いくつもの拠点に強制的に駆り出された外国人は推定で約1万人という。アジアやアフリカの20カ国以上で、母国に向け詐欺電話をかける「かけ子」をさせられていた。

 タイ当局が保護した日本人は現時点で7人だが、ほかにも滞在者がかなりいるとみられる。日本の政府や警察はタイに協力を依頼し、救出を急がなければならない。

 海外を拠点とした特殊詐欺といえば2年前、特殊詐欺グループの日本人が「ルフィ」などと名乗り、フィリピンの入管施設を拠点に広域強盗を実行役に指示した事件が発覚したのを思い出す。特殊詐欺を防ぐためには、国境を越えた情報収集や捜査、他国との連携が不可欠だ。改めて認識する必要がある。

 高校生2人が犯罪に巻き込まれる入り口は、インターネットだった。愛知県の少年はネットを通じて詐欺グループと接点を持ち、宮城県の少年はオンラインゲームで知り合った男に「仕事がある」と誘われていた。

 どこかの時点で家庭や学校が介入することはできなかったのだろうか。ただネット上のコミュニケーションで誘導されれば、周りが気付くのは容易ではない。足取りを解明し再発防止に生かすべきだ。

 少年は「警察官をかたる電話詐欺に加担させられた」と説明している。身近な交流サイト(SNS)やオンラインゲームのやりとりをきっかけに、その気がなくても犯罪に手を貸す危うさが転がっている。保護者を含め、あり得ないもうけ話に乗らず、少しでも怪しいものを拒絶できる力を養いたい。

 ミャンマーは内戦状態が続き、とりわけ国境近くは治安が悪く、少数民族の武装勢力が分割支配している。混乱につけ込むように犯罪組織がはびこっていたといえよう。

 犯罪組織は外国人を甘い言葉で誘い出し、監禁しているとみられる。現地の市民団体の調査では深刻な虐待や、身代金の要求もあるようだ。今年に入って大規模な保護が相次いだのは、被害者の訴えで人身売買問題として表面化し、中国やタイの政府が対応を強化したからだ。国際的な連携を進め、全容解明と壊滅を急ぐべきだ。

 看過できないのは、犯罪組織のメンバーに日本人がいる可能性がある点だ。実際、愛知県の少年を誘ったのは日本人だ。放置すれば捕らわれる人を増やす危険がある。

 日本国内では、SNSでの闇バイト募集に応じ、犯罪を実行する若者らが後を絶たない。また特殊詐欺の被害額は急増し、昨年は過去最悪の720億円超に上った。今回のような国際犯罪組織との関連はないのか、疑って捜査を強化していくべきだ。