日ソ戦争-帝国日本最後の戦い

2024年07月07日 16時25分31秒 | 社会・文化・政治・経済

麻田 雅文 (著)

日ソ戦争とは、1945年8月8日から9月上旬まで満洲・朝鮮半島・南樺太・千島列島で行われた第2次世界大戦最後の全面戦争である。

短期間ながら両軍の参加兵力は200万人を超え、玉音放送後にソ連軍が侵攻してくるなど、戦後を見据えた戦争でもあった。

これまでソ連による中立条約破棄、非人道的な戦闘など断片的には知られてきたが、本書は新史料を駆使し、米国によるソ連への参戦要請から、満洲など各所での戦闘の実態、終戦までの全貌を描く。

戦後の爪痕は大きかった。

日本にとって敗戦を決定づける最後の一押しであり、シベリア抑留、北方領土問題などの起点をなす戦争だった。

そして、朝鮮半島の分断、満州での国共内戦の幕開けともなった。

 


出版社より

日ソ
 

商品の説明

著者について

麻田雅文
1980(昭和55)年東京都生まれ.2003年学習院大学文学部史学科卒業.10年北海道大学大学院文学研究科博士課程単位取得後退学.博士(学術).日本学術振興会特別研究員,ジョージ・ワシントン大学客員研究員などを経て,15年より岩手大学人文社会科学部准教授.
専攻は近現代日中露関係史.著書に『中東鉄道経営史――ロシアと「満洲」1896-1935』(名古屋大学出版会,2012年/第8回樫山純三賞受賞)、『満 蒙――日露中の「最前線」』(講談社選書メチエ,2014年)、『シベリア出兵――近代日本の忘れられた七年戦争』(中公新書、2016年).『日露近代史――戦争と平和の百年』(講談社現代新書、2018年).『蒋介石の書簡外交――日中戦争、もう一つの戦場』上下(人文書院,2021年)。.編著に『ソ連と東アジアの国際政治 1919-1941 (みすず書房、2017年)

登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ 中央公論新社 (2024/4/22)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2024/4/22

 

 
ウクライナの今後がどうなるのか予測のために読んだ。新書ながら良くまとめられて書いてある。この手の本は多数出版されており、読むのが大変なのだが、この本は短時間で読める。安全な日本で、歴史として読んでいられる事は幸運と思っていいだろう。
 
 
 
