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人生における無断な時間

2018年01月06日 15時08分48秒 | 創作欄
夭折の詩人に強い思い入れがあった徹は、「自分は21歳くらいまで生きればいいかな」と考えていた。
若くして死ぬことに根拠があるわけではない。
それは青春の感傷のようなもであっただろうか。
心に秘めていた中田静江に、意を決して手紙を書いた。
大学に入学し、ガイダンスの日に偶然、彼女と講堂の席を隣合せた。
高校生のころに恋した芸術大学講師の娘に面影が似ていた。
その娘は当時、徹とは3歳違いの中学3年生であった。
世の中には似た人がいるものだと徹の胸は高鳴る。
そこで、「私は北島徹、よろしく」と挨拶をした。
相手は、警戒することもなく「私は中田静江」と名乗った。
その後、徹は彼女と接近する機会がなかった。
なぜなら、彼女の脇には常に浜田英子がいたからだ。
2年後、同期生から徹は嫌な噂を聞いた。
「あの二人、同性愛らしいよ」
福島の白川出身の岡野英治は徹の彼女への思慕を知っていた。
「北島、女は多い。中田静江に拘るな。気持ちは分かるが、時間の無駄になる」
徹は、時間の無駄でもいいと、彼女への手紙を書く。
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中田静江様へ
突然の手紙で貴女は驚くかもしれませんが、私の率直な思いを伝えます。
大学生活もあと2か月、卒業です。
心惜しくも貴女とお別れですね。
ですが4年間、親しくさせていただく機会がありませんでしたね。
そのことがとても心残りです。
卒業しても時々お会いできないでしょうか。
不躾なお願いです。
できればお返事をお待ちしています。
      北島徹

北島徹様へ
お手紙、何度も何度も読み返しました。
今、とても複雑な気持ちなの。もつたいないような、気恥ずかしいような・・・
私の気持ち整理できません。
2週間くらい、お時間くださいね。
中田静江

だが、その2週間後、徹は思わぬ手紙を中田静江から届けられ愕然とした。

北島徹様へ
ご返事、遅れてごめんなさい。私の親友の浜田英子さんをご存じね。
彼女が北島さんの悪い噂を知っていました。
北島さん堕落しているのですか?
辛辣なことも書きますが、
浜田さんの鋭い感性があなたを判定したのです。悪しからず。
今も、私の気持ちはとてもとても複雑です。
では、さようなら・・・。
中田静江

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