goo blog サービス終了のお知らせ 

核の先制不使用に関する議論の経緯と課題 

2025年08月07日 09時33分58秒 | 社会・文化・政治・経済

立命館アジア太平洋大学客員教授 小川伸一

1.はじめに 
 核の「先制使用(first use)」とは、核兵器以外の手段で武力攻撃を加えてきた敵対国に対し、先んじて核兵器を使用することを意味する。他方、核の「先制不使用(no first use)」とは、核兵器を相手より先に使用することはないが、相手の核使用に対しては報復使用の選択肢を留保するというものである。 
冷戦時代にあっては、核の先制使用とは、通常、武力紛争中、敵対国よりも先に核兵器を使用すること、すなわち「先行」使用を指していた。核兵器を用いて戦端を開くことも語義的には核兵器の先制使用の範疇に入るが、こうした核兵器を用いた先制核攻撃と武力紛争中の核の先制使用は区別されなければならない。しかしながら往々にして、こうした区別をせずに、核兵器を用いて戦端を開くことも核の先制使用の範疇に入れて議論される傾向がある。国際法上、他に対処手段がないことを条件に、差し迫った軍事的脅威を排除するための先制攻撃(preemptive strike)が自衛権の行使として許容されているためであろう。先制核攻撃のもう一つの形態として「ファースト・ストライク(first strike)」と呼称されるものがある。これは、先制核攻撃で敵対国の戦略核戦力に報復能力が残存しないほどの壊滅的損害を与える核攻撃で、「武装解除的ファースト・ストライク(disarming first strike)」と称されることもある。
このように核の先制使用には様々な形態があるが、核使用をめぐる政治・道義的障壁を考慮するならば、武装解除的ファースト・ストライクは勿論のこと、差し迫った軍事的脅威に直面した場合であっても核兵器による先制攻撃で戦端を開く蓋然性は極めて低い。あり得るとすれば武力衝突勃発後の戦闘作戦行動の流れを受けてやむを得ずに敵対国に先んじて核使用に走るという「先行」使用であろう。したがって本稿では、核の先制使用という場合、武力紛争中に交戦国の一方が先に核兵器の使用に踏み切ることを指すことにする。 
 核保有国が核の先制使用、先制不使用のいずれを採るかによって、核抑止戦略や核軍縮に大きな差異をもたらす。本稿は、核時代に入ってから今日までの核の先制使用と先制不使用をめぐる議論の流れを概観し、核の先制不使用の意義と課題を論ずることとする。 
 
 本稿で「核保有国」と称する場合、核兵器不拡散条約(NPT)上の5核兵器国に加え、NPTの枠外
で核兵器を保有するようになったインド、パキスタンのほか、同じくNPT未加盟で核兵器の保有が確か
らしいイスラエル、さらにはNPTを脱退して核爆発実験を行った北朝鮮を指している。 

2.核の先制使用、先制不使用をめぐる核保有国の姿勢 
(1)米国及びNATO 
 米国における核の先制使用、先制不使用をめぐる議論は 1950 年代の初め頃迄さかぼる。対ソ封じ込め政策に軍事的色彩を強める契機となった国家安全保障会議文書NSC-68 は 1950 年9月にトルーマン大統領によって承認されたが、その文書は、核の先制不使用政策を米国が弱体であるとか、あるいは同盟国を見捨てるとの印象を与えかねないとして明確に拒否している。アイゼンハワー政権になると、米国は核の先制使用政策を明確に打ち出すに至る。例えば 1953 年 10 月のNSC-162/2 は、ソ連あるいは中国が西側諸国に武力進攻した場合、米国は核兵器を他の兵器と同じように使用することを考慮すると述べ、通常戦力攻撃に対して核兵器を使用することを厭わない姿勢を見せている。欧州の北大西洋条約機構(NATO)諸国はこの方針を歓迎し、米国の戦術核兵器の導入を加速させていくのである。こうして旧西欧諸国には多数の米国の戦術核兵器が持ち込まれ、核の先制使用は、1950 年代の対ソ抑止の重要な柱と位置付けられたのである。例えば、アイゼンハワー政権のダレス国務長官が 1954 年1月に公表した大量報復戦略においては、核の先制使用の威嚇を前面に押し出して、通常戦力面で優位にあったソ連軍を中心とするワルシャワ条約機構(WTO)軍による西欧侵攻を抑止しようとしていた。 
このように、冷戦時代の初期、戦略核戦力で圧倒的に優位にあった米国は核の先制使用の威嚇を前面に押し出す政策を採り続けたが、ソ連の対米核報復能力が整備されるにつれて、状況次第で核の先制使用もあり得るという方向に修正され、その威嚇は次第に曖昧性を帯びるようになってきた。ジョンソン政権時の 1967 年に採択され、その後長くNATOの抑止戦略として依拠された柔軟反応戦略では、通常戦力を強化するとともに、必要とあらば核の先制使用に訴えるとの方針の下で対ソ抑止を構築しようとしたのである。また、英仏も米国と同様、核の先制使用の選択肢を留保する姿勢を採った。 
 核の先制使用の選択肢を維持する米国の政策は、欧州のみならず、朝鮮半島及び中東においても適用されていた。米国が韓国に戦術核兵器を最初に持ち込んだのは 1957年後半から 1958 年初頭の間と言われている。
当時の南北朝鮮間の通常戦力バランスは、北朝鮮の優位にあり、この優勢な北朝鮮軍に対する抑止力の強化を狙って核兵器が配備されたのである。陸地を介して対峙していながら通常戦力バランスで劣勢にあるという状況は、当時北朝鮮が核兵器を保有していない点を除けば、旧西欧が直面した戦略環境と相通ずるものがあった。1975 年6月、日本と韓国を歴訪したシュレシンジャー米国防長官は、韓国内に核兵器を配備していることを確認するとともに、北朝鮮による対韓武力侵攻に対し、核使用の可能性を示唆したのである。このように核兵器の先制使用の可能性を打ち出して抑止力の強化を狙った点は欧州と同じであった。
また中東に関しては、ソ連によるアフガニスタン侵攻を受けて、カーター大統領が 1980年1月の一般教書演説のなかで、軍事力を含めあらゆる手段を用いてソ連の進出から湾岸地域を守るとの趣旨の「カーター・ドクトリン」を打ち出したが、この軍事的手段のなかには核兵器の先制使用も含まれると解釈されていた。 
 ソ連がその戦略核戦力の残存性を確保し、米国に対する報復核能力を整備するにつれて米国が宣言していた核の先制使用の信憑性に疑義が生じるようになった。米ソ間の核の投げ合いによって米国が未曾有の損害を被ることが避け難い状況になったとすれば、そうした事態につながる核の先制使用は政策としての信憑性が疑われるようになったとしても不思議ではなかった。米ソの戦略関係が1972年5月の「弾道ミサイル迎撃ミサイル(ABM)制限条約」によって法的にも確認されたいわゆる「相互確証破壊(MAD)」態勢に入ると、核の先制使用を選択肢の一つとする抑止戦略に対する批判の声が大きくなり、米国内の一部専門家や元政府関係者の間で核の先制不使用に転換することを求める声が出てきた。その論拠は次の通りである。第1に、核兵器を先に使用するか否かを曖昧にしておくとその不確かさが通常戦力による防衛態勢の構築に悪影響を与える。これに対し、明確に先制不使用を政策として採択すれば、それに応じた通常戦力の防御態勢を構築することができ、結果的にNATOの抑止力を高めることになる。
第2に、限定的な核使用であれ、一旦ソ連との間で核兵器が使用されれば、核の投げ合いを制御する術はなく、その究極は相互自殺である。そうした破滅をもたらす核の先制使用を政策の選択肢として持ち続けることには信憑性が欠如しているばかりでなく不道徳ですらある。したがって通常戦争と核戦争の敷居を高めるためにNATOの通常戦力を強化するとともに、核の先制使用を放棄して先制不使用に転換する必要がる。 
 しかしながら、核の先制不使用への転換を求める声は、欧州のNATO諸国、とりわけ西独からの批判や米国内の反論を受けて日の目を見ることがなかった。たとえば、ドイツ外交協会のカール・カイザーなど4名の西独人は、1982 年夏号の『フォーリン・アフェアーズ』誌において、米国が核の先制不使用政策をとれば、核の恐怖からソ連を解放することになり、ソ連の武力行使を容易にすると批判を加え、従来どおり先制
使用の選択肢を維持することを主張した12。また、当時NATO軍最高司令官の職にあったバーナード・ロジャーズは、核の先制不使用は米国の戦略核戦力を西欧の防衛から切り離すことになると批判を加えた13。 
 1990 年代に入ると、長年米国をして核の先制使用の選択肢を持ち続けることを余儀なくさせていた欧州の通常戦力バランスが大きく変容し始めた。1990 年 11 月には東西の通常戦力バランスを低レベルで均衡させる欧州通常戦力(CFE)条約が締結され、しかもソ連軍が東欧から撤退し始めていた。それにも拘わらず、米国及び米国の核兵器を導入している西欧諸国は、1991 年 11 月に採択されたNATOの新戦略概念
において核の先制使用の選択肢を放棄しようとしなかった。ただし、1991 年9月に打ち出されたブッシュ(父)大統領による自主的核軍縮措置の結果、欧州に配備されていた戦術核兵器の殆どが撤去され、数百発の航空機搭載自由落下核爆弾のみを残した事実にかんがみ、欧州における米国の核使用は「最後的手段(last resort)」と位置付けられるほど後景に退いたのである。 
1991 年 12 月、第二次世界大戦後長年にわたって西欧に脅威を及ぼしてきたソ連が解体したが、NATOは核の先制使用の選択肢を維持したままであった。1998 年にドイツのフィッシャー外相がNATOの政策としての核の先制使用の見直しを提案した際、フランスは先制不使用を抑止政策と両立しないという理由で、また英国は潜在敵国をして我々の対応を読み切れないようにしておくには先制使用の選択肢を維持しておくべきとの理由で拒否している14。先制使用の可能性は大きく遠のいたが、この選択肢の温存は、残された自由落下核爆弾とともに米国の対欧安全保証コミットメントを示す政治的シンボルとしての役割が期待されたのであろう。 
米国は、クリントン政権時の 1994 年9月とブッシュ(子)政権時の 2001 年 12 月にそれぞれの「核態勢見直し(NPR)」の一部を公表したが、核使用に関してはいずれも「意図的曖昧性(calculated ambiguity)」と称される姿勢を保ち、核の先制使用の選択肢を放棄しなかった。「意図的曖昧性」とは、米国や同盟国に対する非核攻撃、とりわけ生物・化学兵器攻撃を受けた場合に核兵器を用いて対応するか否か、すなわち
核の先制使用に踏み切るか否かを曖昧にしておき、米国の核抑止力の維持を図ろうとするものである。 
しかしながら、こうした抑止政策は 1978 年の第1回国連軍縮特別総会の折に公表された米国の「消極的安全保証」宣言やNPT再検討・延長会議の直前の 1995 年4月に再度発出された消極的安全保証宣言に反するとの批判を受けていた。米国の消極的安全保証は、「核兵器不拡散条約(NPT)の締約国たる非核兵器国や核爆発装置を取得することを禁止する国際的約束の下にある非核兵器国に対しては、米国及びその同盟
国、または米国が安全保障上の約束を行っている国に対して、他の核兵器国と同盟ないし連携して攻撃を加えてこない限り、核兵器を使用しない」との趣旨であるが、この宣言の下では、非核兵器国が単独で米国や米国の同盟国に対して生物・化学兵器攻撃を加えても核兵器を使用しないことになるからである。 
 こうした矛盾に手当をするとともに、核の先制使用の機会を絞り込もうとしているのがオバマ政権である。2010 年4月に全文が公表されたオバマ政権のNPRは、核兵器の「基本的な役割」が米国や同盟国に対する核攻撃を抑止することにあると述べ、こうした方針に則り、NPT締約国で条約を順守している非核兵器国に対しては、そうした国がたとえ米国やその同盟国に生物・化学兵器攻撃を加えても米国は核兵器を使用しない方針を明らかにした。この結果、「意図的曖昧性」は、NPTやその他の核不拡散上の取極めを順守している非核兵器国に対しては適用されないこととなった。
ただし、生物兵器の脅威が高まった場合にはこの方針を見直すことや、核保有国やNPTを順守しない非核兵器国からの非核攻撃に核兵器で対応する可能性、すなわち核の先制使用の可能性を排除していない。しかしながら同時にオバマ政権が発表したNPRは、米国が核使用を考慮するのは「米国や同盟国・パートナー国の死活的利益(vital interests)を守るという極限状況(in extreme circumstances)においてのみ」とくぎを刺している。しかも、核兵器の「唯一の目的(sole purpose)」が核攻撃を抑止すること、すなわち核の先制不使用政策を採ることができるような状況を創り出すよう努力することを宣言しているのである16。 
(2)ソ連/ロシア 
 ソ連は、ブレジネフ時代の 1982 年6月、一方的に核の先制不使用を宣言した。当時、この宣言の信憑性には疑問が持たれていたが、事実、欧州でNATOとWTOの間で戦端が開かれた場合、NATOが通常戦力のみを用いている段階であってもソ連は早期に核兵器や化学兵器の使用に踏み出すことを記したソ連の軍事関連文書がNATO側にわたっている17。ソ連に限らず核兵器国の核戦略には政治・外交的配慮に重きを置
いた「宣言政策(declaratory policy)」と実際の「運用政策(operational policy)」があるが、ソ連のブレジネフ時代の先制不使用宣言は宣言政策の最たるものと言えよう。 
 ソ連の解体後新生ロシアが誕生し、ロシアは旧ソ連の核兵器を継承したが、旧ソ連解体に伴って弱体化したロシアの通常戦力を背景に核の先制不使用宣言を見直さざる を得なくなった。こうして 1993 年 11 月、当時のロシア国防相グラチョフは、核の先制使用政策に回帰することを宣言したのである。 
2010 年2月、ロシアは 2020 年ころまでを念頭に置いた新軍事ドクトリンを公表した。その中でロシアは、核兵器で対応する事態に、自国や同盟国が核攻撃その他の大量破壊兵器攻撃を受けた場合のほか、自国の存亡を危機にさらす通常戦力攻撃を受けた場合も含めている。このようにロシアは、NPTなどの国際的規範に対する国家の姿勢・行動によって差異を設けることもなく、また 1995 年4月に公表したロシアの消極的安全保証宣言に背馳する形で20、自国に大量破壊兵器攻撃や大規模通常戦力攻撃を加えてくる国家に対しては一律に核兵器を使用する意思を示している。通常戦力攻撃に関しては自国の存亡が危機にさらされるか否かを条件にしているものの、米国に比べ核の先制使用を考慮するシナリオは多いと言えよう。 
(3)中国 
中国は、1964 年 10 月の核実験直後から今日まで一貫して、いつ、いかなる場合においても核兵器を先に使用しないという無条件の核兵器の先制不使用を宣言している。同時に中国は、NPT上の他の核兵器国に先制不使用政策を採るよう促している。
中国が核兵器の先制不使用に固執している理由の一つは、中国が米ソ(露)のいずれかに対し核兵器を先制的に使用することは自殺行為に等しいほど中国の核戦力が劣位にあるという実際的な思惑があろう。また、無条件に核の先制不使用を宣言している国家に対して核兵器を使用することは政治的にも道義的にも難しいはずと考えるなど、核攻撃を回避する手段の一つと捉えているのかもしれない22。さらに、建国後の中国が
米国、インド、ロシア、ベトナムなどと通常戦力を用いた武力紛争を経験した事実にかんがみ、中国に対する通常戦力攻撃は核兵器を用いなくても対処できるとの自信を得ているのかもしれない23。加えて、他の核兵器国に核の先制不使用の採用を促し、 ロシアは、1995 年 4 月、「ロシア連邦は、以下の場合を除き、核兵器の不拡散に関する条約の締約国である非核兵器国に対して、核兵器を使用しない。すなわち、ロシア連邦、その準州、その軍隊若しくはその他の兵員、その同盟国、又は、ロシア連邦が安全保障上の約束を行っている国に対する侵略その他の攻撃が、核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き、それらの非核兵器国に対して核兵器を使用しない」と述べ、オバマ政権が修正する前の米国の消極的安全保証宣言と同趣旨の宣言を発出している。藤田久一、浅田正彦編『軍縮条約・資料集』第二版(有信堂、1997)、107 頁。 
 同時に中国は、いつ、如何なる場合においても非核兵器国や非核地帯条約に加盟している非核兵器国には核攻撃を加えないとする無条件の「消極的安全保証」も宣言している。 