1941年(昭和16年)4月、日ソ中立条約が調印された。
その後、同年12月8日、真珠湾攻撃によって、日本は米英と太平洋戦争をはじめた。
しかし、あまりにも無謀な戦争であった。日本軍の攻勢は緒戦の間のみ、そのご太平洋の諸島を飛び石伝いに米軍に攻略され、日本は終戦の径を探り始めた。
そこで頼りにしていたのが、日ソ中立条約の相手ソ連である。ソ連が、どんなに悪辣な国かに無知な日本政府はソ連に和平の仲介を依頼する。
しかし、その数年前からアメリカのローズベルト大統領はソ連のスターリンに対日開戦を度々要請している。ソ連は生返事で、なかなかアメリカの要請に応えなかった。それは、当時ドイツと戦っていたソ連はドイツ・日本との2正面作戦を避けたかったからである。
しかし、昭和20年5月にドイツはソ連に無条件降伏する。これで、戦線を対日一本にする条件は整った。
8月6日、アメリカは広島に原爆を投下。日本はソ連に対して、米英に対する和平の仲介依頼を加速する。
しかし、それに対するソ連の答えは8月9日の対日宣戦布告と満州における陸上部隊の一斉攻撃であった。
この日、アメリカは長崎に2発目の原爆を投下する。
あとは、満州はソ連によって暴虐限りを尽くされる。
日本は8月14日、ポツダム宣言の受諾を各国に通知。無条件降伏である。
アメリは8月15日をもって、対日攻撃を停止。日本では天皇により「終戦の詔勅」が放送される。
しかし、ソ連は対日攻撃をやめない。満州全土に対する攻撃、当時日本領土だった朝鮮に対する攻撃、更に南樺太、千島列島に対する攻撃を続ける。日本の悲劇は、当時日本は対米戦争を主体に考えており、北のソ連に対する守りは手薄になっていた。満州をはじめて、南樺太、千島列島はソ連軍の蹂躙に任され、9月2日日本政府と軍隊がソ連に対する降伏文書に調印した。
我々は一般常識として、日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連ばかりに非があるように思いがけだが、アメリカは、ソ連に対してしつこく参戦を要請し、勝利の節は南樺太と千島列島をソ連領にすることを合意していた。
これらの領土を完全に武力制圧するまではソ連は対日攻撃をやめなかったのである。
ただ、この「千島列島」は「国後・択捉」までの南千島と、それ以外の北千島とに日本は分けて考えており、南千島は歴史的にロシア領になったことは一度もない。これが日本政府の北方領土返還要求の根拠である。
ただ、ソ連は北海道の北半分も占領する意思をもっていたが、さすがにアメリカもこれを拒否した。
いずれにしても、二国間条約などまったく尊重しないソ連を最後の瞬間まで仲介役として頼りにしていた日本政府の希望的観測には、いまになってみれば只々呆れるばかりである。
更に、ソ連は手に入れた土地の収奪や婦女子に対する暴行は、一種の「報奨金」として黙認しており、対ソ連和平交渉をした軍人・外交官を含む60万人がシベリア送りになったことはソ連の仮借なさを如実に表している。
今日、ウクライナに対する侵攻も、ソ連という国の性格をしていれば驚くべきことではないのかもしれない。
 
 
太平洋戦争は昭和20年8月15日の玉音放送で終わったのではなく、8月9日に参戦したソ連はその後も攻撃を続けて、歯舞群島がソ連軍に占領されたのは9月7日だった。
 本書は太平洋戦争について、ソ連の満州侵攻開始以降を日米戦争とは切り離した「日ソ戦争」という別個の戦争として捉えるとの概念を固めた上で、その推移を詳細に追った研究書だ。
 最初スターリンはポツダム会議には出席したが、ポツダム宣言が出た時にはポツダムにはおらず、宣言にも署名してない。更に9月2日のミズーリ―号艦上の降伏文書調印式にもソ連は参加していない。またサンフランシスコ講和条約にも調印しておらず、未だに日露間には平和条約は締結されていない。要するに「日ソ戦争」はまだ終わっていないのだ。
 本書は、太平洋戦争に置いてソ連が如何に特殊な立場に立っていたか、またその特殊性を利用して、ソ連が如何に悪辣な行動をとったかを見事に描き出している。
 このソ連の「戦争の文化」は、今日のプーチンのロシアにも営々として引き継がれているという。

 一方、既に敗色濃厚であるにもかかわらず、7月に出たポツダム宣言を直ちに受諾せずに逡巡し、あまつさえ、既に参戦する腹でいるソ連に講和の仲立ちを依頼するという愚かな行動をとり、その結果、二発の原爆投下とソ連の参戦を許してしまった大日本帝国の指導者たちが、如何に愚かであったことか、全く言葉も無い。
 
