11/7(日) 12:50配信
WIRED.jp
MERCK SHARP & DOHME CORP/ABACA/AFLO
人類と新型コロナウイルスの戦いは、21年10月になって過渡期に突入した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界の死者数が500万人に迫るなか、世界の多くの国が新型コロナウイルスと共に生きる「ウィズコロナ」戦略へと舵を切ったのだ。これまで新型コロナウイルスの根絶を目指していたオーストラリアとニュージーランドも厳しいロックダウンを取りやめ、ワクチンを普及させながらウイルスとの共生を目指す方針に切り替えている。
猛威を振るう「デルタ株」は、子どもたちにパンデミックを引き起こすのか? 知っておくべき3つのこと
ワクチンの普及に伴い多くの国がワクチンパスポートという条件付きで国境を開くなか、いまだゼロ・コロナ戦略をとっているのは中国くらいだ。中国ではいまだ国境の閉鎖、突然のロックダウンなどが実施されており、社会的・経済的活動のたび重なる混乱を招く戦略をいつまで続けられるかが注目されている。
こうしたなか、時間の経過と共に抗体の量が減少することにより、ワクチン接種者がウイルスに感染してしまうブレイクスルー感染も数多く報告されるようになってきた。イスラエルの研究では、中和抗体の量が少ない人にブレイクスルー感染が発生しやすくなることが確認されている。朗報は3回目の接種であるブースターショットによって抗体量を再び増やし、感染を予防できるということだ。
また、ブースターショットに異なるメーカーのワクチンの組み合わせても高い予防効果を得られることが明らかになっている。特にアデノウイルスヴェクターワクチン(アストラゼネカ製やジョンソン・エンド・ジョンソン製のワクチンなどが該当する)の接種後にmRNAワクチンをブースターとして接種する場合、3回ともアデノウイルスヴェクターのワクチンを接種した場合よりも抗体量が高くなるという。こうしたことから、一部の国ではブースターショットとして初回とは異なる製造元のワクチンを接種する試みも進められている。
国民のワクチンへの不信感が原因で完全接種率が約33%と低迷しているロシアでは、10月下旬に1日の感染者数が40万人を超え、1日の死者数も1,150人以上と過去最高を記録した。一方、完全接種率が84%と高いシンガポールでも新規感染者数が過去最高の4,000人を記録したが、死者数は1日15人ほどと低く抑えられており、ワクチンの効果が表れたと言えるだろう。日本では8月から9月にかけて猛威を奮った第5波が収束し、10月下旬時点で感染者数が週平均で1日300人以下にまで減少している。
10月は、COVID-19に有効な経口治療薬や、着実に感染者数を増やしつつある変異株に関する情報などが発表された。世界が経験している新型コロナウイルス関連のニュースを振り返る。
トンガにも新型コロナウイルスが上陸
南太平洋の島国であるトンガでは10月29日、国内で初めて新型コロナウイルス感染者が確認され、国民がワクチン接種を急いでいる。ニュージーランドの北東に位置する人口10万人ほどのトンガは、これまでCOVID-19の感染者が報告されていない数少ない国のひとつだった。
トンガ初となった感染者はニュージーランドから帰国したばかりで、ファイザー製のワクチン接種を終えていたほか出国前の検査では陰性だったという。ところが、帰国後のホテルでの隔離期間中に陽性反応が出た。トンガでこれまでワクチンの完全接種を終えた人は人口の3分の1に満たなかったが、現在は何千人もの人々がワクチン接種センターに足を運んでいるという。
デルタ株に新たな変異
デルタ株がさらに変異を重ねた変異株「AY.4.2」(「デルタプラス」と呼ばれることもある)が注目されている。これまでAY.4.2感染者の93%は英国で報告されているが、この変異株が症例に占める割合は徐々に増加しており、10月31日の時点では1週間に英国で報告されたデルタ株の症例全体の11%以上をAY.4.2が占めている。
AY.4.2には、細胞に結合して侵入するためのスパイクたんぱく質にある2つの変異を含む3つの変異がある。デルタ株との競合のなかでもゆっくりと増え続ける理由として、AY.4.2がデルタ株よりも感染力が強いのか、あるいはワクチン接種による免疫を回避する能力が高いのかはいまだ不明だという。WHOが発表した疫学情報によると、この変異株は英国やインド、イスラエル、米国、ロシアなど少なくとも42カ国で発見されている。
初の「飲む治療薬」が誕生
米製薬会社のメルクが、COVID-19の「飲む治療薬」となる経口治療薬「モルヌピラビル」の臨床試験の中間結果を発表した。発表によると、1日2回の投与によってCOVID-19による入院や死亡リスクを約半減できたという。英医薬品規制当局は11月4日、モルヌピラビルをCOVID-19の経口治療薬として世界で初めて承認した。この抗ウイルス薬はもともとインフルエンザ用に開発されたもので、ウイルスが複製する際に成分の化合物がRNA鎖に取り込まれエラーを生じさせて増殖を防ぐ仕組みだ。
新型コロナウイルスの検査結果が陽性で重症化の恐れがある人を対象とした第3相臨床試験で、モルヌピラビルは非常に有効とする結果が出た。特に感染初期の早期治療として効果的だと考えられている。
一方で、中等症の患者(入院を伴うほどの症状)を対象にしたインドの別の治験では、モルヌピラビルに優位な有効性が見られなかったという結果も出た。患者の症状が重症であればあるほど薬の治療効果は低くなるとみられる。