制不使用体制の構築を訴えているのは、先制不使用が核兵器の軍事戦略上の役割を相手の核攻撃を抑止することのみに絞り込むことになることから、圧倒的に優勢な状況にある米ソ(露)の核戦力の軍事戦略上の価値を低下させることにつながると考えているのかもしれない。なお、中国は、核の先制不使用を宣言しているものの、射程の短い戦術核兵器を保有しているか否かについては明言を避けている。また、先制核攻
撃の意図がないことを示すためか、平時においては、DF-5Aなど液体燃料推進式のICBMには核弾頭を搭載していないと推定されている。DF-31Aのような固形燃料推進式のICBMについてははっきりしていないものの、おそらく同様に平時にあっては核弾頭を搭載していないものとみられている。 
しかしながら、米国など一部の国の通常戦力のハイテク化など、通常戦力面での能力の格差が広がるにつれ、中国国内においては、無条件の核の先制不使用政策を再検討すべきとの意見が散見されるようになっている。これに対し、核兵器の先制不使用という考え方は、核戦力の役割を核攻撃に対する報復のみと捉える中国の考え方から論理的に導き出されるものであり、変更することはできないとの意見も見受けられる。
他方、中国政府は、2010 年NPT運用検討会議における中国代表の発言にも見られるように、従来からの無条件の核兵器の先制不使用及び消極的安全保証を堅持する意向を示し続け、変更する兆候を見せていない。しかしながら、米国が開発に着手している「即時グローバル打撃力(PGS)」など通常弾頭を搭載した戦略弾道ミサイルが本格的に配備されると、わずかな数量の中国のICBM戦力は米国の通常戦力によっ
て無力化される可能性が出てくる。こうしてみれば、米中の通常戦力の格差がさらに拡大したり、あるいは早期警戒システムの運用など中国の核戦力が充実してくれば、中国が核の先制不使用の見直しに踏み出すこともあるかもしれない。 
(4)インド、パキスタン 
インドは、1999 年8月に発表した核ドクトリン草案において、核兵器の目的をインドに対する「核の使用または使用の脅しを抑止すること」にあると規定し、「先に核攻撃は行わない」と述べて、広い意味での核兵器の先制不使用政策を採る意向を示していた。先制不使用を宣言した理由として、当時のジャスワント・シン外相は、インドは、NPT上の核兵器国と異なり、核兵器の主たる役割を核攻撃の抑止と位置付け、それ以上のものでないと考えているからであると説明していた29。ところが 2003 年1月になると、生物兵器や化学兵器攻撃を受けた場合、核兵器による反撃があり得ることを示唆するようになり、限定的ではあるものの核の先制使用の選択肢を保持するようになった。 
 他方、パキスタンに関しては、通常戦力でインドに対し劣勢にあることから、インドの優勢な通常戦力を抑止するために核の先制使用政策を採っている。1998 年5月の印パ両国の核爆発実験後にインドがパキスタンに対して核の先制不使用を呼びかけた際、これを拒否していることからもこのことは窺える31。パキスタンが核使用を決断する状況についてはあまり語られないが、2002 年の初めごろパキスタン戦略計画部長
(Chief of the Strategic Plans Division)の職にあったカリド・キドワイ中将の発言がある。キドワイ中将は、パキスタンの核兵器はインドを標的にしていると述べた後、パキスタンが核兵器を使用するケースとして次の4つのシナリオを挙げている。
第1は、インドがパキスタンに武力攻撃を加え、パキスタン領土の大部分を占領した場合である。第2は、将来の印パ戦争において、インドがパキスタン陸軍、あるいは空軍の大部分を壊滅させた場合である。第3は、インドがパキスタン経済を麻痺させた場合であり、そして第4は、インドがパキスタン国内で騒擾を引き起こすなど国内政治情勢の不安定をもたらした場合である32。パキスタンが核使用に踏み切るとするこ
れらの具体的事例から判断すると、パキスタンがインドによって軍事的に大きく追い込まれた場合や政治・経済的に危機に陥った時に核兵器に訴えることを示唆している。
こうしてみれば、パキスタンは核の先制使用政策を採りながらも、大きな国家的危機に直面した時の手段と位置付けていることが窺える。 
 
3.核の先制使用の意義と問題点

中国を除く核保有国は、明示的に宣言する、しないにかかわらず、あるいは米国のように先制使用を考慮するシナリオを絞り込みながらも、核兵器の先制使用の選択肢を維持している。核抑止の対象に核攻撃のみならず、大規模な生物・化学兵器攻撃や通常戦力攻撃をも含めるなど、核兵器の抑止力に期待をかけているからである。圧倒的な通常戦力を保有している米国が核の先制使用の選択肢を完全に放棄できない主な理由は、多くの非核同盟国を抱え、同盟国の軍事的安全にコミットしているためである。核の先制使用の選択肢を保持していれば、同盟国に対する核攻撃のみならず、生物・化学兵器攻撃や大規模通常戦力攻撃も核抑止の対象とすることができ、様々な軍事的脅威に対して同盟国の安全を保証できることになる。しかも、こうした広範な安全保証を供与することにより、政治的に優位な立場で同盟を運営することが可能となる。 
さらに、核の先制使用の効用は抑止の側面のみにとどまらない。核の先制使用政策は、生物・化学兵器攻撃も抑止の対象にできることから、生物・化学兵器の使用を難しくし、それだけ生物・化学兵器の廃絶に役立つと考えることもできる。国際社会は生物兵器禁止条約及び化学兵器禁止条約を成立させて生物・化学兵器の廃絶に向かっているが、生物兵器禁止条約には査察・検証規定がなく33、その実効性には懸念がもた
れている。生物兵器は、化学兵器と異なり未だ本格的に兵器化されていないが、使用条件が揃えば、核兵器に匹敵する殺傷力を持つと言われている34。こうした状況にかんがみ、核兵器によって生物兵器の使用を抑止する途を残しておけば、それだけ生物兵器の開発・保有の動機も減殺されると考えることができる。 
しかしながら、核の先制使用の選択肢を保持し続けることには問題点も見受けられる。第1の問題点は、安全保障上の核兵器の意義と役割をこれまで通り追認することになる。現状の追認は、核兵器の役割を狭める努力の放棄を意味し、国際社会が追求している核不拡散の目標達成を損ないかねない。非核兵器国に核兵器開発・保有の動機を与え続けるからである。NPT体制の信頼性や安定性を維持し、核軍縮を推し進めるためには、安全保障上の核兵器の意義と役割を極力低下させなければならないのである。 
第2に、生物・化学兵器攻撃に対する抑止が崩れた場合の結末である。核報復の選択肢を保持することが抑止力につながるとしても、抑止は万能とは言えない。
 
