4/27(月) 5:31配信 現代ビジネス
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東京五輪は延期され、イベントの自粛が始まった3月に入っても、日本人にはまだまだ危機意識が薄かった――10年前に書かれた「予言の書」として今、爆発的に読まれている『首都感染』の著者・高嶋哲夫氏が、「新型コロナと日本人」について書きおろすドキュメント連載第2回!
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【写真】コロナ危機で、じつは日本が「世界で一人勝ち」する時代がきそうなワケ
第1回:10年前の予言書『首都感染』著者が振り返る「新型コロナ騒動」前夜
2月27日、安倍首相は全国のすべての小中高校、特別支援学校を対象に、「3月2日から春休みまで、臨時休校」を行うよう要請した。前日には、「今後2週間の大規模イベントの中止や延期」を要請している。
この日、2人の知り合いが僕の仕事場に来た。
『首都感染』を映像化したいというのだ。一人の方とは20年来の知り合いで、退職はしているがテレビ関係の方だ。去年の暮れ、彼の古希のお祝い会でお会いしている。
『首都感染』が「予言の書」として話題になり、売れていると言うが、僕には実感はなかった。僕に入っている情報は、2000部の増刷が2回だけだ。後は、本屋にないので個人的に欲しいと言うもの。神戸でも田舎に住んで、あまり多くの人と話さず、本屋にも行かないと情報には疎くなる。
「予言の書」と言われていることには興味がなかった。フェイスブックとツイッターは書いているが、自分への備忘録と、知り合いへの近況報告、居場所報告だと思っている。その他のサイトは、仕事上の検索以外はほとんど見ない。
映像化については、「よろしくお願いします」と答えた。
実はこの手の話は、ほとんど期待していない。本を出すと何冊かには映像化の話は来る。千三つという言葉を聞いている。千ある話で三つ実現すればいい。映像化はそれほど難しいという譬えらしい。僕の本で映像化されたのは、三つしかない。
「高嶋さんの本を映像化するには、お金がかかります」……そう言われたことがある。僕もそう思う。でも、そうでもないモノもあるはずだ。ようは、売れていないのだ。日本での映像化は諦めていた。
『メルトダウン』『命の遺伝子』『乱神』は、英語出版、ハリウッドでの映画化を目指して書いた。『乱神』をのぞいて、舞台は外国。日本人は日系人しか出ない。もちろん、日本語なので、まず英語にしなければならない。
『メルトダウン』は、『FALLOUT』というタイトルでアメリカで出版されたが、ほとんど売れていない。『命の遺伝子』は中国の南京大学で翻訳して出版してくれた。現代に生きるナチス、謎の遺伝子を持つアマゾンの少女、バチカンの秘密、スピルバーグさんが読めば、飛びつくと信じている。しかし彼は、日本語も中国語も読めないだろう。
ハリウッドでの映画化。誰も本気で考えてくれないので、自分でやることにしたのだ。
翌日、金曜日は、全国ほとんどの小中高校で学年最後の登校日になった。
小学生の子供を持つ親には、働き方を変える大問題だ。マスコミはこぞって、学校現場や保護者の混乱ぶりを取り上げている。
首都圏、大阪など感染者が多い県では納得するが、まだ多くの県で感染者は一桁、二桁で、ゼロの県もいくつかあった。
雪まつり、ダイヤモンド・プリンセス号
「イベントの自粛」「全学校休校」要請の前段には、いくつかの「兆候」と言えるものがあった。
まずは札幌の雪まつりだ。1月31日から2月11日まで行われている。例年、約200万人以上の人を集める大イベントだ。
1月25日、中国で春節が始まった日、武漢から来た中国人女性が感染していることが分かった。北海道での最初の感染者だ。
中国人団体客の来日が停止されたこともあり、前年度の273万人からは大きく減少した。それでも、約202万人の来場者があった。
結果的には、北海道では3月8日に、感染者が100人を超えた。知事が週末一律の外出自粛を促す、「緊急事態宣言」を出すに至っている。
「雪まつりで感染が拡大した可能性は完全には否定できないが、一方、現時点で裏付けるものもない」との声もあるが、運営側から感染者も出ている。
