鍵をかけ忘れたドアを押すと、軋んだ音を立てて開いた。
暗い室内には化学薬品のすえたにおいが充満していて、思わず顔をしかめた。
恐る恐る研究室の中へ一歩、二歩。
博士は・・・博士はいったいここで何を研究しているんだろう?
そのとき、突然室内に照明が灯され目が眩んだ。
「ここで何をしている?」
背後から怒気を帯びた博士の声。
「この実験室には入らぬようにと、あれほど言ったのに」
次第になれてきたボクの目に映った室内の光景は異様そのものだった。
数台のコンピュータに囲まれた中央には解剖台。台には四角いトレイが置かれていた。
トレイの褐色の液体に浸されたそれは・・・サルの生首!その頭部には無数のコードがつながっている。
と、サルがボクに視線を合わせ目をパチクリした。
「い、生きてるんですか?頭だけで」
博士がため息をついた。
「ああ、生きている。培養液に浸しているからな」
ボクが説明を求めると、博士が応じた。
「君は、水槽の脳を知っているかね?人体から脳を取り出して、培養液に浸して生き続けられるようにする。その脳とコンピュータをつなぎ、あらゆる感覚を送ることができたとする。はたして脳は、現実世界で起きている出来事とコンピュータから送られてきた信号を区別できるだろうか?つまり、われわれが現実だと思っていることはすべて水槽の脳の幻覚かもしれないのだよ」
「映画のマトリックスですね」
「そうそう、あれだ。哲学分野の思考実験だが、考える主体がいくら考えても解決できない。例えば、君自身だって、本当は水槽の中の脳の幻覚かもしれんのだよ」
思わず笑ってしまった。
「アハハハ、それは100%ありえません。そんなの簡単じゃないですか。ボクのポンコツの脳みそなんてわざわざ培養したりコンピュータにつないだりするだけの値打ち、ないですもん」
それを聞いた博士が今度は笑った。
「そうとも言えるな。だが、そうとも限らん」
プス!
太股がチクリとして、見下ろすと小型注射器みたいなのが刺さってる。博士の手には麻酔銃が。
「君が人体実験第1号だ。おめでとう」
ボクの意識はたちまち薄れ・・・
別の階層。ひとりの研究者が水槽の中の脳とコンピュータのモニタを残念そうに見くらべている。
「あっちゃー、脳みそ取り出して、水槽の中に入れちまったぞ。そんな~、水槽の脳に水槽の脳の幻覚を見せてどうすんだよ~!」
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「そう言っているあんたも水槽の脳なんだよ、博士。僕もそうだし」
「みんなで脳だけになって水槽に入れば怖くない!」
「おおおお、地震だ~」
その通りだったんですね^^
あ~、私の世界も脳の幻覚かも…って思えてきました。
少なくともボクのボンクラ妄想脳をわざわざ金かけて培養液に浸すだけのメリットはなさそうで~す。
脳みそだけ保存しても人格は保存できない、脳だけ抜いてもそれはもう別個の存在なんじゃないか、そんなふうにボクは思うんです。
やられてしまったボクは、変なものが見えるようになったことがあったんです。
視界の隅にクリスタルみたいな物体。
でも、実際にはなんにもないんですよ。
で、ビビって、脳のスキャンをしてもらいました。
結果は異状なし。
その時、生まれてはじめて自分の脳を見たんです。
ちょっとうれしかったです。
あれから数年、今度は大腸がん検診でひっかかり
自分の大腸のカラー映像を見る羽目に!
あれはうれしくないですなあ。。。
ブリーフ姿の村西監督の姿とか?
・・・などという冗談はヨシコちゃん。
ボクも一昨年だったかなあ、大腸がん検診で引っ掛かりました。で、腸の中をきれいに洗い流す下剤みたいなのを大量に飲むじゃないですか。薬のせいで一ヶ月くらいまともに食べることができなかった時期があります。とにかく油ものが一切食べられなくて。毎日豆腐やうどんばかり。苦しかったなあ。大腸検査二度とゴメンです。