生物兵器締約国は、追加議定書の形で検証制度を設けるべく、1994 年以降専門家会合などの場で交渉を続けてきた。しかしながら、生物兵器の開発・製造を物証によって確認することの困難さから生じる検証能力に対する疑義、さらには企業秘密や国家安全保障上の秘密保護との兼ね合いなどで合意に達することはできず、7 年後の 2001 年には追加議定書の作成は中断するに至っている。詳しくは、壊する危険は常に残っている35。しかも抑止が崩れ、実際に大規模な生物・化学兵器攻撃を受けて大きな人的被害を被った場合、選択肢として挙げていた核報復に踏み切らざるを得なくなる公算が高い。一つには、核報復を断念した場合には、核報復が有り得ることを公言していた為政者への信頼性が問われること36、さらには将来の同様のケ
ースにおける抑止の信憑性の維持・回復を考慮すれば核報復に踏み切らざるを得ないと考えるからである。しかし、核兵器の使用は、国際社会にどのような影響を与えるのであろうか。広島、長崎以降、65 年以上にも亘って使用されることのなかった核兵器が使用されれば、安全保障環境に大きなインパクトを及ぼそう。核報復によってもたらされた人的被害が予想を下回れば、核兵器に対する見方が変化し、核使用を思いとどまらせていた政治・道義的制約が弱まるとともに、核拡散を促すかもしれない。
核兵器を戦争遂行の手段と位置付ける見方が復活すれば、NPT体制に与える影響は測り知れない。 
第3に、核の先制使用の選択肢を温存させるのみならず、クローズアップさせると、安全保障環境の変容次第ではそれが抑止力の一環としての役割を超え、核兵器その他の大量破壊兵器の拡散の呼び水になる恐れもある。米国のブッシュ(子)政権は、テロ組織やテロ支援国家に対処するための一つの方策として軍事力の先制使用を含む「先制行動(preemptive actions)」の必要性を強調したが、この軍事力を用いた先制行動には核使用も含まれていたと言われている37。テロ組織を抑止することは容易でないことから、こうした軍事力を用いた先制行動は対テロ対策としては一定の説得力を持っていた。しかしながら、核兵器を用いた先制攻撃の選択肢をクローズアップし且つ喧伝すれば、相手側に対してこうした核使用を抑止するために、核兵器をはじめとする大量破壊兵器の保有を促すことにもなりかねなかったのである。抑止の要諦は受動性であり、この受動性を超えて、核の先制使用に能動性や積極性を付与すれば、先制使用の負の側面を際だたせるのである。 
4.核の先制不使用の意義 
冷戦時代、米国の一部で核の先制不使用を唱える声があったことは既に述べたが、こうした要請の背景には、核の先制使用が米ソ両国の共倒れを招きかねないこと、そのため先制使用の威嚇が信憑性を欠いているとの認識があった。この結果、先制不使用を支持する当時の議論は、核の先制使用が孕む未曾有の危険を回避することが主たる理由となっていたのである。 
 しかしながら、核の先制不使用に関しては、より積極的な意義を見出すことができる。
 抑止が崩壊するケースとして、例えば 冷戦時代に核の先制不使用を唱導した論者が既に示唆していたように、核の先制不使用は核軍縮を促す効果があるのである。NPT上の核兵器国も含め、総ての核保有国が中国の主張するような無条件の核の先制不使用に同意し、グローバルな核兵器の先制不使用体制を構築すれば、核兵器の役割は、単に他の核保有国の核兵器を抑止するのみとなる。核兵器の役割を他国の核使用の抑止に限定できれば、核保有国が一律に核兵器の削減に踏み切っても、安全保障上、失うものはないことになる。このように核兵器の先制不使用体制は、核軍縮を促す大きな契機となるのである。日本及びオーストラリアのイニシアティブで 2008 年7月に立ち上げられた「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」が、2009 年 12 月に発表したその報告書『核の脅威を絶つために-世界の政策立案者のための実践的な計画』のなかで、遅くとも 2025年までに総ての核保有国が明確な形で核の先制不使用を宣言することを求めている所以である。 
また、核の先制不使用は非核兵器国に対する核攻撃を否定することになることから、NPT体制の基盤を強化することにつながる。NPT上の5核兵器国が合意して核の先制不使用体制を構築すれば、その副次的効果として、非核兵器国は、原則的にNPT上の5核兵器国からの核威嚇や核攻撃を恐れる必要がなくなるとともに、NPT体制の最も大きな懸案事項である核兵器国と非核兵器国の間の政治・安全保障上の不平
等性も緩和され、NPT体制の安定性や信頼性が格段に向上することになる。このように、核の先制不使用を制度化できれば、核軍縮、あるいはNPT体制の安定性や信頼性を高めることに役立つと考えられる。 
さらに、核の先制不使用は、同盟国向けの核抑止の役割を限定化する効果があることは既に指摘したが、米露の相互核抑止については、あるいは将来米中が相互核抑止関係に入ると仮定すれば米中の相互核抑止についても、これを安定化させる効果を持っている。相手の核兵器運用政策が先制不使用という一定の枠組みに限定される結果、警戒態勢の緩和など、核抑止に必要な核戦力システムの整備が容易になると考えられるからである。 
5.核の先制不使用体制を構築するための課題 
上で述べたように、核の先制不使用は、核兵器の役割を他国の核使用を抑止することのみに極限化し、そしてそれ故に核軍縮を促進するとともにNPT体制の信頼性と安定性を高める効果がある。しかしながら、NPT上の核兵器国も含め核保有国の殆どが、濃淡の差はあれ、核の先制使用の選択肢を堅持していること、しかもそれぞれが固有の安全保障環境にあり、固有の脅威認識を持っていることを考慮すれば、当面、核保有国がこぞって核の先制不使用を宣言し、先制不使用体制の構築に向かうとは考えにくい。圧倒的な通常戦力を備えた米国でさえ、その同盟国との関係を考慮すると、核兵器の先制不使用を宣言することは、戦略的に無理があるとみる意見が多い。こうした事情の背景には、大規模な生物・化学兵器攻撃や通常戦力攻撃の抑止手段として核兵器に依存する考えを多くの国が捨てきれないでいるためである。 
核の先制不使用体制の構築を妨げている要因が生物・化学兵器の脅威や大規模通常戦力の脅威であるとするならば、これらの脅威を取り除くことが不可欠となる。事実、国際社会は、生物兵器禁止条約や化学兵器禁止条約を成立させて生物・化学兵器の廃絶に向けて努力を重ねている。しかしながら、生物・化学兵器の脅威を完全になくす見通しは立っていない。両条約に背を向けている国家があることに加え、先に指摘し
たように、生物兵器の廃絶を確認する検証手段を見出していないからである。生物兵器は、ヒトに対する殺傷力の面で核兵器に匹敵する潜在力を持つと想定されているが、実際のところ、そうした規模の殺傷力をもたらす生物兵器を実用化することは容易ではない。化学兵器については過去何度も戦場で使用されたが、戦争の帰趨を決定づけるほどのインパクト、言い換えれば戦略的打撃を与えることはなかった。ヒトに対す
る生物・化学兵器の恐るべき殺傷力は、依然、潜在的なものであり続けており、今日までのところ、これらの兵器は戦争の帰趨を決定するような戦略的意義を持つまでに至っていない。また、生物・化学兵器の攻撃対象は兵士や一般市民のみであるため、生物・化学兵器を用いたカウンターフォース攻撃に限界があり、相手に戦略的打撃を与えることは容易ではない。しかも生物・化学兵器攻撃に対しては、核攻撃と異なり、
ワクチンや解毒剤、さらにはガスマスクや防護服で人的被害を抑制することも可能である。したがって、当面の生物・化学兵器対策は、生物兵器禁止条約及び化学兵器禁止条約のさらなる普遍化を図るとともに条約の実効性を確保すべく追加的な施策を講じることであろう。 
具体的に述べると、化学兵器禁止条約に関してはチャレンジ査察の実施とそのルーティン化であり43、生物兵器禁止条約に関しては、査察・検証制度の代替として現在進められている「条約強化に関連した事項44」の検討と、その検討結果を基礎にした各国間の協力体制の構築である。勿論、生物・化学兵器に対する査察・検証の難しさを思い起こせば、こうした措置を採ったとしても生物・化学兵器の廃絶に直結するとは言
 
最近の批判として例えば、2009 年 5 月現在、生物兵器禁止条約の締約国・地域は 163 カ国・地域、未締約国が 32 カ国(このうち署名のみで未批准の国は 13 カ国)である。化学兵器禁止条約の締約国は、2009 年 5 月現在、188 カ国であり、署名のみで未批准国はイスラエルとミャンマー、署名も批准もしていない国は、アンゴラ、エジプト、北朝鮮、ソマリア、シリアの 5 カ国である。


 


うだる列島 14地点で40度以上

2025年08月07日 09時20分49秒 | 社会・文化・政治・経済

史上最多14地点で40℃超え…群馬・伊勢崎で国内最高41.8℃を観測 動物園の動物も“涼”を求めて床にぺったり…北海道や青森ではゲリラ雷雨も

 

5日の関東は歴史上最も暑い1日となりました。
群馬・伊勢崎市で、国内で観測史上最高となる41.8度を観測。
群馬・埼玉・東京などで、史上最多となる1日で14地点で40度を超えました。

国内歴代最高気温を観測した群馬・伊勢崎市では、伊勢崎駅前に設置された温度計にも41度と表示され、写真を撮る子供もいました。

街の人は「毎日暑いんだけど昨日今日は特別異常ですよね。痛いぐらいというか、息苦しい感じ。ちょっと厳しいですね、体こたえますよ」と話しました。

群馬県内では桐生市、前橋市、伊勢崎市、高崎市上里見町、館林市の5地点で40度を超える異常な暑さに。

午後2時前に気温が41度に達した前橋市では、街のあちらこちらで、暑さで空気が揺らめく「かげろう」が発生していました。

前橋市は午前7時の時点で気温が早くも30度を超え、そこから右肩上がりで上昇し、午後2時には気温が40度を超えました。
7時間で30度から40度まで気温が急上昇しました。

最高気温37.6度を観測した静岡市の動物園で見られたのが、涼を求める動物たちです。

冷たい床で体を冷やすハイエナ。
トラも横たわり、休んでいます。

さらに、立って警戒する姿が印象的なミーアキャットも、5日は暑さのせいでしょうか、日陰で横になって休んでいました。

ライオンは冷たい風が出る送風口に陣取って、すやすやと眠りに就いていました。
水浴びが大好きなゾウは大きな口を開け、水をがぶ飲み。

来園者もこの暑さに「暑いのでなるべく猛獣館の中のクーラーのところに(子供たちを)いさせて、時々休みながら冷たいゼリーあげたりして涼しくするようにしています」と話しました。

