カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場においては、旧ソ連時代に450回を越える核実験が行われた。この核実験は多くの被害をもたらし、今日でも一説によれば100万人を越える被害者がいるとされる。被害の実態の科学的解明は、旧ソ連時代核実験であることが秘密とされていたこともあり、ソ連崩壊後漸く始まった。
現在では、放射線物理学、生物学、医学の分野で研究が徐々に蓄積されている。
本論文は、自由記述の証言を含むアンケート調査という方法によって、セミパラチンスク核被害の実態の一端を明らかにするこ
とを目的とする。
広島大学原爆放射線医科学研究所は、1994年以降セミパラチンスク核実
験場近郊の被曝の実相解明を研究テーマの一つとし、星正治を代表とする研究
グループが、セミパラチンスク市を中心とする広い範囲において、核実験場近
郊での被曝線量評価、住民の甲状腺の検診、血液中のリンパ球の染色体異常等
の調査研究を行い、10年間の実績を積んできた。その結果、放射線の影響が
住民の健康に影響を与えていることを学術的に証明してきた。
同研究グループはその調査過程において、放射線障害が原因と考えられる健康不良を訴える多くの被曝者と接し、被曝体験に関わる重要な証言を聞く機会を得た。
そこで、我々の研究グループは、セミパラチンスク核実験場近郊住民を対象としたアンケートによる被曝実態調査の必要性を痛感し、2002年より被曝実態に関するアンケート調査を開始した。
広島と長崎の場合、多数の被爆手記や証言が公表され、記録されている。
また、被爆者団体や公的機関によって大規模なアンケート調査も行われてきた。
これに対して、セミパラチンスク核実験の被曝者について、手記、証言、アンケート調査は、旧ソ連時代は言うまでもなく、ソ連崩壊とカザフスタン独立後も、ほとんどないと言って過言ではない。
少なくとも、本格的なアンケート調査は皆無である。
それゆえ、アンケートという手法を用いたセミパラチンスクの被曝実態の解明は、はじめての試みである。
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