さらに大きな話題を呼んだのは、2月3日に横浜港に停泊したクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号だ。
その日に行われたウイルス検査で31人中10人が陽性だったのだ。以後、日を追って感染者は増えていった。
国立感染症研究所の報告では、7日の発症者が最高で、クラスターの発生は2日と推測している。その日は船内で、乗客、船員が集まり、「さよならパーティ」が開かれている。
連日、マスコミは感染者の数と船内の様子を、推測を交えて伝えた。
日々増えていく感染者の数と巨大な豪華客船の姿は対照的で、新型コロナウイルスの象徴的な存在となった。
しかし、感染力の強いウイルスが発生している船内で、夫婦が同じ部屋にいれば、2人の感染は確実だ。
感染対策の経験者がDMATの一員としてクルーズ船に入ったが、1日で追い出されたような記事も読んだ。彼は、船内では安全、危険ゾーンの区別など、感染対策がほとんど取られていないことを述べていた。
初期のうちに、もっと集中管理の出来る広い施設に移すことも考えるべきだったのではないか。
強行された格闘技イベント
船内隔離が始まって2週間後の19日、約500人が隔離を解かれて自宅に帰っている。多くがバスで横浜駅まで送られ、公共交通機関で帰宅している。以後、数名の方が帰宅後発症している。
アメリカのチャーター機で帰国した人は、帰国後2週間隔離されている。
27日に全乗客が下船したが、最終的に、乗船客3711人中、感染者712人、死者14人を出した。その感染対策には、世界の評価は低かった。
やはり、最初から感染病対策の専門家がリーダーとなり、計画的に対応すべきだった。
この大量感染も、元をたどれば香港で下船した武漢出身の一人の男性から始まった。感染を防ぐには、早期の封じ込めしかない。
22日には、政府のイベント中止要請が出ているにもかかわらず、さいたま市で6500人規模の「格闘技イベント」が行われている。県は中止の意向を示したが、強行された。
マスクの配布、体温測定器の設置、会場の扉の開放、感染者が出た場合に感染経路をたどれるよう来場者に名前、住所、電話番号の提出を義務づけた。「最大限の予防策を講じた」と主催者側言う。しかし、興奮すると大声を上げたりマスクを外したりする観客もいたという。
この時点の世界での感染者は、約8万2600人、死者数約3000人だった。
日本人の感染者は約919人だ。この中にはクルーズ船の感染者が含まれているので、202人だ。
感染は東京や大阪など、人口密度が高い大都市に集中している。その他の県では一桁か二桁の感染者数、ゼロの県もある。
やはり、ウイルスの感染は後で言われる「三密」で発生するのだ。だが、多くの日本人にとって、緊張感はなかったのだ。
新型コロナをめぐる、日本人の危機意識の「ばらつき」について
通勤ラッシュは最大の危険(photo by iStock)
ばらつく危機意識
実を言うと、僕の危機感も高いとは言えなかった。
東京での集まり、授賞式の中止や延期のメールはいくつも入っていた。にもかかわらず、2月には神戸を中心に、沖縄、東京、岡山と行き来していた。
WHOが発表していた致死率の低さと、世界に比べて日本での感染者数が少なかったことが理由だ。
東京に行くときは、家から神戸空港まで車で行って、飛行機で羽田に飛ぶ。朝一番の飛行機だが満席に近い。ほぼ全員がマスクをして、会話はない。
神戸から東京に着くと、人の多さに圧倒される。いつもとさほど変わらない日常の姿だ。羽田も品川も、電車も相変わらず人は多い。
首都圏最大の感染源は「東京一極集中」で、避けなければならないのは、「電車のラッシュアワー」だ。特に電車はヤバい。マスクをして、押し黙って吊り革や手すりを握ったり、座っている乗客は、最大の危険の中にいる。
ウイルスは、何もない所から湧いては来ない。だがもし、そこに一人の感染者がいれば――。
ウイルス自体については、我々一般国民は多くは知らなかった。過剰反応を示す者と、無関心な者とに分かれているような気がする。僕も現状がピークで、ひと月もすれば落ち着いてくると思っていた。