この暑さの影響は収穫を控えた果物にも。

秋田・鹿角市の農園。
青い実のリンゴを手に取って見せてもらうと、暑さと強い日差しの影響でリンゴの一部が黒く日焼けしてしまっています。

この黒い部分から病気が広がり商品として売れないため廃棄処分となるといいます。

山本農園・山本喜代宏さん:
雨が降らないので大きな影響が出ている。モモも例年より一回り小さい。

6日も命に関わる災害級の暑さが続く見込みの日本列島。
一方、北日本ではゲリラ雷雨が発生。

5日午前9時ごろの北海道・釧路市では、激しい大雨で道路が冠水。
走行する車の車体を越える高さまで水しぶきが上がっていました。
中には動けなくなり止まってしまった車も。
自転車のタイヤ半分の高さまで水位が上がっていました。

雨雲レーダーを確認すると、午前7時ごろに1時間に80mm以上の雨をもたらす雨雲が流れ込んでいたことが分かります。

朝の通勤時間帯とあって、冠水した道を何台もの車が慎重に走る様子が見られました。

夜明け前の青森市内でも局地的な大雨となり、アスファルトや車の屋根に大粒の雨がたたきつけていました。

東北地方では5日夜にかけ、ゲリラ雷雨への注意が必要です。


日本の安全神話も崩壊...権威主義国のシャープパワーがいま世界各国で影響力を増している

2025年08月07日 09時10分27秒 | 社会・文化・政治・経済
© ニューズウィーク日本版

RATOCA-shutterstock

<偽情報や世論操作を伴う「シャープパワー」とは何か。新しい概念ではないにもかかわらず、なぜ近年、改めて注目が集まっているのか(シリーズ第1回)>

国際政治における勢力争いは、必ずしも戦車やミサイルを伴うものに留まらない。近年、より見えにくい形で、じわじわと民主主義国家に影響を及ぼそうとする力が台頭している。「シャープパワー」と呼ばれる、権威主義国家が偽情報や世論操作といった形で、他国に影響を及ぼすことを目的に行使する力のことである。

この概念は2017年に米国のシンクタンクである全米民主主義基金(NED)が提唱したものであり、軍事介入や経済制裁による「ハードパワー」や、文化や価値観を通した「ソフトパワー」とは区別される。

権威主義国家によるシャープパワーは、民主主義国家の強みである言論の自由や社会の開放性を利用し、相手国の内政や世論を内側から蝕んでいく。自由で開かれた民主主義国家では、言論の自由が保障されているがゆえに、外部からの偽情報や世論操作を抑止する仕組みを整備することは容易ではない。


ベスト街づくりゲーム 2025
 
一方で、例えば民主主義国家が権威主義国家の人権問題や選挙のあり方について批判的な情報を発信したとしても、言論統制の行き渡った権威主義国家では、そうした声は即座に打ち消されてしまう。ここに、シャープパワーの持つ非対称戦としての側面がある。

なぜ今シャープパワーなのか

シャープパワーの存在自体は新しいものではない。しかし、近年になってその影響力に改めて注目が集まっている。その要因の一つとして指摘されるのは、技術環境の急速な変化である。

各国において生成AIの利用が広がるなか、ディープフェイクや偽情報の作成・拡散コストは著しく低下した。また、SNSでは過去の検索結果に基づくアルゴリズムによって、利用者の見たい情報が優先的に表示され、ユーザーは自分の興味のある情報だけに囲まれた「フィルターバブル」に閉じこもりがちになる。

結果として、人々が異なる視点や考え方に触れる機会は大幅に減少し、外部から操作された、特定の政治的価値観に基づくナラティブを容易に受け入れるようになってしまう。

二つ目の要因は、民主主義社会の脆弱性が露呈しつつあることである。ここ数年、ポピュリズム政権の台頭や既存政治に対する不信感の増大といった動きが各国で加速している。それに伴い、政府や報道機関、アカデミアといった、これまで一定の社会的信頼を担ってきた存在の影響力が一層低下している。

こうした状況下では、社会の分断が一層深まり、陰謀論や特定の国を敵視するナラティブがSNS上で共鳴・拡散されやすくなる。その結果として、外部の権威主義国家による影響力工作が容易になり、民主主義の根幹が揺らぎかねない状況が生まれている。

三つ目の要因は、権威主義国家が、戦場において敵を攪乱するために情報戦を補助的手段として仕掛けるのではなく、軍事や経済と並ぶ中核的手段として用いるようになったことである。

新型コロナウイルスの感染拡大当初、中国は国営メディアのSNSアカウントを通じて、自国の感染防止措置を称賛する投稿やウイルスの米軍起源説を世界中に拡散した。

ロシアもウクライナ侵攻以降、情報戦を本格化させた。紛争の原因をNATOの東方拡大に求める言説や、ウクライナ支援を巡る世論の分断を狙うプロパガンダは、今でもネット上で幅広く展開されている。

 
こうした中国側やロシア側の主張を支持する人々も少なからず存在する。

日本におけるシャープパワー

これまで、日本はシャープパワーの影響を受けにくいと考えられてきた。英語や中国語、ロシア語といった、各国で幅広く使用されている言語とは異なり、日本語という特殊な言語が他国による影響力工作からの防波堤になると考えられていたためである。

しかし、日本語で情報発信を行う外国系メディアの活動が活発化している現在においては、こうした「安全神話」はすでに過去のものとなりつつある。

特に中国系の発信主体が日本語で運営を行うメディアの中には、スポーツや文化に関する中国関連のニュースを好意的に紹介する一方で、韓国については歴史問題や領土問題をセンセーショナルに取り上げるものもある。これは、日本国内における対韓感情を刺激することで、日韓の分断を促し、民主主義国家間の連携を弱体化させることを狙ったものと考えられる。

注意が必要なのは、こうした記事の内容が必ずしも「偽情報」ではないという点である。記事の内容は事実に基づくものであるが、トピックの選定や記事のトーン、情報の切り取り方には明確な意図が込められている。

さらに問題なのは、こうした中国系メディアが発信する記事が、日本の大手ニュースポータルサイトにも転載されていることである。配信元を確認することなく、大手ポータルサイトに掲載された「信頼に値する情報」として記事に触れる中で、読者は知らず知らずのうちに「親中・嫌韓」のナラティブに取り込まれていく。

このように、情報を恣意的に操作することで、世論を特定の方向に導き、民主主義国家の連携を弱体化させることは、まさにシャープパワーの核心と言えるだろう。

シャープパワーに対抗するために必要なもの

自由で開かれた社会の持つ恩恵を、我々は日々当たり前のように享受している。しかし、民主主義国家の持つ開放性や言論の自由といった特性を利用し、権威主義国家は静かに我々の認知に影響を及ぼし、社会の安定に揺さぶりをかける。

そうしたシャープパワーに対抗するためには、単に情報の真偽を見極めるのみならず、誰がどのような目的をもって情報を発信しているのかを読み解く力や、自らと異なる意見に対する寛容さを持つことが不可欠となる。

今後、権威主義国家は世界各国の情報空間において、一層影響力を増していくことだろう。そうした国々が行使するシャープパワーの手法や特徴を見極めることは、民主主義国家に生きる我々にとって、避けては通れない課題である。

 

[主要参考文献]

市原麻衣子「敵対国を内側から攻撃する影響工作:中国が『語らないもの』の政治性」、nippon.com、2024年1月25日

市原麻衣子「中国共産党が狙った日韓・日台関係へのくさび――第三国の社会を標的にする影響工作」、新潮社Foresight、2024年4月1日

桒原響子「世界を覆うディスインフォメーションに翻弄される社会」、WedgeOnline、2021年11月30日

Juan Pablo Cardenal, Juan Pablo Cardenal, Juan Pablo Cardenal and Gabriela Pleschová, "Sharp Power-Rising Authoritarian Influence", National Endowment for Democracy, December 5th, 2017,

[筆者]

水村太紀(みずむら・ひろき)

国際協力銀行(JBIC)調査部第2ユニット調査役。日本台湾交流協会台北事務所渉外室専門調査員(担当:両岸関係、台湾内政)や在アメリカ合衆国日本国大使館政務班二等書記官(担当:米中・米台関係、東南アジア情勢)などを歴任し、現職。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学公共政策大学院、北京大学国際関係学院、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで修士号を取得。中国語、韓国語、英語、フランス語に堪能。

水村太紀(国際協力銀行〔JBIC〕調査部 調査役)


歴史を学び未来への教訓に

2025年08月06日 16時00分11秒 | 社会・文化・政治・経済

歴史小説家 安部 龍太郎さん

「温故知新」という言葉がありますね。

「古きをたずねて新しきを知る」、つまり、過去の事例や先人の知恵に学び、目の前の問題の解決に生かしていく姿勢を表す言葉です。

現在や未来を考えるための指標を得ようとする姿勢が大事だと思います。

歴史を学ぶことは、自分自身を知り、人類が生きてきた行動原理を理解することでもあると思います。

作家 佐藤 優さん

安部さんの歴史観には、歴史を民衆に取り戻すという視点が一貫しています。

「温故知新」と聞いて思い起すのは、ドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマス氏が述べた「未来としての過去」という考え方です。

冷戦後の世界ではそれまでの秩序が崩壊し、理想とすべきモデルが同時代に見当たらない。

ゆえに、現代社会が目指すべき未来のモデルを、過去の中から見つけてくればいいと彼は言いました。

過去をどう記憶し、解釈し、継承するかによって、未来のあり方は決定づけられるということです。

ただし、そこには危険性もあることをハーバーマス氏は理解しています。

過去のナショナリズム的な歴史を選択的に取り入れてしまえば、<われわれは偉大な民族であるが、他の民族によって権利が侵害されてきた>というような排外主義に通じる物語が、現代によみがえる可能性が高くなるからです。

そして事実、今日の世界でこうした思想が台頭してしまっていることは、憂うべき事態です。

安部 ヒトラーは、偉大なドイツの復活を叫び、純血のアーリア人種の優位性を唱えました。

それがユダヤ人の大量虐殺につながりました。

また、日本では、初代天皇の即位2600年に当たるとされた1940年、記念行事盛大に行い、天皇のもとに全世界を一つの家とする「八紘一宇」というスローガンが広がりました。