メルクはワクチンが不足している低所得国105カ国でモルヌピラビルを安価に製造・販売できるようにするため、国連が支援する非営利団体「医薬品特許プール(MPP)」とライセンス契約を結んだ。これにより、アフリカやアジアを中心とした低・中所得国105カ国の企業がモルヌピラビルの製剤を製造できるようになる。
米国で5~11歳へのワクチン緊急使用が承認
米食品医薬品局(FDA)は10月29日、5歳から11歳までの子どもたちにファイザー製のワクチン接種を承認した。この年齢層の子どもには免疫反応が強く出ることから、成分も10マイクログラム(通常の3分の1)と低用量になっている。ワクチンを接種した5歳から11歳までの4,600人以上の被験者(ワクチン群3,100人、プラセボ群1,538人)を対象にした治験では、90.7%の予防効果があることがわかった。
FDAおよび米疾病管理予防センター(CDC)の安全性監視システムでは、ファイザーのワクチン接種後、特に2回目の接種後に心筋炎(心筋の炎症)および心膜炎(心臓を取り巻く組織の炎症)のリスクが増加することが以前に確認されており、観察されたリスクは12歳から17歳の男性で最も高くなっている。しかし、5~11歳までの年齢層については重篤な副作用がこれまで報告されていない。
米国では5歳から11歳の小児におけるCOVID-19の症例が、18歳未満の症例の39%を占めている。CDCによると、小児におけるCOVID-19の症例のうち、5歳から11歳までの入院患者は約8,300件だった。10月17日の時点で、米国ではCOVID-19による18歳未満の個人の死亡例が691件報告されており、5歳から11歳の年齢層では146件の死亡例が報告されている。
北欧ではモデルナ製のワクチンを一時停止
スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランドは、モデルナのワクチンが10~20代の若い男性に心筋炎・心膜炎を引き起こす恐れがあるとして、若い世代への接種を中断すると発表した。
これらの疾患は特に2回目の接種後と関連している。デンマーク保健局は、極めてまれな副作用であり、ほとんどは軽度で自然に治癒するとしながらもこの決定を下した。これらの国々では、若い世代にファイザーのワクチンを奨励している。
これを受け、モデルナは次のように声明を発表した。「心筋炎や心膜炎は一般的に軽度であり、標準的な治療と休養により短期間で回復する傾向がある。COVID-19に感染した場合も心筋炎のリスクは大幅に増加するので、ワクチン接種はこれを防ぐ最善の方法だ」
なお、米国での研究によると、20歳未満の若い男性がCOVID-19に感染したあとに心筋炎を発症する可能性は、ワクチンを接種した人に比べて最大で6倍になるという。
ワクチンと自然感染で得られる抗体は違うのか?
わたしたちが新型コロナウイルスから“解放”されるために重要なもののひとつとして、体内を循環している抗体とメモリーB細胞が挙げられる。ウイルスを撃退するために体内を巡る抗体は、ワクチン接種後や自然感染後すぐにピークに達し数カ月かけて減っていく。一方、メモリーB細胞は病原体を“記憶”する役割をもっており、何十年にもわたって重症化を予防できる。また、メモリーB細胞は時間の経過とともに進化し、病原体の変異にも対応できるより強力な抗体を次々とつくりだすのだ。
科学学術誌「Nature」に掲載された研究によると、ワクチン接種は自然感染に比べて大量の循環抗体を生産するが、メモリーB細胞が同じようにつくられるわけではないことが明らかになっている。自然感染では数カ月から1年間は進化し続けるメモリーB細胞が生まれ、変異株に対しても柔軟に対処できる強力な抗体がつくられるというのだ。
これに対し、ワクチンで誘導されたメモリーB細胞は、従来株に対しては強力な抗体を発現できても、それらの抗体が変異株を効果的に中和する多様さには欠けるという。自然感染のあとにmRNAワクチンを接種した患者の免疫が、mRNAワクチンを2回接種した人たちよりもより強力で幅広い中和能力をもつ理由だと、研究者らは考えている。
しかし、ワクチンによってメモリーB細胞を訓練する方法もあるかもしれない。医学学術誌「CELL」で発表された論文は、ファイザーのワクチンの1回目と2回目の接種の間隔を通常3~4週間ではなく6から14週間おいたときの免疫反応を報告している。それによると、メモリーB細胞がより強力に幅広く反応することが確認できたという。
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2021年10月は、COVID-19を予防するためのワクチンを定期的に摂取する必要性を確信させる報告が続いた月だった。体内の抗体量は、自然感染やワクチン接種にかかわらず時間が経てば低下する。それゆえ、体内の抗体量が低下した人たちから再感染やブレイクスルー感染が周期的に訪れるようになるのだ。
近い将来、再度ワクチンを接種せずとも簡単に抗体量を上げられるような「鼻腔スプレー」や、肌にパッチを貼って投与する新しいかたちの「貼るワクチン」の需要が高まることだろう。朗報は、すでにこれらのワクチンが開発され臨床試験が進められていることだ。
いずれにせよ、早い段階で接種を完了した人たちにとっては、いまのところブースターショットが感染予防のいちばんの近道となる。