酒場で知り合った男はビルメンテナンスの会社に勤めているとかの、細身の穏やかな男だった。
ひとしきり話した後、彼が妙なことを尋ねた。
「幽霊って信じます?」
ボクは信じないと告げた。
「じゃ宇宙人は?」
ボクは首を振った。仮に存在したとして、わざわざ地球くんだりに訪れる理由がないと説明した。
男は笑みを浮かべたまま、ブランデーを啜った。
「見たんですか?幽霊を?それとも宇宙人?」
男はゆっくりと頷いた。
「両方・・・」
男は話し始めた。
三年前の夏、豪雨の中、仕事先に向かう途中で宇宙人を轢いてしまった。
銀色の宇宙服、頭でっかち、黒い大きな瞳、いかにも宇宙人ってヤツを。
面倒なことに巻き込まれるのは厭だったし、大雨の車外に出るのも億劫で、轢き逃げしてしまった。
数日の間、宇宙人の死体発見のニュースがないか気にかけたが、結局報道されることはなかった。
数週間経って忘れかけたころ、枕元に宇宙人の幽霊が立った。
「すまない。アレは事故だ。どうか成仏してくれ・・・って宇宙人も成仏するのか?」
何を言っても、相手はキョトンとしている。
「おい、言葉通じてるか?何か言ってみろ、おい」
なんか声を出したが、キュルキュルピイピイ、まったく通じない。
「オマエも幽霊なんだから、こんくらい覚えんとかないと。ハイ、言ってみろ、うっ」
「う・・・」
「そうそう、うまいぞ。次、らっ」
「ら・・・」
「う、ら、め、し、や、うらめしやー」
「う・・・ら・・・め・・・し・・・や・・・」
「いいぞ~、もっと怨みをこめてもう一回!」
ファーストコンタクトはかくおこなわれたのであった。
夜な夜な現れる宇宙人と意思の疎通ができるようになって、ヤツが500光年離れた惑星から訪れたこともわかった。
夏の終わり、宇宙人が別れを告げた。
そろそろ自分の星でジョーブツしたいらしい。
「せっかく地球まで来た途端、轢き殺しちまってホントにすまんかった。故郷の星で安らかに眠ってくれ」
宇宙人は両手をダラリ、幽霊ポーズで次第に薄くなって消えた。
男が話し終えると、ボクはオンザロックで乾杯した。
「面白かったです、でもネタでしょ、ソレって」
男はなんとも言えない苦笑を浮かべた。
それから千年の後。
とうに人類は滅んで広大や荒野が広がっていたが、そこに巨大円盤が現れた。
そして大音量でメッセージを流したのだった。
「う、ら、め、し、や・・・うらめしやー!」
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