「神の国・日本が東アジアの盟主になる」との大義名分をつくり出し、それが、悲惨な戦争につながったのです。

佐藤 為政者らによって、何度も歴史が悪用されたことを忘れてはいけません。

最近の日本でも、耳を疑うような歴史解釈をしている政治家が見受けられます。

差別と偏見と闘ってきたような人物であったとしても、気付かぬうちに偏った歴史認識に陥っているのです。

歴史を学ぶ重要性は、誰もが賛同するものです。

重要なのは「何を」「どう」学ぶかなのです。

安部 定説や常識にとらわれず、時に疑問を持ちながら、冷静に歴史を見つめることです。

私の父は南京戦に従軍していますが、その父が、「大東亜開放の使命によって戦う」といった詩を書き残していたのですね。

その考え方が正しいとは言えませんが、少なくとも、父をはじめ軍人たちには勝算があった。

このように考えることで、戦争に熱狂した日本人の心情に迫ることができると思うんです。

佐藤 アジア・太平洋を見る上では、世界的な枠組みで考えることも重要です。

イギリスはインドを植民地として、さらにインドの兵隊を中国人を戦わせ、権益を拡大していた。

アジア同士を戦わせ、自らの利を得ていたのです。

そしてアメリカは、帝国主義で発展していくヨーロッパを見て、戦争を起こし、フィリピンを植民地化していきます。

すると「欧米に挑み、アジアを植民地支配から解放する」との考えが、日本にとっ理屈が通っていたと見ることも可能なのです。

侵略や戦争は肯定そ得ないものですが、歴史を正確に把握するためには、俯瞰的な視点が必要です。

安部 ほとんどの兵隊は、好んで戦地に来たわけでなかったはずです。

赤紙(召集令状)を受け取り、絶望する気持ちで戦場に向かった。

佐藤「殺すか殺されるか」という状況に追い込まれた兵士たとの心情は、想像を絶します、

彼らは、加害者であると同時に被害者でもある。

そうした状況を生み出すのが、戦争です。

だからこそ、戦争を二度と起こさせてはいけない。

この点に何度も立ち返るのが、歴史を振り返る一番の眼目なのです。

安部 私は歴史小説家ですので、想像を広げながら歴史を書きます。

その中心にあるのは、人間に対する興味です。

それぞれの時代で、興味深い生き方をしている人物を掘り下げてきました。

すると、2000年ほどの時代の隔たりは、大きな意味はないという感覚になります。

ソクラテスは鋭い議論をしていたな、今の私では太刀打ちできないな、と思いをはせる時、私はソクラテスと同じ時代に生きている感覚になるわけです。

人類が常に進歩してきたといのは、錯覚なのかもしれない。

私たちは、昔も今も同じよいに暮らしてしているのではないか、そう思うよいになりました。

佐藤 非常に興味深いです。

事実を追うだけの歴史家には、人間の心は描けません。

小説家だからこそ、描ける歴史があるわけです。

 

 


株で勝てない人がやりがちな「ある行動」とは?

2025年08月04日 20時07分31秒 | 社会・文化・政治・経済

株で勝てない人がやりがちな「ある行動」とは?

 窪田さんが『株トレ』で繰り返し警鐘を鳴らしているのが、個人投資家の次のような行動です。

「上がった銘柄を売ってしまい、下がった銘柄を持ち続ける」

 このパターンに陥ると、せっかくの「良い株」を早く手放し、「悪い株」を抱えたままになってしまう。その結果、ポートフォリオのパフォーマンスを悪化させることになります。

 では、なぜ私たちはそんな行動を取ってしまうのでしょうか?

株価下落に直面した時の判断の遅れ

 株価が下がると、「自分の判断が間違っていたとは思いたくない」という感情が先に立って、多くの個人投資家は売る決断を先延ばしにしてしまいがちです。

 しかし、窪田さんはこうした「損切りの先延ばし」こそが、株で勝てない最大の原因だと語ります。

 窪田さんもファンドマネジャー時代に、何万回とトレードをやってきて、買った直後に悪いニュースが出て株価が下がり、すぐに損切りするという経験をたくさんしてきたといいます。

 上がると思って買った株が下がったなら、迷わず損切りする。その覚悟こそが、次のチャンスをつかむ第一歩なのです。

上がると思って買ったのに、下がると買い増ししてしまう人の心理

 もうひとつ、窪田さんが強調するのは「目的に沿った投資行動を実行できない人が多い」という点です。

 中長期で資産形成を目指すなら、インデックスファンドのような商品を、定期的にコツコツと買い増していくのが正攻法です。

 一方、短期トレードをしているなら、「株価が下がったから買い増しする」のは悪手

 なぜなら、本来は短期的な上昇を期待して買ったはずなのに、価格が下がると「長期では上がるはず」と自己正当化してしまい、売るに売れなくなるからです。

 その結果、塩漬け株となってしまうのです。

 目的に応じて戦略を明確にし、感情を切り離した判断を貫くことが、勝てる個人投資家になるために必要なことでしょう。

「勝率」と「損切り」の関係を理解する

 どんな投資判断も100%当たるということはあり得ません。

 この本では、70%当たる強いチャートのシグナルを紹介していますが、30%は外れるという現実を受け入れる必要があると説明しています。

 損切りを徹底することで、結果として資産を増やしていくことができる。『株トレ』は、そうした投資の本質を、誰でも楽しく学べるクイズ形式でやさしく解説した一冊です。


参政・梅村みずほ氏 収容スリランカ人女性の死巡る「詐病」発言は「医師が可能性を指摘」

2025年08月03日 18時06分03秒 | 社会・文化・政治・経済
 
<button class="article-image-height-wrapper expandable article-image-height-wrapper-new" data-customhandled="true" data-t="{"n":"OpenModalButton","a":"click","b":1,"c.i":"AA1JNoMm","c.l":false,"c.t":13,"c.v":"news","c.c":"newsnational","c.b":"産経新聞","c.bi":"BB7LFxh","c.tv":"politics","c.tc":"government","c.hl":"参政・梅村みずほ氏 収容スリランカ人女性の死巡る「詐病」発言は「医師が可能性を指摘」"}"></button>
 
参政党の梅村みずほ参院国対委員長=1日午後、国会内(奥原慎平撮影)© 産経新聞

参政党の梅村みずほ参院国対委員長は1日の記者会見で、名古屋市の入管施設に収容中、令和3年3月に死亡したスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさんを巡って、「私自身、『ウィシュマさんが詐病だった』と(国会で)言ったことは一度もない。『詐病の可能性がある』というのはウィシュマさんの医師が診断書で出している」と語った。

そのうえで「それを私が引き合いにして医者が『詐病の可能性がある』と言うに至ったのは、支援者の存在が関係しているのではないかと問題提起した」と述べた。

梅村氏は日本維新の会に所属していた5年5月12日、参院本会議で、ウィシュマさんが死亡した問題について「善かれと思った支援者の一言が、皮肉にもウィシュマさんに『病気になれば仮釈放してもらえる』という淡い期待を抱かせ、医師から詐病の可能性を指摘される状況へつながった恐れも否定できない」などと語っていた。

一方、梅村氏に対しては、立憲民主党の杉尾秀哉参院議員が7月28日、X(旧ツイッター)で「この人物がウィシュマさんを、国会質疑で『詐病』と発言した」と問題視している。

梅村氏もXで「私は『ウィシュマさんは詐病だった』などと申しておりません」と指摘し、「支援者から『病気になれば、仮釈放してもらえる。』と言われた頃から、心身の不調を生じており、詐病の可能性もある」と記されたカルテも合わせて投稿した。(奥原慎平)

 

「孫子の兵法」 思考術

2025年07月23日 10時00分23秒 | 社会・文化・政治・経済

:大混迷時代のインテリジェンス

 
今こそ、兵法書『孫子』から「戦わずして勝つ」極意を学べ!
ウクライナ侵攻、ガザ紛争、予測不能な朝鮮半島情勢、そしてトランプ大統領の誕生……。混迷を極める世界のなかで、日本が生き残るためにすべきこととは何か。
『孫子』を基礎に据えて国際情勢を読み解き、戦争を回避せねばならない。『孫子』が説く実践知をインテリジェンスの技法に活かして、危機の時代を生き延びよ!

(目次より)
日本を巻き込む「飢餓」「疫病」「戦争」の復活 戦争は国家の重大事である(計篇)
CIAも参考にする紀元前四百年のスパイ活動 スパイには五種類ある(用間篇)

ロシア秘密警察に買春で脅された商社員の末路 郷間とは、敵の組織内に味方を作ることである(用間篇)
日朝首脳会談「ミスターX」はなぜ粛清されたか 発表されていない諜報活動が他から伝われば、担当者とそれを伝えた者は共に死ぬことになる(用間篇)
フランシスコ教皇「ウクライナ白旗」発言の真意 戦争は迅速に切り上げることはあっても、長引かせてうまくいくことはない(作戦篇)
暗殺未遂でトランプ確信「神に選ばれた人間」 兵士はあまりに危険な状態にあると危険を恐れなくなる(九地篇)
ヒズボラ最高指導者殺害にスパイの存在 戦争は敵を欺くことが基本で、臨機応変な処置を取るものだ(軍争篇)

佐藤優(さとう・まさる)
1960年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。
2002年に背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、東京拘置所に512日間勾留。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受ける。
2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定で外務省を失職。2013年6月に執行猶予期間を満了、刑の言い渡しが効力を失った。
2005年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。
以後、作家として外交から政治、歴史、神学、教養、文学に至る多方面で精力的に活動している。
主な単著は『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『獄中記』『私のマルクス』『交渉術』『紳士協定―私のイギリス物語』『先生と私』『いま生きる「資本論」』『神学の思考―キリスト教とは何か』『君たちが知っておくべきこと―未来のエリートとの対話』『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)、『それからの帝国』『神学でこんなにわかる「村上春樹」』など膨大で、共著も数多い。2020年、その旺盛で広範な執筆活動に対し菊池寛賞を贈られた。
 

出版社より

帯表
帯裏
 
  • この本は、孫子が説く様々なスパイ活動が、現代においてどのように使われているのかを詳述して
    いるものです。
    そもそも論でいうと、孫子は ”最良の策は戦争をしないことだ” を本分としていますし、次善の策と
    して ”戦争をするからには、全体に負けてはならない” と説いています。

    私たちが誰でも知っている孫子の名言は、”敵を知り 己を知れば 百戦危うからず” です。
    諜報活動(スパイ活動)は、敵を知るためには不可欠です。このスパイ活動能力、言い換えると、
    インテリジェンス能力が極めて高い国として名高いのは、イスラエルです。
    このレビューを書いている今日現在、イスラエルとパレスチナの戦争を超えて、イランとアメリカ
    を巻き込んだ世界情勢の危機に瀕しています。この数日の動きでは、イスラエルがイランの軍幹部
    数名をピンポイントで殺害することに成功しました。いつ、どこに彼らがいるのかを正確に把握
    していることを証明しています。
    このようなことを書くと、人道的にどうなんだと言われそうです。ですが、国際関係はもっとシビア
    で、現実主義でなければ生き残れません。良し悪しではなく、”強い国が勝ち、弱い国が敗れる” のが
    当たり前すぎる法則であることを理解する必要があります。

    佐藤優さんの冷徹なまでのリアリズムには感服しますけれども、日本の外交を知り尽くしている佐藤
    さんにしては、日本の外交に対する評価点がかなり甘いように感じます。もっとも佐藤さんが評価し
    ているのは、この国のリーダーや政府ではなく、首相官邸のインテリジェンス能力です。
    佐藤さんのこの本がすべてだと理解するインテリジェンス能力では、ダメなのでしょう。

    本書のメインメッセージからはずれるのを承知でいいますと、最も腑に落ちたのは次の文でした。

     通信手段がいくら発達しても、生身の人間を通してしか、機微に触れる情報は取れない

    正直なところ、AI(人工知能)は人間の持つ情報収集と処理能力をますます凌駕していくでしょう。
    であるならば、私たちが磨くべきなのは、AIが得意とするインフォメーションではなく、身体性を
    伴うインテリジェンス能力なのだと気づく書でした。
    本書は、孫子の兵法におけるスパイ活動の5つの分類に沿って、筆者自身の体験や現代社会の出来事を分析した一冊である。

     その5つとは以下の通りである:

