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クラッシュダウン

2011年06月24日 | ショートショート

このゴワゴワした音は、何の音だろう。
子どものときから気になっていた音だ。明け方暗くに町に出たら聞こえた、このゴワゴワした空気の音。
ボクは港町に住んでいたから、漁船のエンジン音が響いてくるのかと思っていたけど。
でも大人になって故郷の町を離れても、やっぱりこの音がした。
生活音が消えた深夜、そして明け方に湧き起こって来る、このかすかなエアコンの響きのような音。
ああ、気になる。

身体を動かそうとしたが、手も足も感覚がなかった。手足を動かすことができていた頃の感覚を思い出そうとする。
ダメだ。
冷たいコンクリートの上にクタクタになって横たわっている。頬をカサカサに枯れた草が刺す。
鉄を舐めたような不快な味がして、唾を飲んで気がつく。ああ、これは血の味だ。
いつからこうしているんだろう。
えっと。
記憶がよみがえってくる。
アスファルトに横たわっているバイク。道路を濡らすガソリン。ガードレール。
そうだ。ボクはガードレールの向こうに放り出されたんだ。
しばらく気を失っていたにちがいない。
早く、早く助けを呼ばなくっちゃ。
そう思うが、起き上がろうにも手も足も動かない。どうなっちゃったんだ?ボクは。
無茶な生き方をし過ぎたんだ。
町を出てからのボクは、何もかもがうっとうしくて壊してしまいたかった。
真面目になっても、強気になっても、卑屈になっても、何ひとつうまくいかなかったから。
夜中にスロットルをいっぱいに捻りきって、そしてライトを消した。途端に目の前の道が消え闇になった。
闇の中を走る数秒だけ。あのスリリングな数秒だけは生きていると実感できた。
そうだ。
ボクはこうなる前からずっと、手も足も動かない瀕死の状態でもがいていた。
それだけだ。それだけのこと。
仕方なく、ゴワゴワした音だけにまた身をゆだねた。ゆだね続けた。

どのくらい経っただろう。
眩しくて、目が覚めた。ああ、なんて明るいんだ。
ボクは、真っ白なシーツに横たわっていた。窓の外からツグミの声がする。
耳の奥に響いていたゴワゴワした音はない。なんだ、夢か。
「目が覚めたか」
父さんの声。ボクは息せき切って今見た夢を話し出した。朝露みたいに消えてしまう前に大急ぎで。
ボクが話し終えると、父さんはポツリと言った。
「いいじゃないか、夢だろうと現実だろうと」
夢だろうと現実だろうと?
手を動かそうとする。足を動かそうとする。血の気が引いていくのがわかった。
夢じゃない。これが現実?いや、こんなのは夢だ。夢であってほしい。

ボクは目を閉じて再び意識を失くそうとする。今度こそ、本当に目を覚ますために。
本当に目を覚ましたら、ボクはどんなボクなんだろう。
ずっと前から、手も足も動かない瀕死の状態でもがいていただけ?それだけ?
あ、また聞こえる。耳の奥にあの音が。



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ジャンル:
小説
コメント (15)   この記事についてブログを書く
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15 コメント

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通りすがりですが (RYU)
2011-06-24 03:05:44
事故の結果よりも、過程が大事だという事で、権力の介入をバネするためにも過程を解明する事が真実に繋がるわけで。だけど、当事者であり、被害者(追突事故の状況にもよりますが)には振り返りたくないアクシデントでもある。経験を否定するのは失敗をバネにする機会を失うわけで、事故という肉体的な損失すら恐いという人の弱さがよく分かりました。
自分も同じような経験しましたが、凄い想像力ですね。状況が手に取るように分かります。また、死の淵をさ迷う事と、脇に残されたものによって価値が決まるのでしょう。
芋虫 (ヴァッキーノ)
2011-06-24 06:39:54
矢菱さん、この前、キャタピラーって映画を
観たっていってたじゃないですか。
案外、ちゃんとできた映画だったって。
今回のお話、その影響があるんでしょうか。
だけど、反戦とかそういうんじゃなくて
意識下のもどかしさっていう雰囲気がよかったです。
ところで、いったい、この聞こえてくる音は
なんなんでしょう?
127時間 (tatsu)
2011-06-24 08:39:27
とても良く似てます
http://127movie.gaga.ne.jp/
新機軸 (雫石鉄也)
2011-06-24 09:23:49
う~ん。らしくないですね。いつもの矢菱さんのショートショートとは毛色が違っていますね。
なんだか、ブンガク的な香りがします。
こういうショートショートもいいですね。
感動です! (haru)
2011-06-24 12:26:18
凄いです。虎犇さん、この作品朗読してみたいです。
この作品をきちんと朗読出来たら、
一歩また踏み出せるような気がしました。
感動しました。
現実 (りんさん)
2011-06-24 19:08:50
悲しいですね。
現実から逃げたい気持ちわかります。
あの音は、何だったのでしょう。
連投 (RYU)
2011-06-24 20:41:14
切り換えによって、視点は全く変わると思いますね。
アクション映画にあるように、時間軸で事故の瞬間、または事故・紛争に至る過程までの物語をとらえたのが、エンターテイメントであるならば、事故の後処理や、病床から復活に至るまでの物語をとらえたのは、面白いという類のものではなく、深刻なヒューマンドラマになると。医療、家族、友情なども絡んで末端の生活を再現するものになると思います。
管理人さんが書いていたように「ロジャー・ボンドの墜落」は絶妙のエンターテイメントだが、その後はどうでもいいというのが大勢でしょう。逆に、深刻な事故を笑いにできるというのはキャラにもよるという事で、エンターテイメントを心得ていられながら、生産的な側面も書けるというのは凄い事だと思います。
127時間は過程を描き、転落の瞬間である事故、そして、復活・復帰を果たすまでの過程までをひとくくりに描いた異彩の作で、欧米映画のコンテンツに観られる先見性は凄いと思いますね。
事故の瞬間は、過去も未来を吹っ飛ぶようなサプライズであり、肉体への打撃が全てを物語り、生きながらえたならば、精神的な回復による、命のぬくもりが生きる事を再認識させ、復帰する力を与えてくれるのではないでしょうか。
RYU (矢菱虎犇)
2011-06-25 03:24:21
ゴメンナサイ。
面白かったときだけ、一言だけ書いてもらえるとウレシイです。
本当にゴメンナサイ。こんなヤツです。
ヴァッキーノさんへ (矢菱虎犇)
2011-06-25 03:26:50
ボクは真夜中や明け方にシーンとしたとき、ホントに、かすかなゴワゴワという音がするんです。もしかしたら、自分の体内を血液が流れる音なのかもしれません。
あれ?ボクだけ?
tatsuさんへ (矢菱虎犇)
2011-06-25 03:28:56
うわぁ~鳥肌が立っちゃったぁ!!
あんまり凄いんで理由を記事に書きます。

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