 
1945年8月8日にソ連の宣戦布告により始まり、9月初めに、日本の降伏とソ連軍による満州、朝鮮北部、南樺太、千島諸島の占領で終わった日ソ戦争の通史(?)新書である。
著者は2016年に『シベリア出兵』(中公新書)を刊行した人。懐かしい。
一、目次と概要
◯第1章 開戦までの国家戦略ー日米ソの角錐、第2章 満州の蹂躙、関東軍の壊滅、第3章南樺太と千島列島への侵攻、第4章日本の復讐を恐れたスターリン。
◯第1章は開戦まで、計42頁。第2章はソ連軍の満州侵攻で、計121頁あり、本書の中心。最後に朝鮮侵攻が少し。第3章は南樺太戦が中心で、後半は占守島戦と千島列島占領、計71頁。第4章は戦後とシベリア抑留で、計13頁で終わってしまう。
二、私的感想
◯計290頁。よくまとまっていて、読みやすい歴史新書本と思う。
◯引用の一つ一つに、史料番号ではなく、きちんと史料名、書籍名が書かれているのが読者に親切であり、史料、記録者への敬意を感じさせる。一方、証言者のプライバシーの観点から、論題名を削り、書籍名だけ載せている引用史料もある。
◯温厚な(不適切ご容赦)本である、と思う。日ソ戦争は日本にとってはあまりにも悲惨な戦争であったので、日本人の情念・思考の方向が特定の方向に向きやすいと思うが、厚くない本の中で、一応、様々な立場、要素、背景等が簡潔に記述されている。
☆たとえば、スターリンはなぜ北海道への上陸作戦を諦めたのか、という重要論点については、3つの説、①それまでの日本軍の奮戦が、北海道の占領を防いだ。②ソ連による朝鮮北部と全千島列島の占領をアメリカが認めたので、妥協した。③アメリカとの関係悪化を恐れた。を紹介し、アメリカとの関係が受け入れられやすいが、明確に立証できる史料は存在しないとする。(226頁)
☆戦史の本なので、ソ連の勝因と日本の敗因も分析されている。敗因となると、一般読者としては、勝てるはずのない戦争だった、と思ってしまうが、本書でも、最大の敗因は、対米戦で日本の軍事力と経済は破綻していたこと、とされている。その後も敗因分析が続いていくが、これらは敗因というよりも、ア、戦争の開始を止められなかった原因、イ膨大な戦争犠牲者が出るのを止められなかった原因の解析と思われる。アの原因としては、大本営や関東軍は米国との本土決戦の準備を最優先し、ソ連の侵攻は予想していなかった。また、気づいていても、ソ連に和平仲介希望を託して、見て見ぬふりをしていた。イの原因としては、日本陸軍は将兵に戦車への肉迫攻撃や陣地の死守など玉砕を前提とした攻撃を命じ、ソ連もこれにより被害を受けながら、日本軍の降伏を容易に受け付けなかった、とされている。そして、最後に「圧倒的に不利な状況でも敢闘した日本軍の将兵は特筆に値する」と書いている。(257頁)

☆日ソ戦争の特徴は、ソ連の民間人の死傷者はゼロなのに、日本人の民間人は停戦後の死者まで含めると、約24万5千人がこの戦争で亡くなり、そのうち開拓団員らの死者は7万2千人にのぼることである。(238頁)。原因はソ連軍の蛮行、関東軍を信じたことによる避難の遅れ、集団自決になるが、関東軍が開拓民を棄てたのか否かの論点については、開戦前の関東軍には開拓民を避難される手段も残されていたが、その手段をとらなかった。しかし、関東軍にだけ責任を押し付けても全容は解明できない。満州移民を遂行した政府責任、満州の放棄を暗に指示した大本営の責任もある。何よりも、非戦闘員である開拓民や家族に無差別攻撃を行ったソ連軍の責任とする。(133頁)。
最後に満州国時代日本人が現地民に行った加害は、ソ連軍の開拓民への蛮行を相対化して不問に付す理由にはならないとする。
☆性暴力を含むソ連兵の蛮行については、8頁ほど使って解析されている。普遍的要因として、軍上層部が兵のストレス解消のはけ口として黙認、状況的要因として、日本人男性は徴兵され、警察等は武装解除され、蛮行を止める者がいなかった、構造的要因として、ソ連の男尊女卑や人権軽視の社会構造が戦時での性暴力につながったである。
☆一方、ソ連兵の弁明になりそうな記述もある。一般ロシア人は戦争に疲れていて、終戦復員を望み、いまさら日本と戦争などしたくはなかった。スターリンは日露戦争の復讐というプロパガンダで国民を煽った(240頁)
☆停戦後の民間日本人の死者の多いのも悲惨である。ソ連軍が、軍人や行政幹部を抑留してしまう一方、占領下の民間日本人の保護には無関心で放置し、暴力、飢え、寒さに苦しみ、伝染病等で死んでいった。日本が船を出して難民を帰還させることも認めなかった。(150頁、165頁)
☆民間人の自決、集団自決の多かったことも重要と思われるが、本書では自決については、検討されていない(と思う)。130頁に「追い詰められると集団自決を選ぶ「同調圧力」」とあるだけと思う。
◯各地での戦闘の実態については、詳しすぎず、簡単すぎず、戦史が得意でない読者にも理解できるように書かれていると思う。
三、蛇足
◯日ソ戦争と関連する本で、去年文庫化された『満蒙開拓団』(加藤聖文著 岩波現代文庫)、『樺太一九四五年夏』(金子俊男著 ちくま学芸文庫)の2冊が、買ってからずっと積ん読状態になっていたが、本書を読んで深く反省して読み始め、どちらも読了することができた。
 