2月の終わりの時点での世界での感染者は、韓国、約3000人、イタリア、約1000人、フランスとドイツは100人以下。アメリカは70人だった。トランプ大統領も楽観的なことを言っている。
目に見えないモノに対しては、人は必要以上に恐怖を抱く。ウイルスは放射能に似ていると思う。
マスク不足やトイレットペーパーの買い占めは、その表れだろう。もっと、「新型コロナウイルス」そのものを知って、冷静になることが重要だった。
動き始めたハリウッドプロジェクト
3月に入った。
1日には東京マラソンが行われている。市民ランナーの参加は中止して、選手のみが参加している。オリンピックの選手選考がかかっているので、中止はできなかったのだろう。観客は7万人。この日、日本新記録が出ている。
この時期になっても、総理は、「オリンピックとパラリンピックについては様子を見て決める」と、やる気満々なのには正直、呆れていた。この引き延ばしが、中止ではなく、来年への延期につながったのであれば、何とも寂しい。IOCの幹部の見識を疑う。新型コロナウイルスは、イタリア、スペインを中心にヨーロッパにも感染が広がっていた。
「全小中高校休校」「東京マラソン実施」は対照的だが、決断を誤れば、大きな悲劇を生む。幸い、表に出るような「悲劇的なこと」が起こらなかったからよかったものの、これは運でしかない。
このころ、僕にとっても多くのことが起こった。
3月2日、岡山で母の法要と納骨があった。岡山県はまだ感染者はゼロで、表面上はコロナ騒ぎはほとんどなかった。町でも、マスクをしている人はほとんど見られない。
このとき、中学2年生の孫に会った。彼はインターナショナルスクールに通っている。学校は休みになっているが、週明けから、パソコンを使ったオンライン授業を受けるという。宿題も出て、忙しくなりそうだと言っていた。日本では4年計画で小中高校生に、一人1台のパソコンを導入する計画がある。しかし、遅かったわけだ。
8日の日曜日に、雑誌「FRIDAY」の取材を受けた。『首都感染』についてだ。
取材はトータルビューティー・プロデューサー、アケミ・S・ミラーさんの計らい
で、大阪の彼女のスタジオで行われた。アケミさんは、長年ニューヨークで活躍したファッションデザイナーで、トランプタワーに住んでいたという。アメリカの多くの著名人と知り合いだ。
ハリウッドプロジェクトを話すと、協力を約束してくれた。彼女の知り合いの中に、ハリウッド関係者がいるという。ジョージ・マーシャル・ルージュ。『紅い砂』の英語版ができた段階で、送ってくれるという。
彼の名前も知らなかったが、帰って調べると、「ロード・オブ・ザ・リング」「パイレーツ・オブ・カリビアン」「ロボコップ」などのアクション監督だ。プロデューサーともある。
このころから、『首都感染』についての取材が入り始めた。
10日には、『首都感染』の映画化の話を持ってきた二人に連れられて、東京に行った。新宿の高層ビルで、ある有力者に紹介された。
近くの本屋さんに行ったが、『首都感染』はなかった。そのころ、本屋さんには、ほとんど見られないというメールや電話が相次いでいた。17日に、12刷1万部が出来ることを伝えた。
18日に『紅い砂』のショートフィルムを作ってくれる夜西監督さんと、最終打ち合わせをした。彼とは2年前、『スティール・アンジー』という彼の監督作品の試写会で会っている。すでにアクションを主体にした映画を2本撮って、いくつかの賞を受賞している。ニューヨークで表彰されている写真を見て、羨ましいと思っていた。
彼に『紅い砂』のテーマやストーリーを説明した。昼過ぎからお互いの夢を夜の12時近くまで話した。
やっと、「ハリウッドプロジェクト」が動き始めた。僕の頭はハリウッドでいっぱいだった。
そんなときにも、「新型コロナウイルス」は日本に、そして世界に広まっていた。
世界の感染者数約18万人。 都内と名古屋市で感染者数100人を突破し、日本国内の感染者数約1600人になっていた。
アメリカの娘や友人から電話があったが、日本の状況を心配する方が多かった。
〈第3回へ続く〉
高嶋 哲夫(作家)
最終更新:4/27(月) 5:31
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