「大日本帝国」崩壊: 東アジアの1945年

2024年07月07日 16時07分31秒 | 社会・文化・政治・経済

加藤 聖文 (著)

駒澤大学 文学部 歴史学科 日本史学専攻 教授

第二次世界大戦終結後の日本人引揚問題を国際関係史の視点から解明し、あわせて引揚後の彼らが日本社会においてどのような立場に置かれたのかを考察する。
また、近年は日本人の引揚問題を第二次大戦後に起きたユーラシア大陸の民族移動ならびに戦後の脱植民地化といった世界史的な視点から捉え直すことに取り組んでいる。
この他、現代社会におけるアーカイブズ(歴史記録)の管理と公開のあり方について、国際的動向を踏まえた実践的研究を行っている。

人や組織の持つ本質は、その最後の姿によく表れる。

著者は、大日本帝国の本質を、帝国を支えてきた植民地として台湾・朝鮮、また傀儡国家としての満州国への支配の終焉から描いた。

 

 
玉音放送によって終結した筈の第二次世界大戦は大日本帝国の臣民として満州国などに居住していた日本人や朝鮮人は、帝国の精算に直面させられたという事実。敗戦にあたり検討しなければならなかった帝国臣民について、あまりにも当時の政治家が無頓着であったこと、これは是非映画化してほしい。
現在の政治家への戒めとして。
 
 
大日本帝国の主な領域における終戦前後の動きを解説し、日本では昭和20年8月15日を期して戦前・戦後を分けているが、東アジアでは国共内戦や朝鮮戦争までをひとつの流れとして把握すべきだと結論している。
新書一冊に内地・台湾・朝鮮・南洋などあらゆる情報を盛り込んだので物足りない感もあるが、手っ取り早く概要がわかるという利点はある。
特段目新しい知見はなく知っている人には記憶を再確認する程度であるが、記述は概ね妥当で偏向は感じられなかった。
それにしても本書を読んで感じるのは、大日本帝国は偉大だったということだ。終戦までは懸命に各地域の経営に力を尽くし、ひとたび降伏が決まってからは、武装解除・権限委譲に注力する。台湾でも朝鮮でも暴動・略奪はなかった。混乱が始まるのは日本が引き揚げてからである。
 
 
日本の南方攻略作戦の作戦範囲は東西5400マイル南北4200マイルで一国が計画した作戦としては、史上空前の規模で
アレキサンダー大王やジンギスカーンの征図もこれにはおよばないものであった。
もちろん太平洋戦争は人類史上に残る悲劇ではあるが、同時に、戦争のはじめに多くの日本の若者達がロマンを掻き立てられたのも
理解できないことではない。

戦後、GHQ占領下に日本は、太平洋戦争は、全て悪で、失敗で、愚かな悲劇で、
2度と同じ過ちは繰り返さないと言う言葉の中に、敗戦を封印してしまったように感じられる。

東南アジアの人々と付き合うときに、その多くの国々が、一度は日本の勢力範囲に入っていたという歴史を封印してしまうと、
アジアと日本のつながりの深さ、同時に、それがもたらした悲劇的な側面や人と人との間の文化交流等、
様々なものが見えなくなってしまうのではないだろうか。

日本本土では終戦の日となった8月15日だが、満州、朝鮮、台湾、南洋諸島、そして樺太そこで、どのようにして日本の支配が終わり、
新しい枠組みが始まったのかというを本書を通じて、まとめて説明してもらった時に、親日的な国と言われる台湾と、
日本を敵視することで成り立ってきた朝鮮の2つの国の戦後の歩みが理解できたような気がする。

開戦から70年以上たち、戦争の歴史は、痛みを伴う記憶から、検証されるべき歴史へと変化してきていると思う。
日本軍の戦争を持ちだして来て、謝罪や賠償を執拗に迫るある国の世代も、それに対応する日本人の世代も
戦争を話でしか知らない世代に移っている。
そして、ある国の孫の世代が、日本人の祖父の行為を立てに、孫の世代に嫌がらせをしたり、賠償を請求したりと、
太平洋戦争の歴史は、今や、国際社会での主導権争いの政治カードに成っているのも事実である。
さらに、これらの時に誇張された歴史が日本人という民族に対してのhate crimeを正当化する
手段に成り下がろうとしていることも見過ごすことはできない。

日本人の多くの世代が、太平洋戦争の歴史をしっかりと理解し、必要なときは毅然として事実をもとにして反論することは、
これ以上のhate crimeを助長させず、また、歴史カードを一方的に、外交の場で、利用させないためにも重要なことではないだろうか。

この本を読んで、まさに目からうろこが落ちた思いがし、戦後史を、
アジアと言う視点から捉え直す新しい視点を私に提供してくれてとても面白かった。

アジアで仕事やビジネスを始めるヒトにとっても必読の書ではないだろうか。
 

日本が太平洋戦争に敗れたときに、当時の日本の占領地では、何が起こったかを述べている。
満州や朝鮮、台湾については、有る程度知られてはいるだろう。
しかし、樺太や南洋諸島についてのことは、あまり知られておらず、興味深い。
引き揚げは基本的に、軍人が優先で、民間人は、あまり考慮されていなかった。
アメリカは、朝鮮人が自治できるとは考えていなかった。
台湾では、日本の降伏後、国民党が来るまでは、あまり大きな変化はなかった。
そうした意外な事実が次々に明らかにされ、歴史を知ることの大切さを考えさせられる。
 