 
 
 
日ソ戦争についてコンパクトにまとめた新書だが、典拠史料を示す注(ほとんどがソ連側史料)も付いており力の入った一冊で、巻末には資料としてヤルタ秘密協定草案(1945年2月10日付)とヤルタ秘密協定(1945年2月11日調印)も収録されている。

全体は四つの章に分かれ、第1章「開戦までの国家戦略」、第2章「満洲の蹂躙、関東軍の壊滅」、第3章「南樺太と千島列島への侵攻」、第4章「日本の復讐を恐れたスターリン」となっている。

日ソ戦争の期間は、8月8日夜の対日宣戦布告から歯舞群島の占領が完了するまでの約1ヵ月に過ぎないが(ソ連軍による北緯38度線以北の朝鮮半島占領までとすればもう少し長い)、この短時日の間に実に様々なことが起こっている。満洲方面での戦争については、残された居留民の悲惨な運命と合わせて比較的よく知られていると思うが、南樺太と千島での戦いについては必ずしも詳しく知られていないのではないだろうか。ソ連側の軍事行動が日本のポツダム宣言受諾後も続き、占領政策をも見据えたアメリカとの綱引きの中で進行したことも大きな特徴といえる(結果として、スターリンは北海道北半の占領を諦めた)。
ソ連軍による住民への無差別攻撃や略奪・性暴力などの蛮行、また戦後に行われたシベリア抑留といった問題に加え、言うまでもなく北方領土の占領は現在まで続く領土問題の起点となった。

一方、日本の関東軍は本来対ソ戦こそがその存在意義だったはずであるが、すでに南方や本土への戦力抽出で弱体化しており、戦争がはじまると作戦行動を優先して住民の保護は後回しとなった。居留民の避難にあたり(たとえ結果的にとはいえ)軍人の家族が優先されたことは、徹底抗戦の建前から一般住民に避難準備をさせなかった裏返しとも言えるが関東軍の「悪名」に駄目を押した。とはいえ日本側の問題は関東軍あるいは日本軍のみにあらず、根本はソ連の中立維持(対ソ静謐)を前提とした国家戦略そのものにあった。

本書はこうした多くの要素をバランスよく網羅し、短期間だが歴史的影響の大きい戦争の全体像を描き出すことに成功している。日ソ戦争について書かれたものはこれまで多くあり、また今後も多くの研究が行われることを期待したいが、現時点でこの戦争の全体像をつかむには最適の一冊だと思う。

ちなみに著者はほかにも『シベリア出兵』や『蒋介石の書簡外交』などの著作があり、いずれもお勧めできる。
 
 

 


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