幽霊役者

2011年06月05日 | ショートショート


某放送局、重役会議室。部屋は重苦しい空気に包まれていた。
社長が暗い声で報告した。
「ハリウッドからリメイクのオファーがあったのは事実だ」
重役たちがため息を漏らした。まさか開局以来初の大ヒットドラマがこんな事態を招くことになるとは。
数カ月前、2時間ドラマ『本当にあったら怖い幽霊の話スペシャル』を放送したところ、空前の視聴率を上げた。
脚本や演出以上に、幽霊シーンがリアルだと話題となった。幽霊がコンクリート壁を抜けるシーン。生首が空を飛ぶシーン。
ハリウッドの映画会社が早速、リメイクをオファーしてきた。
特撮技術や特殊効果も含めて買い取りたい、なんて言うものだから話がややこしくなった。
「皆さん、いいでしょうか?」
末席に呼ばれていた男が発言を求めた。あのドラマで幽霊を演じた男優である。
「こうなったらハリウッドにホントのことを話しては?損害は最小限に抑えられるんじゃないかな」
プロデューサーが役者を睨んだ。
「自分がハリウッドデビューをしたいだけだろ?『幽霊の話スペシャル』はシリーズ化が決定してるんだ。勝手なマネはさせんぞ」
二人が睨み合う。
「ずっと芽が出ず辛酸なめて、やっとつかんだチャンスだ。ボクは世界で勝負をしてみたい」
「売れない役者だったおまえに目をつけたのは俺たちだ。地に足つけて考えろ!」
「んなもんねーよ!!」
重役陣が役者の足もとをちらりと見た。膝から下がボンヤリと消えている。ホンモノの幽霊だ。
ホンモノの幽霊になった役者を使ってドラマを製作。それがリアルな幽霊シーンの真相である。
「事実を公表してくれ。世界初の幽霊役者の名声はボクのものだ」
「そうはさせん」
社長の低い声が場を制した。
「出てらっしゃい!」
社長の呼びかけにオウのかけ声、修験者姿の男が杖先の鉄輪をシャンシャン鳴らして入ってきた。
「ヌハハハ、除霊師の、本摩尼亜北斎先生だよ。彼に祈祷してもらえばアッという間に消滅だよ」
「卑怯なマネを」
「さあハリウッドはあきらめて我々に協力するんだ」
「イヤだ!」
「オヤオヤ、秘密がバレるくらいならキミを消すほうを選ぶよ。死にたいのか?」
「死んでるし!」
「じゃ、仕方ない。北斎先生、やっちゃってください」
「ガッテン承知のすけ。エイッエイッエイ~ッ」
キャー!!

翌朝。某家庭。
「アレ?このチャンネル映んないぞ。アンテナ壊れちゃったのかな」
「あなた、まだ御存知なかったの?そのチャンネルの放送局、昨晩ビルごと消えたらしくて大騒ぎなのよ」



(最後まで読んでいただいてありがとうございます。バナーをクリックしていただくと虎犇が喜びます)