    郷間(きょうかん):現地住民を使って情報を得る
    内間(ないかん):敵国の政府機関内にいる協力者から情報を得る
    反間(はんかん):敵のスパイを逆に利用して偽情報を流す(二重スパイ)
    死間(しかん):味方を装って敵地に潜入し、犠牲を前提に行動するスパイ
    生間(せいかん):敵地に潜入して情報を集め、帰還して報告するスパイ

     この5種類のスパイを同時に使い分ける戦略を「神起(しんき)」と呼ぶ。筆者は、これらを「乾いたインテリジェンス(客観情報・分析重視型)」と位置づけ、人間関係や感情に基づく「湿ったインテリジェンス(人脈・信頼関係重視型)」と区別している。

     インテリジェンス(情報分析力)は、国を問わず活用できる「ポータブルスキル(持ち運び可能な能力)」として機能する。そのため、国際情勢を読み解く力として極めて汎用性が高い。たとえば佐藤優氏のような人物であれば、このスキルを駆使して何冊でも本が書けるだろう。時代や出来事に合わせて切り口を変えることができるため、応用範囲はほぼ無限といえる。

     こうして見ると、「インテリジェンス」というポータブルスキルには、さまざまな活用の可能性があるのだ。
     
  • 雑誌の連載をまとめただけのもの。佐藤優氏の講義録を期待している人は買う必要無し。
    著者の健康をお祈りしつつまた資本論のような講義録を期待しています。
 
 

この国をどうするのか—未来ビジョン

2025年07月23日 08時20分13秒 | 社会・文化・政治・経済

▼参議院選挙では、排外主義をあおり、徴兵制や核武装を推奨し、批判者を「非国民」とののしるような勢力が一定の支持を得た。

全ての人々を包摂できるできる平和な社会と暮らしを守るため、地道な政策が期待される。

▼選挙は終わった。

しかし、未来をつくる時間はこれから始まる。

「目先」だけでなく「未来」を見据えた政治の姿を、私たち有権者も求めていきたい。

▼この国をどうするのか。

「次の世代に何を残すのか」という未来ビジョンが問われるべきだ。

 


公明党 参政党に負ける

2025年07月22日 21時50分38秒 | 社会・文化・政治・経済

埼玉県

当選 大津 力  参政党新 465、278

次点 矢倉 克夫 公明党現 441、613

神奈川県 

当選 初鹿野裕樹 参政党新 577、085

次点 佐々木さやか 公明党現 561、796

愛知県 杉本順子 参政党新 531,387(3位)

次点 安江伸夫 公明党現 391、824

比例区 参政党 7、425、053(議席7人)

比例区 公明党 5、210、569 (議席4人)


核兵器使用の危機

2025年07月22日 20時08分14秒 | 社会・文化・政治・経済

現在、核兵器は、現実に差し迫った危険となっている。

だが、現代の核兵器は、広島や長崎で使われた原子爆弾と比較にならない威力である。

核兵戦争が起きた場合、その結果は想像を絶する破滅的なものとなるだろう、

人類の絶滅にもつながりかねない地獄なのだ。

さらに、核兵器が使用されると、都市の発火によれば煤煙が放出され、太陽を遮断し、地球全体の平均気温は低下する。

それによって、生態系が崩壊し、地球規模で食料生産が停止する。

この結果生じる飢餓で、何億人もの人々が死亡すると推定されている、

人類が種として絶名する可能性があるのだ。

核兵器が今日まで使用されないのは、幸運に過ぎない。

核兵器が存在する限り、それが使用されるのは「いつか」という時間の問題だ。

だからこそ、核兵器なき世界を目指さていくことが必要だ。

核兵器は自然現象ではなはなく、人間が作り出したものだ。

「世界を核兵器から救う」そのためには、一人一人の意識と行動が不可欠だ。

1人では解決でないが、それぞれが自分の役割を果たすことで、核兵器廃絶は実現でききるのだ。

 

 


福井・中3殺害 再審無罪

2025年07月20日 11時27分09秒 | 社会・文化・政治・経済
  1. 増田啓祐裁判長は、有罪判断の根拠となった知人らの目撃証言について「捜査機関が不当に誘導した疑いがあり、信用できない」などとして無罪を言い渡した。 戦後に殺人事件の再審で無罪が言い渡されたのは、前川さんを含め少なくとも19件21人に上る。 今回は検察が新たに開示した証拠が決め手となっており、証拠開示のルール化など再審制度の見直しを巡る議論に影響を与えそうだ。 前川さんは一貫して犯行を否認。
    これは役に立ちましたか?
     
     
     

主な再審無罪判決

2025年07月20日 11時21分01秒 | 社会・文化・政治・経済

再審により無罪となった死刑確定者

表の記載順序は、原則として事件を終了させる裁判の日を基準とし、控訴・上告が取下げられた場合は取下げの日、決定で控訴が棄却された場合は当該決定の日によっています。
表の左端に付された番号は、便宜上付しているものであり、死刑確定の順序を示すものではありません。
※本ページの引用方法(推奨):CrimeInfo(crimeinfo.jp)掲載『死刑確定者リスト 再審により無罪となった死刑確定者』より引用

