カキぴー

春が来た

映画「黄昏」と、長き確執の終わり

2011年05月15日 | 映画
「映画や小説の醍醐味はリピートの中にある」、そう感じさせる作品が幾つかある。 その理由は明快で、人生では年輪を重ねて初めて解かること、感動することが少なくないからだ。 そんな映画の一つで、1981年公開のアメリカ映画「黄昏」を29年ぶりに観た。 アメリカ東部ニューイングランドの森に囲まれた美しい湖畔の別荘を訪れた老境の夫婦の、「ひと夏の物語」。 この映画製作には隠れた経緯があり、これを知ってからの再度の観賞は、映画の主人公と彼の実生活とがオーバーラップして引き込まれた。

妻の「エセル」にとって、心臓の持病を抱える夫「ノーマン」はいちばん大事な人、また頑固でますます気難しくなっている彼の最も良き理解者でもある。 ノーマンの80歳の誕生日に、長年会うことのなかった娘の「チェルシー」が、婚約者とその連れ子「ビリー」を伴って別荘を訪ねてくる。 しかしノーマンは彼らに冷たい態度をとってしまい、チェルシーは苛立ちを隠せないままビリーを両親に預け、ヨーロッパ旅行に旅立つ。 最初は別荘の生活になじめなかったビリーだが、ノーマンに鱒釣りの楽しみやモーターボートの操縦を教えてもらいながら、次第に打ち解けていく。 

旅行から戻ったチェルシーは、ノーマンとビリーが実の親子のように仲良くしてるのに驚き、さらにエセルに諭され、これまでのわだかまりを清算しようとす決断する。 そんな彼女を見てノーマンもまた頑なな心を開く。 別荘を立ち去る日、ノーマンはビリーとチェルシーに、彼の愛用の釣竿と大学時代に獲得した水泳の銀メダルを進呈する(チェルシーは水泳が得意)。 長い確執を乗り越えた父と娘は、別れ際に親密な抱擁を交わすのだが、老いの厳しさ、寂しさ、伴侶の絆、親子の絆、などが痛いほど伝わってきて、身につまされる。 ノーマンの役を演じるのは、ハリウッドのかっての名優 故「ヘンリー・フォンダ」、そしてチェルシー役が彼の長女で女優の「ジェーン・フォンダ」、ちなみに俳優の「ピーター・フォンダ」は彼女の弟。

ヘンリー・フォンダは生涯で5度結婚している。 2度目の妻との間に生まれたのがジェーンとピーターで、母親は1950年精神病を患って自殺。 フォンダは子供たちを動揺させないため心臓病で死んだと説明するが、やがて死の真相を知った2人と父親の関係は次第に冷却し断絶状態が続く。 しかし晩年ジェーンは、心臓病が悪化し死期の近い父親のため、戯曲「黄昏」の映画化権を取得し、自らプロジュースしながら父との共演を果たす。 そして父親の相手役に大女優の「キャサリン・へブバーン」を推薦した。

公開後、作品は批評家達から絶賛され,興行的にも予想外の大成功を収める。 1981年度の第54回アカデミー賞では主演男優賞、主演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。 しかしこの頃ヘンリーの病状はかなり悪化しており、授賞式にはジェーンが代理で出席する。 結局この「黄昏」がヘンリーの遺作となり、彼は授賞式の5ヵ月後に77歳で死去。  余談だが映画の中で彼がいつも着用してたフィッシング・キャップは、キャサリン・へブバーンの愛人で、彼女が最期を看取った俳優「スペンサー・トレイシー」の遺品。