夏休み恒例、怪奇現象スペシャルの収録現場。
左右ゲスト席で、科学評論家の私と霊能力者K氏は開始早々睨み合っていた。
「はっきり申し上げよう。霊なんてものは存在しない。根拠などどこにもない。非科学的だよ、まったく」
私の挑発にのK氏の禿頭に血管が浮かんだ。
「じゃあアンタ、心霊写真や心霊動画、そのすべてがトリックだと言うのか?」
「トリックばかりじゃない。ハレーションや多重露出、撮影ミスによるものも多い。それをあんたらが心霊現象に祭り上げてるんだ」
「この罰当たりめっ」
火花を散らす私たちを司会者がとりなした。
「まあまあ、バトルはのちほど。さて今週はなんと、呪いの幽霊掛け軸を実際にスタジオでご覧いただきましょう!」
不気味な音楽とともに照明が落とされる。中央に青いスポット、スルスルと掛け軸がスタジオ中央に降りてきた。
「持ち主のTさんにお話をうかがっております。どうぞ」
司会者の紹介でVTRが流される。
顔にボカシ入りのTさんが音声変えてありますの声で、掛け軸を知人から譲り受けて以来身内に起こった不幸を並べ立てた。
バカバカしい。どこの家庭でも不幸ごとのひとつやふたつ起こって不思議はない。
VTRが終わり、司会者が掛け軸の前へ。
確かに不気味な絵であった。
絵の下隅に枯れススキ数本が風にたわむ様子が水墨で描かれているだけ。なんとももの寂しい。
だが、これのどこが幽霊掛け軸?
K氏が唇を震わせながら言う。
「よほどこの世に怨みが・・・こんな恐ろしい形相で睨む女は見たことがない」
またそんなことを!私はK氏を罵った。
「馬鹿馬鹿しい!ここに描かれているのはススキだけじゃないか!騙されてはいけませんよ、皆さん!」
スタジオ中の全員が私を見た。出演者も客も撮影スタッフたちも。
司会者が私を凝視して問う。
「ま、まさか見えないのですか?掛け軸に描かれた幽霊の絵が!」
司会者と同じ顔でスタジオ全員が私を凝視している。
「み、見えないが」
観客数名が悲鳴を上げた。アシスタントの女子アナが気を失って倒れる。
「え、まさかホントの霊現象?・・・」K氏までもが震えながら呟く。
なんてことだ。
見えないはずの私が見えないことで霊を認めてしまうなんて。
ススキ以外描かれていない水墨画に、私は恐ろしい形相の幽霊がじっと私を見つめているのを感じ始める。
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だとしたら赤っ恥ですね。
それとも人間の思い込みかな。
矢菱さん、絶好調ですね。
出演者が全員催眠術にかかっちゃうヤツとかも。
ああいうの出てた芸能人ってなんか信用できないなあ。