No. 名前 事件発生日 逮捕年月日・年齢 一審判決 控訴審判決 上告審判決 再審無罪
判決
備考
1 免田栄 48.12.29
~30
(再審無罪
判決)
49.1.16
23歳
(再審無罪
判決)
50(昭20).3.23
熊本地裁八代支部
昭和24(リ)11等
(再審無罪判決より)
51(昭21).3.19
福岡高裁
昭和25(う)1110
(再審無罪判決より)
51(昭26).12.25
最高裁
昭和26(あ)2678
裁判所ウェブサイト
83(昭58).7.15
熊本地裁八代支部
昭和47(た)1
判時1090号21頁
TKC D1-Law
(読87.7.15夕)
いわゆる免田事件。民家に強盗が侵入、鉈や包丁により夫婦が殺害され、娘2人が重傷を負った事件。免田氏は別の2件の窃盗事件で逮捕され、いったんは釈放されるが、その2時間後に強盗殺人などの疑いで再び逮捕され、犯行を自白した(その前後6日間の取り調べ中、舎房で寝れたのは1晩だけだったという)。1審の公判途中から事件当日は他の場所に宿泊していたとしてアリバイを主張したが、有罪となり、最高裁で死刑が確定。その後、再審請求を繰り返した。第6次再審請求において、熊本地裁八代支部が棄却する決定をしたが、抗告審福岡高裁がそれを取り消して再審を開始する旨の決定を行い、最高裁が検察側特別抗告を棄却して、再審公判が始まった。再審公判では事件当日のアリバイが認められ、また、捜査段階の自白調書の信用性や検察側新証人の証言の信用性、警察の血液鑑定の信用性も否定された。免田氏は即日釈放された。釈放時57歳(読87.7.15夕)。検察側は控訴を断念、無罪が確定した(読83.7.27夕)。2019年2月、自身の再審や死刑に関する資料を熊本大文書館に寄贈。国から免田さんに届いた「再審請求中により死刑の執行はされない」という趣旨の文書も含まれる(西日本19.3.13朝)。同年9月に一部が公開された。文書館では、同年中の目録完成を目指すという(西日本19.9.16熊本朝)。2020年12月5日、老衰のため入所していた高齢者施設で死去した。享年95歳(毎20.12.6朝)。
2 谷口繁義 50.2.28
(再審無罪
判決)
50.4
19歳
(読06.1.
6朝)
52(昭27).2.20
高松地裁丸亀支部
(再審無罪判決より)
(毎日84.3.12夕)
56(昭31).6.8
高松高裁
(再審無罪判決より)
(毎日84.3.12夕)
57(昭32).1.22
最高裁
(再審無罪判決より)
(毎日84.3.12夕)
84(昭59).3.12
高松地裁
昭和51(た)1
判時1107号13頁
判タ523号75頁
TKC D1-Law
(朝日84.3.12夕)
いわゆる財田川事件。就寝中の62歳男性が包丁で30数か所以上切りつけられて殺害され、現金が奪われた事件。この約1か月後に起こした別の強盗致傷事件で当時19歳だった谷口氏が逮捕され、一審有罪判決を受けたのに引き続いて、財田川事件の容疑者として本格的な取り調べを受ける。約1ヵ月半後に犯行を自白、起訴された。公判に入ると一転否認したが、最高裁で死刑が確定。その後1回目の再審請求は高松地裁丸亀支部で棄却された。2回目の再審請求も高松地裁丸亀支部で棄却され、それに対する即時抗告も高松地裁で棄却されるが、特別抗告審において最高裁が高松地裁に差し戻し、81年3月高松高裁で再審開始が確定。再審公判が開かれ、84年3月12日高松地裁は自白の信用性を否定し、血液鑑定の結果の証拠としての能力も否定し、無罪判決を出した。谷口氏は即日釈放された。釈放時、53歳(朝日84.3.12夕) 検察側が控訴を断念、無罪が確定した(読84.3.24朝)。
3 齋藤幸夫 55.10.18
(再審無罪
判決)
1955.12
24歳
(朝日06.7.
5宮城)
57(昭32).10.29
仙台地裁古川支部
(再審無罪判決より)
59(昭34).5.26
仙台高裁
(読59.5.26夕)
60(昭35).11.1
最高裁
(再審無罪判決より)
84(昭59).7.11
仙台地裁
昭和48(た)2
判時1127号34頁
判タ540号97頁
TKC D1-Law
(読84.7.11夕)
いわゆる松山事件。齋藤氏は、金を盗む目的で面識のある民家に侵入、刃物で家族4人の頭部を切りつけて殺害し、犯行を隠蔽するために家屋に火をつけたとされて死刑判決を受けた。十分な根拠のない見込み捜査が先行して別件の傷害事件で逮捕され、いったん犯行を自白したが、その後、一貫して否認。第2次再審請求で、仙台地裁は1979年に再審開始を決定、仙台高裁も1983年に検察側の即時抗告を棄却して再審開始が確定し、同年7月から再審公判が開始された。判決は、齋藤氏の自白は容易に信用しがく、また、死刑判決の根拠となった掛布団襟当てに付着した血痕が押収時にも存在していたのか疑問の余地があるとした。さらに、事件当夜に齋藤氏が着用していた蓋然性の高いジャンパー、ズボンからは犯行に見合う血痕が検出されず、当初からそのような血痕は付着していなかった蓋然性が高い(確定審第二審判決では洗い流されたとされていた)として、無罪とした。即日釈放された。釈放時53歳。(読84.7.11夕)
4 赤堀政夫 54.3.10
(一審判決)
54.5
25歳
(朝日86.5.
30)
58(昭33).5.23
静岡地裁
TKC D1-Law
判タ81号94頁
60(昭35).2.17
東京高裁
(再審無罪判決より)
(朝日60.2.17夕)
60(昭35).12.15
最高裁
(再審無罪判決より)
(朝日60.12.15夕)
89(平元).1.31
静岡地裁
昭和58(た)1
判時1316号21頁
判タ700号114頁
TKC D1-Law
(読89.1.31夕)
いわゆる島田事件、あるいは久子ちゃん事件。6歳の女児が幼稚園から連れ出され、山林で暴行の上絞殺された事件。赤堀氏は別件の窃盗容疑で逮捕されたが島田事件についても詳しく調べられ、逮捕2日後に女児殺しを自白、再逮捕された。公判では事件当時は現場にいなかったと主張したが、1審静岡地裁はその信用性を否定して自白調書の任意性を認め、有罪とした(朝日58.5.24静岡)。最高裁で死刑が確定した後、再審請求を繰り返し、4回目の再審請求も静岡地裁で棄却されたが、83年5月東京高裁は、自白調書に客観的事実に反する供述があることなどを理由にこれを取り消して差し戻した。静岡地裁は86年5月、再審開始を決定、検察官からの即時抗告の申立ても東京高裁で棄却し、再審開始決定が確定した。再審では自白調書の信用性が否定され、無罪判決。釈放時59歳。(読89.1.31夕) 検察が控訴を見送り、無罪が確定した(読89.2.7夕)。
5 袴田巌 66.6.30
(読81.4.21朝)
66.6.18
30歳
(読66.8.19朝)
68(昭43).9.11
静岡地裁
昭41(わ)329
D1-Law
(朝日68.9.11夕)
76(昭51).5.18
東京高裁
(読76.5.18夕)
80(昭55).11.19
最高裁
昭51(あ)1607
裁判所ウェブサイト
24(令6).9.26
静岡地裁
(時事24.9.26 19:06)
いわゆる袴田事件。みそ会社専務宅が全焼し、焼け跡から一家4人の他殺体が見つかった事件。従業員だった袴田元被告人が逮捕されるも容疑を否認していたが、連日一日平均約12時間の取り調べの末、捜査段階の終盤で自白。公判では一転無罪を主張。一審判決では、売上金を奪おうと物色中に家人に発見されたために殺害、放火に及んだとされた。
2014年3月27日、静岡地裁は再審開始を決定、同日釈放された(静岡地裁 平20(た)1)。検察側が即時抗告し、再審開始決定の根拠となったDNA型鑑定の信ぴょう性について協議がなされていたが(読17.3.27朝)、2018年6月11日東京高裁はDNA型鑑定の有用性には深刻な疑問がある等として再審開始を取り消す決定をした。一方、刑の執行停止と釈放を命じた地裁の決定は取り消されなかった(読18.6.11, 東京高裁 平26(く)193)。同月18日に弁護団側が特別抗告(朝日18.6.19朝)、2019年7月新たな補充書を最高裁に提出(朝日19.7.17静岡朝)。同年12月6度目の理由補充書を提出(中日19.12.11朝)。同月、袴田死刑確定者を支援する複数の団体が早期の再審開始を求める要請書を最高裁に提出(中日19.12.13朝)。2020年12月22日、最高裁第3小法廷は「高裁決定は、弁護側が提出した新証拠について審理を尽くしたとは言いがたく、著しく正義に反する」として東京高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻す決定を出した。高裁決定の取り消しは裁判官5人全員が一致し、さらに2人は「再審を開始すべきだ」との反対意見を述べた。小法廷は、高裁と同様にDNA型鑑定の信ぴょう性を認めなかったが、弁護側が提出した血痕が付いた衣類をみそタンクに漬けた再現実験に着目、逮捕された後に衣類がみそタンクに入れられた可能性があると指摘し、高裁ではその点について審理が尽くされていないと判断した(最高裁第3小法廷 決定 平30(し)332号)。2021年6月、東京高裁で差戻審の三者協議が行われ、弁護側は、血液を付着させた布を複数の条件下でみそに漬け、「赤みは残らなかった」とする実験結果を提出した(毎21.6.27静岡)。これに対して検察側が反論する意見書を提出(毎21.8.13静岡)。これに対して弁護側が矛盾を指摘、さらなる説明を検察側に求めた(毎21.9.5静岡)。2022年11月、検察側が1年2か月続けてきた「みそ漬け実験」を裁判長と弁護団が色合いの確認作業に立ち会った。弁護団によると「(血痕の)赤みは全く消えている」という(静岡新聞22.11.3)。同年12月、東京高裁で差戻審の審理が終了、審理の前には袴田死刑確定者も裁判官と面会した(朝日22.12.6朝)。2023年3月13日、東京高裁は、原審で提出されたみそ漬け実験報告書等について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するとした原審の決定の判断に誤りはないとして、再審開始を認める決定を出した。みそ漬け実験等については、検察官が実施した実験によって赤みが残らないことが一層明らかになったと評価し、5点の衣類については、事件から相当期間経過した後に捜査機関以外の第三者によってタンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できない、事実上捜査機関の者による可能性が極めて高いと思われる、と指摘した(朝日23.03.14朝)。この決定の後、弁護団が東京高検に特別抗告断念を求める申入書を提出した他、弁護団によるオンライン署名や日本プロボクシング協会の「ツィッターデモ」、超党派の国会議員の連盟も法務省に申し入れを行うなどして東京高検に対して特別抗告の断念を求める声が広がった(朝日23.3.18朝)。東京高検は「承服しがたい点があるものの、法の規定する特別抗告の申し立て事由が存するとの判断に至らず、特別抗告しない」(東京高検次席検事)として特別抗告を断念、再審開始が確定した(朝日23.3.21朝)。
再審公判は2023年10月27日から始まった(朝日23.10.27夕)。同年12月20日で公判は5回目となり、検察側は、5点の衣類のほかにも犯人とする根拠が複数あり、動機もあると主張した(朝日23.12.21朝)。2024年4月17日、第13回公判で、弁護側は、法医学者による鑑定を基に、犯行着衣とされた衣類に付着する血痕のDNA型が「袴田さんと一致しない」と主張した(福井新聞24.4.17 16:34)。5月22日、検察側は死刑を求刑し、弁護側は無罪を主張して結審した(朝日24.5.23朝)。同年9月26日、静岡地裁(国井恒志裁判長)は無罪を言い渡した(朝日24.9.26 14:02)。判決は、シャツの血痕について弁護団側の鑑定結果の信用性を認め、「捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、タンク内に隠匿された」と判断。衣類のうちズボンから切り取られたとされる端切れも捏造であり、袴田さんの自白についても「実質的に捏造された」とし、「5点の衣類以外の証拠が持つ事実関係の証明力は限定的」として「犯人と認めることはできない」と結論づけた(時事24.9.27 00:56)。同日、日弁連会長により、「「袴田事件」の再審無罪判決を受けて、検察官に対して速やかな上訴権放棄を求めるとともに、政府及び国会に対して改めて死刑制度の廃止と再審法の速やかな改正を求める会長声明」が発表された。同年10月8日、控訴期限の10日を前にして、畝本直美最高検検事総長名が異例の「談話」を発表、捜査機関による捏造を認めた判決については不満を示しつつも、「袴田さんが結果として長期間にわたり、法的地位が不安定な状況に置かれてきた。検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではない」として控訴断念を明らかにした(朝日24.10.8 18:11)。翌日の9日、静岡地検が上訴権を放棄し、無罪が確定した(時事24.10.9 12:26)。
弁護団は、県と国を相手にして2025年8月に国家賠償請求を提訴する予定。それとは別に、畝本直美検事総長談話が名誉棄損に当たるとして民事訴訟を起こすことも検討しているという(産25.5.12 19:16)。
2019年2月、誤判の蓋然性が高いことなどを理由に恩赦を出願(毎日19.3.21西部朝)。2020年1月15日特別基準恩赦に出願。通常恩赦を含めると4度目の恩赦出願になる(毎20.1.16静岡)。2007年、一審静岡地裁の元裁判官が実名を明かしたうえで、無罪の心証を持ちながらも合議の末に死刑判決を書いたと告白、その後、袴田元被告人と面会を果たした(朝日18.1.16朝)。再審を判断するための第三者機関の設立などを目指す「冤罪犠牲者の会」(2019年3月2日結成)に参加(朝日19.3.3朝)。同年12月、事件の概要をまとめ、再審請求の最新情報を盛り込んだ冊子を作成(中日19.12.4夕)。2020年5月、袴田元被告人を支え続ける姉秀子さんの半生を漫画で描いた「デコちゃんが行く 袴田ひで子物語」が出版された(朝日20.5.11朝)。同年8月、支援者らが再審請求の支援のためにクラウドファンディングで資金集めを開始、目標を大きく超える1806万円が集まった(朝日20.10.21夕)。2020年、袴田元被告人が作成し1977年に最高裁へ提出された上告趣意書が編纂され、「袴田さん支援クラブ」で公開された。その中には「私は最高裁の公正かつ神聖と正義を信じたい。その意味で、我々は本件審理過程を国民に情宣し、一般大衆の審判を同時に仰ぎたい。そして高裁のインチキ判決を徹底的に糾弾しなければ、裁判において正義が滅びることになる。国民にとって、これほど悲しむべきことはない。」と書かれており、高裁判決に対する反論が様々な観点から書かれている。逮捕時(66.8.18)30歳(読66.8.19朝)。

ファクトチェック 不法滞在者増えている 参政党

2025年07月20日 10時08分37秒 | 社会・文化・政治・経済

外国人犯罪が急増している?

2005年から減少が続き、コロナ後に入国再開などで増加【#参院選ファクトチェック】


検証対象

参院選で外国人受け入れが争点の一つとなる中で「外国人犯罪が急増」「外国人の凶悪犯罪が増えた」などの投稿が複数のプラットフォームで拡散している(例1,2,3)。

検証過程

外国人犯罪は減少傾向から増加

法務省が公開している犯罪白書の最新版(令和6年版)の第4編第9章「外国人による犯罪・非行」に外国人の犯罪に関するデータがまとまっている。

第2節「犯罪の動向」によると、来日外国人(永住者など除く)による刑法犯の検挙件数は2005年3万3037件をピークに減少傾向が続き、2022年に8548件とピークの3割を切った。一方で、2023年は1492件増えて1万40件(前年比17.5%増)だった(法務省”令和6年度 犯罪白書”)。

外国人自体の増加

外国人による犯罪が一転して増加した背景の一つが、外国人自体の増加だ。外国人の新規入国者は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために2020年は前年比87.4%減の358万人、2021年は同95.8%減の15万人と激減していた。

2022年3月以降は水際対策の段階的緩和で回復し、2022年は前年の22.6倍、2023年はさらに6.9倍の2375万人とコロナ前の8割の水準まで回復した。在留外国人も2023年は341万人(前年比10.9%増)の過去最多だった(いずれも法務省”令和6年度 犯罪白書第4編第9章「外国人による犯罪・非行」 ”)。

2023年の外国人刑法犯が増えているのは事実だが、来日も含めて外国人数の回復と増加とあわせて、検挙件数としては新型コロナ前の水準に戻った形だ。

参政党議員発言を沖縄タイムスが検証

外国人の犯罪については、沖縄タイムスが参政党の吉川里奈衆院議員の「外国人の重要犯罪増」という街頭演説での発言をファクトチェックし、「ミスリード」と判定している。

重要犯罪(殺人、強盗、放火、不同意性交、略取誘拐・人身売買、不同意わいせつ)に関する外国人の検挙数は2024年に754件で、10年間で75%増えているが、在留外国人の増加率とほぼ等しいことなどを判定の理由に挙げている。(沖縄タイムス”「外国人の重要犯罪増」はミスリード 「不起訴率が右肩上がり」は誤り 参政党・吉川里奈衆院議員の街頭演説【ファクトチェック】”)

判定

「外国人犯罪が急増している」はミスリードで不正確。2023年は前年比で17.5%増えているのは事実だ。ただし、2005年から減少傾向が続く中で、新型コロナ後に訪日外国人が急回復し、在留外国人も過去最多を記録して、検挙件数としてはコロナ前の水準に戻った形だ。

