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東京の医療は逼迫(ひっぱく)していないというのは誤りだ――。杏林大病院(東京都三鷹市)の山口芳裕・高度救命救急センター長は7月22日、新型コロナウイルスの感染状況などを分析する東京都の会議でそう訴えた。ちょうどこの日、「Go To トラベル」事業がスタート。
「第1波」に比べ、医療体制に余裕があると強調する政府に疑問を呈した。発言の裏にどんな思いがあったのか、話を聞いた。
【写真】杏林大病院の山口芳裕・高度救命救急センター長=2020年8月6日、東京都中央区
「逼迫していない」との発言をテレビのニュースで聞いたのは、会議の前日でした。安倍晋三首相は自民党の役員会で、菅義偉官房長官は定例記者会見で相次いでそう言っていました。違和感がありました。
いま東京の入院者は約1500人。確保している病床は2400床。入院中の重症者は20人以上。数字だけ見れば「余裕があるじゃないか」と思うかもしれません。でも数字では見えない現場の負荷があります。
杏林大病院でも、7月後半から感染者の入院や、感染が疑われて救急搬送されてくる「疑い患者」が増えてきました。そのたびに救命救急センターでは、(高性能な)N95マスクやガウン、手袋などフル装備で対応します。診断結果が出るまでの間、疑い患者は病院が感染者用に準備している陰圧室に入ります。
感染者用の病床を増やすのは簡単ではありません。別の病気で入院している患者を転院させたり、感染者をなるべく個室でみられるようにレイアウトを変更したり。看護師らのシフトの組み替えも必要です。準備期間を考えると、逼迫しているという判断で動かなければ、病床が不足する事態に陥ります。
感染者が増えると、そこから少し遅れて増えてくるのが重症者です。その時点の入院患者数に余裕があっても、2週間後を見越して評価しないと判断を誤る。政治家は施策に責任をもつ立場です。単なるデータの観察者であってはいけないのです。
「第1波」の際は、手術を延期したり、入院の受け入れを制限したりすることで、感染者のための病床を確保してきました。その結果、多くの病院は大きな赤字を抱えました。それを踏まえると、通常の医療との両立も課題で、病床だけを増やすように言われても、そう簡単に受けられない事情があります。療養先のホテルの確保や自宅療養への道を十分に進めず、病院だけに負荷をかけることへの反発もあります。
朝日新聞社
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