、こんなカラクリになっていたとは・・・。『ふざけるな!』と言いたいです」(小椋さん) 「ネットカフェで生活していた20代青年の相談対応していて、週末は東京都が確保した緊急一時宿泊施設(ビジネスホテル)で宿泊。週明けに、足立区の福祉事務所に生活保護申請に同行すると、『(無料低額宿泊所)施設に入所してもらうことになります』という対応」 4月14日に小椋さんがツイッターでつぶやくと、「ネカフェのほうが安全」「これ酷い、人間扱いしてないよね」などの声があがった。
●声をあげて抗議したことで、状況が改善 そんな中で「怒りに体が震えている」という感情をあらわにしていたのは、貧困問題に取り組む稲葉剛さん(『つくろい東京ファンド』代表)だ。 「感染リスクを下げるためにネットカフェを休業したのに、これでは命のリスクがあがってしまうと危惧しました。緊急事態が起きているのに、東京都はあまりにも官僚的な対応ではないかと言いたいです」(稲葉さん) 4月14日、稲葉さんが都の福祉保健局に問い合わせたところ、「(生活保護受給者には無料低額宿泊所をあっせんするという)既存の制度・運用を変更するつもりはない」と言われたそうだ。
生活保護者を救護施設や更生施設、日常生活支援住居施設などに入所させることを記した生活保護法30条は、その2項で「被保護者の意に反して、入所又は養護を強制することができるものと解釈してはならない」と触れているにもかかわらずだ。 同団体をはじめ支援者たちが都に抗議すると、「一義的には保護施設や無料低額宿泊所を活用すること」自体は撤回されなかったものの、「本人の心身の状況を見て無料低額宿泊所に入ることが困難と認められれば、ビジネスホテルの活用を認める」ということが、4月15日夕方になって各区市町村に通達された。 また、無料低額宿泊所に入居させる場合でも「可能な限り個室で」といった感染予防対策を取ることも併せて連絡しているという。 「中途半端ではありますが、声をあげて抗議したことで状況が改善されました」(稲葉さん)
●「もっと大変な人がいる」と追い返される ただ、稲葉さんによると、生活保護を受給していなかったとしても、都内在住歴が6カ月以上ないと、都が借り上げたビジネスホテルに入れないことがあるという。 都は、ネットカフェなどで寝泊まりしながら、不安定な就労をしている人をサポートする『TOKYOチャレンジネット』を設置している。 都内在住6カ月以上の人がビジネスホテルに入居するには、この『TOKYOチャレンジネット』や都内各自治体の福祉事務所を介して申し込む必要がある。しかし、申し込んだところで、入居できる保証はないという。
「都内に6カ月滞在していた場合でも『その証明としてネットカフェの領収書や、Suicaなど、電子マネーの履歴を見せてください』と聞いているそうです。しかし、レシートを捨ててしまったり、電子マネーを使っていないことから証明できない人もいます。そして都内に6カ月滞在していない人たちが相談に行くと、『ネットカフェがある自治体で、生活困窮者自立支援窓口に相談してください』と追い返されることがあります」(稲葉さん) また、別の区の窓口に相談すると「もといた区の役所に行ってください」と言われ、対応されないこともあると稲葉さんは言う。
「『つくろい東京ファンド』のシェルターで一時的に保護した人が、もともと滞在していたのとは別の区に相談に行ったら対応してもらえなかっただけではなく、『もっと大変な人はいるし、民間団体が支援してるのだから』と追い返されてしまいました」(稲葉さん)
●正確な部屋数はわからない 小池百合子知事は4月10日の会見で「先日、約12億円で東京都は、そのネットカフェ難民と言われる方々をまず収容する施設、そしてその後、アパートを借りていただくような環境整備ということで、すでに予算をつけております。大体500人ということを想定してつくった予算でございます」と言っていた。
しかし、ネットカフェ生活者は約4000人とされていて、それでは8人に1人しか滞在できない。 その後、都は2000室を確保したとも言われているが、稲葉さんによると、「部屋数について東京都は正式に発表していない。順次増やすと言っているものの、4月17日時点では正確な数字はわからない」そうだ。
また、これまでも生活保護受給者や生活困窮者へ福祉事務所の対応が、自治体によっても違ったことから、今回の都の通達が守られるかは、未知数だという。 窓口の対応次第で劣悪な無料低額宿泊所に押し込められたら、新型コロナに感染するおそれもある。逃げ出して結果的に、路上生活者となってしまう人があらわれる可能性もある。 新型コロナウィルスに感染するリスクは、誰にでもある。
また長期間の自宅待機により収入が尽き住まいを失うリスクも、決して他人事ではない。ネットカフェを追われた人たちが直面している今日は、私たちの明日なのかもしれないのだ。
弁護士ドットコムニュース編集部
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最終更新:4/17(金) 14:10
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