出典・参考

法務省”令和6年度 犯罪白書”https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00134.html(閲覧日2025年7月14日)

沖縄タイムス. ”「外国人の重要犯罪増」はミスリード 「不起訴率が右肩上がり」は誤り 参政党・吉川里奈衆院議員の街頭演説【ファクトチェック】”2025年7月10日. https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1624023(閲覧日2025年7月14日)

検証:古田大輔
編集:根津綾子


参政党 問題発言 LGBTはいらない

2025年07月20日 09時22分51秒 | 社会・文化・政治・経済

「LGBTなんかいらない」参政党への投票に待ったをかけてください

 
 
 

参政党は、2022年の参議院選挙で議席を獲得し、注目を集めている新興の政治団体である。

しかし、その主張や行動には多くの問題が指摘されており、有権者として慎重な判断が求めらる。

 1. 問題発言と差別的な主張

参政党の神谷宗幣代表は、2023年7月に産経新聞後援のイベントで「LGBTなんかいらない」と発言しました。
この発言は、性的マイノリティに対する明らかな差別的発言であり、現代社会の多様性や人権尊重の価値観に反するものです。
政治団体がこうした発言を公の場で堂々と行うことは、社会の分断を助長し、特定の集団に対する偏見を煽る危険性があります。すべての市民の権利を尊重する政治家を選ぶべきです。

また参政党の公式サイトで公開している新日本憲法(構想案)にも同様の問題が複数ある。
以下では、問題のある条文を引用し、その内容がなぜ問題かを提示する。

1. 夫婦同姓の強制

(第七条第三項)
「婚姻は、男女の結合を基礎とし、夫婦の氏を同じくすることを要する。」問題点: 現行憲法(日本国憲法第24条)は、婚姻における「個人の尊厳」を重視し、夫婦の自由な選択を保障している。(現在も夫婦同姓を強制していますが、選択的夫婦別姓は働き方や家族形態の多様化に対応する制度として、多くの国民が支持している(NHK世論調査など)。
この条文は、現代日本のニーズを無視し、時代遅れな価値観を押し付けるものとして問題視されている)
しかし、参政党の条文は夫婦同姓を強制し、選択的夫婦別姓を明確に排除ている。
これは個人の自由を制限し、国際的な人権基準や多様な家族形態を無視するものとして批判されている。

2. 国民要件の差別的定義

(第五条)
「国民の要件は、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準として、法律で定める。」
問題点: 「日本語を母国語とする」「日本を大切にする心」といった主観的・曖昧な基準は、帰化日本人や海外で育った日本人(例:日系人)を排除する可能性がある。現行憲法(第14条)では「人種、信条等による差別」を禁じているが、この条文はそれを無視し、排外主義を助長する
また、「日本を大切にする心」を法律で判断することは、思想統制や「非国民」レッテルを貼るリスクを生み、自由な表現や多様な価値観を抑圧する

3. 信教の自由の欠如と神権国家化の懸念

参政党の憲法草案では、信教の自由を明記した条文(現行憲法第20条に相当)が欠如しており、代わりに天皇の神聖視や伝統重視が強調されている
問題点 現行憲法は信教の自由を保障し、政教分離を明確に定めているが、参政党の草案はこれを無視し、特定の宗教的価値観(例:神道や伝統)を優先する可能性がある。
これは神権国家化への道を開き、宗教的少数者の権利を侵害する恐れがある

4. 国民主権の後退

草案の前文では、「日本は、稲穂が実る豊かな国土に」と叙情的な表現を用いつつ、国民主権の明確な宣言が弱められている。
また、家族や伝統への過度な責任付与が見られる
現行憲法の前文は「主権が国民に存する」と明確に宣言するが、参政党の草案はこれを曖昧にし、家族や伝統を優先する記述で国家の役割を「補完」に限定している。
これは国民主権の原則を後退させ、国家の責任を軽減している。

2. 反ワクチン・陰謀論との深い関わり

参政党は、反ワクチンや陰謀論を支持する層を取り込むことで勢力を拡大してきました。
党の主要メンバーである神谷氏や元代表の松田氏、吉野氏は、反ワクチン医師らと連携し、「コロナは茶番」「ディープステートが日本を操っている」といった主張を展開しています。
これらの主張は科学的根拠に欠け、公共の健康や社会の安定を損なう可能性があります。

今やれいわ新選組を吸収し、参政党は第3党という立ち位置になってきています。

 

 

2023.05.29

LGBT理解増進法案に関する見解

 現在国会に提出されている「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律」案は、G7に間に合わせることを目的に拙速な議論が与党でなされたに過ぎないものであり、この課題が抱える多くの論点について慎重な検討が欠けている。

 法制化を検討するにあたっては、広く国民の意見を反映させるために十分な意見の聴取の機会を設けることが重要であり、具体的な問題に焦点を当て、実生活の課題から解決策を見つけるべきである。

 しかし、本法案は、そのような議論のないまま、「性的指向及び性同一性の多様化を受け入れる精神を涵養し、もって性的指向及び性同一性の多様性に寛容な社会の実現に資すること」を立法趣旨とし、事業主や学校における教育や啓発の実施、環境整備等を求める内容となっているほか、毎年1回、政府が施策の実施状況を公表する内容となっている。

 そもそも、立法趣旨に記載されている「涵養」の意味は、「水が自然に染み込むように、無理をしないでゆっくりと養い育てること」を指す。しかし、現状は、「涵養」とは逆方向へ進んでいるように思われる。

 拙速な法制化の進行により、価値観の押し付けに対する懸念や性犯罪の増加に対する不安、スポーツ界におけるジェンダー問題など諸外国が直面してきた社会的混乱が日本でも生じるのではないかという社会的不安が広がっている。これにより、これまで法案の存在がなくても平穏に暮らしてきた性的少数者の方々が逆に不快な目で見られ、却って社会の分断が生じる懸念も生じている。具体的な道筋を持たずに法制化が進められれば、現場は混乱し、法律の趣旨から逸脱した過剰な主張や要求が広まって、上記のような社会の混乱を引き起こす可能性も懸念される。

 いわゆる性的少数者の方々が直面している問題を理解すること、彼らを差別することは許されないとの認識をもつことは大切なことである。

 日本国憲法は、14条で法の下の平等を定めている。報道で「G7の中で唯一、同性カップルに対して国として法的な権利を与えず、LGBTQに関する差別禁止規定を持たない」などとされていることは、事実誤認である。
現在、世界的にも差別禁止との規範が女性の立場を傷つけるなどとして、様々な問題や混乱が生じており、アメリカなどでは、見直しへと方向が転換する動きもみられる。

 精神の涵養とは、決して押しつけであってはならないはずである。大きな価値観の転換につながる理念法を作るならば、なおさら慎重に時間をかけて練り上げるべきである。

 以上のことから、参政党としては、議論・検討が不十分な本法案に反対の立場である。

 

 


参政党 発達障害などはいない 問題発言する

2025年07月20日 09時00分08秒 | 社会・文化・政治・経済

参政党の神谷宗幣代表が編集した「参政党Q&Aブック 基礎編」(青林堂)に「そもそも発達障害など存在しません」と発達障害の存在を否定していることが波紋を広げている。発達障害の各団体から「まったく間違っています」「 発達障害は、医学的にも議員立法でも定められた障害」「根拠のない主張で私たち当事者や家族を苦しめないでください」と批判の声が上がっている。

【写真】男性上司「セで始まってスで終わるものなーんだ?」 バイト仲間女性の模範解答に「カッコ良すぎるだろ」「完璧な返し!」

発達障害を否定する「参政党Q&Aブック 基礎編」は2022年に出版された。書籍の通販サイトでは内容について「彼らの勢いが止まらない! !」「参政党ってどんな政党?」「教育・食と健康・国まもりについてどう考えているの?」「党の主張をQ&Aにてわかりやすくまとめました」と紹介されている。


問題となっているのは「発達障害を持つと判断された子供たちに対して、どのような教育を行なうべきでしょうか?」という問いに対して、「通常の子供たちと全く同じ教育を行なえば問題ありません。そもそも、発達障害など存在しません」と回答している箇所だ。

発達障害当事者協会はX(旧Twitter)で「参政党の『発達障害など存在しません』発言により不安を覚えた当事者から当会にもメール等が届いております。 断じて許す事は出来ません」と参政党の考え方を批判し、「みなさん選挙はよく政策を見て投票してください」「 発達障害は、医学的にも議員立法でも定められた障害です」と発達障害が医学的に認められた脳機能障害であることを訴えた。

一般社団法人日本自閉症協会も「ある政党が『そもそも発達障害など存在しない』と公言していますが、これはまったく間違っています」「 WHOや米国精神医学会には診断基準があり、日本には超党派の議員立法により成立した発達障害支援法があります。」「発達障害などないという根拠のない主張で私たち当事者や家族を苦しめないでください」と当事者や家族が抱える問題を否定するような言動を批判した。

批判の声に対し、参政党前代表の松田学氏が「私が2年ほど前に街頭演説で精神疾患や発達障害の存在を否定するかのような発言をしたことにつきましてご批判をいただいておりますが、これは、当時、ある論者が発言していた内容を紹介する発言でした」「しかし、十分なエビデンスがなく、その内容自体についての妥当性が検証できないことから、私としては、そのような発言はやめております」「現在、その説を拡散するようなことはしてはおりません。関係者にご迷惑をおかけしたことをお詫びします」と説明した。

松田学氏の説明に対し、発達障害当事者協会はXで「これはウソです」「参政党の書籍に書かれています」と松田氏の「ある論者が発言していた内容を紹介する発言でした」という弁明をさらに批判し、「松田氏の発言で傷ついた当事者が多数います」「絶対に支持してはいけません」「発達障害の当事者団体として許すことの出来ない事案です」と指摘した。

また、参政党の神谷代表は7月14日、「暴露します^_^」とXで切り出し、「1冊目の「Q&A」の本は、神谷、吉野、松田が中心に原稿の叩きを書いて、あとは出版社がまとめて『あの勢力』などの表現が加わり、1ヶ月の突貫作業で出版しました」「内容にも誤りがあったので絶版としました」「2冊目の『ドリル』は基本的に私が書いて、専門分野は政策チームの党員さんらにベースを書いてもらい、私が直しました」「 世界観は変わっていないですが、中身はだいぶ違うと思います。読み比べて見て下さい」と説明した。

日本発達障害ネットワークは声明を出し、「ある政党の出版物に『そもそも発達障害は存在しない』といった誤った記載が現在でもあり、日本発達障害ネットワークの会員一同としては非常に遺憾に感じているところです」「発達障害者支援法は 2016 年に超党派による議員立法で成立した法律であり、施行後 20 年を経て様々な形で発達障害児者とその保護者の方々に適切な支援が届くようになりました」「また、アジアの国からも日本の発達障害者支援の取り組みは高く評価されているところです」と日本の発達障害者支援が世界的に評価されていることを挙げ、「私たち日本発達障害ネットワークは、今後も発達障害児者とその保護者の方々が、どこで暮らしていても、必要としている理解や配慮が享受できるように活動をしていきたいと考えています」「そして、”全ての方の命を尊重し、障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会”を皆様と共に実現していきたいと思いますので、引き続きご理解とご協力をよろしくお願いいたします」と発達障害への理解を求めた。

まいどなニュース