 
冷静に鳥瞰されて書かれていて、日本だけを賛美するものとは違います。重たいが解りやすく書かれていて、読み終える事が出来ました。ありがたい事です。現在(2017年=平成29年)の、日本は、数多くの、日本人の活躍・死によって、作られてきている事を、納得出来ました。国際法を都合よく変えてご都合主義的に対応する欧米露の方法は、日本も常に反芻・学習し、未来へ伝えねばならないと感じました。わたくし個人の無力さも感じるものでも ありました。今の日本を作って頂きました大戦時代の ご先祖さま皆さま皆さまが、安らかに眠られる事を祈ります。内容ある本(Kindle)に出会えました事を感謝申し上げます。
 
 

現在の日本を取り巻く国際情勢の大枠が決まったと言ってもいい終戦後の1ヶ月(台湾は数年)で、絶対無比なる「大日本帝国」の権力が植民地でどのように崩壊し、次の政治体制に委譲されたかを読む。資料を駆使して読む「大日本帝国」はまさに溶けるように消え、南北朝鮮も、中華民国の台湾支配も、ソ連の千島列島占領も、まさにこの数ヶ月に決まった。米ソ中が溶ける帝国にナイフを差し込むように、やすやすと植民地を分割していったのである。

冒頭にポツダム宣言受諾の過程が出るが、まるで目の前でドラマを見ているかのような説明で、類書に比して流れが良くつかみやすい。特に降伏の「聖断」の経緯について、天皇のパーソナリティに依存するのではなく、明治憲法の統帥権独立条項によるセクショナリズムに基づくもの、と分析するというのが新鮮に感じた。

本書を読んでいると、どの土地においても帝国消滅=民族解放ではなかったことが分かる。南洋群島、南朝鮮は米軍の軍政に、満州、北朝鮮はソ連支配に、台湾は国民党に取って代わられただけだった。南北朝鮮の分割は米国務省が30分で決めたことだという。地獄の独ソ戦から転戦してきたソ連軍と交戦中だった満州・樺太(特に満州)は不幸にも、ソ連軍の素行の悪さで大混乱に陥ったが、そのほかでは、敵に権力を譲渡するまでのほんの1ヶ月程度、権力の空白があったにもかかわらず不思議に平穏だった。

ヨーロッパでは崩壊した、大戦後のイレギュラーな秩序は極東で今なお厳然として残り、年々その秩序は強固になっている。現在の極東情勢の成り立ちに日本は無力な主役として関わらざるを得なかったんだと、改めて痛感した。
 

敗戦(終戦)前後を描いた本と言うのは、それだけで図書館が出来るのでは?と思えるくらい多々
出ております。戦後生まれ&戦争を知らない世代として、その中から(ほんの僅かですが)関連書籍を
読んできました。

 しかし、既存の本は日本(特に帝都の動き及び状況が主)本土と沖縄「のみ」描いた本ばかりでは?と
思ったのです。大日本帝国、と言いながら。

 確かに、敗戦(終戦)時と開戦時では領地が異なるから、という理由はあるでしょう。しかし、少なく
ともあの戦争には八紘一宇とか五族協和という−それが今ではただのお題目であることも知っていますが−
理念があったのです。

 しかし、本書は日本本土外の帝国領内に住む人々が、日本人を除いて「同じ」帝国臣民でありながら
日本本土とは(沖縄も本土外扱いと考えて差支えない。本書では類書があるので主題では無い)全く
異なる扱いを受けていたことを−冷静に事実を積み上げて−読者の前に提示しているのです。

 一例を挙げれば、引揚は軍人&軍属が主でした(一般人は後回しでも帰国できれば御の字だった)。
また、先に挙げたお題もの元に帝国臣民だった台湾人、朝鮮人、満州国人(殆どが漢民族だったと喝破
している)、そして南洋諸島や樺太の先住民は、帝国から戦勝国へ実権移譲を行うに当たって、何も
成されなかったのです(後年、一部が出身国へ引揚しただけ。日本人と違って恩給等は無)。

 本書では、上記例の様な結果となった帝国の崩壊を、トルーマンの就任から09/8/15過ぎまでを縦軸に
横軸に東京、京城(=ソウル)、台北、重慶・新京、南洋群島・樺太、東南アジアの6か所を挙げて
それぞれの地での8/15、つまり帝国の最後がどんなものだったのか?を鮮明に描いています。

 蒋介石の憤懣(対日本戦最大の犠牲者である中華民国は、戦勝国側なのにヤルタにもポツダムにも
呼ばれなかった等)、スターリンの焦り(ポツダム宣言では対日戦を行えない)と欲(極東での領土
拡大等)、トルーマンのアメリカ優位主観、日本陸軍の戦争に対する根拠のない見通し(最後の最後
までソ連を当てにしていたこと等)&無為無策・・・

 大日本帝国なるものは何だったのか?その一方で戦勝国は何をしたのか?を知るには最良の一冊と
考えます。特にあの時代を知らない者にとっては特に。

 

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