自分は東京営業所長として単身赴任中である。常宿は畳敷きの旅館である。今日も山のような仕事を抱えている。自分は一人座敷机に向かって、幹部会で説明する予定の、前月度実績報告の資料をまとめている。手元に情報やデータが十分に揃っておらず、白紙の模造紙に何から書き始めてよいのか、うーんとうなっている。
半開きの入口の襖戸から薄暗い廊下を眺めていると、同僚の一人が歩いていく。こちらの部屋に首だけ入れて「夕飯に行ってくるぞ。キミはムリだろうな。そんなに仕事を抱えていたら何時メシを食いに行けるのかね?」などと気の毒がりながら、スマナサそうに消えていく。
自分は元気を取り戻して仕事に取り掛かる。今夜中に仕上げないと明日が大変だ、と思う。何しろ、手元にはほとんど情報がない。やむを得ず、あちらの模造紙へ、こちらの模造紙へと、思いついたことの断片をマジックで書きまくる。何十枚の模造紙を使ったことか?
ふふふ・・・と笑いが込み上げる。これが自分の得意ワザなのだ。後は、ハサミを使って、継ぎはぎしていくだけだ。さしたるアイディアがなくても、とにかく思い付きを書いて行けばよいのだ。後から前後関係や概念ごとにまとめて、並べ替えすりゃいいだけだからな。これはKJ法と言ってね。オレのようなバカには、至極、便利がいいもんだ。と考えながら仕事が進んでいく。
何時間、没頭したことか。何百枚もの模造紙を切り刻んで、ついに1枚の模造紙への貼り付けが終わる。出来た。無から有を捏造する技術の完成だ。オレはさして能力もないのに、こんなテクニックを若いときに身に付けたお陰で、そして律儀に期限を必ず守ってやって来たお陰で、ここまで出世できたのだ。ふふふ・・・と、再び笑いが込み上げてくる。やっとメシにありつける。と思って外へ出る。
外へ出ると朝だった。朝焼けの空と太陽が目にまぶしい。東京の近郊にしては草深い田舎みたいなところだ。多数の通勤者がぞろぞろと土手の上のプラットホームに向かって歩いている。押し合いへし合いの状況だ。そうだ。オレはひょっとすると会社の幹部を見送りに来たんだっけ?
よく見ると、雑踏の中に、あちらに一人、こちらに一人と知った顔が混じっている。入社早々お世話になった元A課長。自分が係長をしているときに世話になった元B部長。そうそうたる先輩諸氏が歩いている。みんな、東京駅行きの電車に乗ると言う。
自分は、電車全体が見渡せる丘に陣取って、お別れの手を振っている。超満員の電車に乗った一人ずつの顔の識別はできないが、電車のあちらこちらから、こちらに向かって手を振って応えてくれている。電車はゆっくりと進み始める。ご苦労様でした。自分は、一人、後の大事を託された重要人物を気取って、手を振り続ける。聞けば、その電車は東京駅で銀河鉄道特別列車に接続していて、乗客は全員、西方浄土行きに乗り換えることになっているらしい。
電車が視界から消え去って、自分は仕事に戻るべく土手を降りる。土手を降りながら考える。自分も午後にはあの電車に乗る予定だ。早く仕事を片付けないと、あの電車に間に合わないかも…。と至極真面目に考えている。
ここで目が覚める。朝だ。朝の寝覚めは、久しぶりの達成感に包まれて、爽やかなものだった。よし、今日はバリバリ仕事をやるぞ!と、やる気満々で布団をはね除けた。







半開きの入口の襖戸から薄暗い廊下を眺めていると、同僚の一人が歩いていく。こちらの部屋に首だけ入れて「夕飯に行ってくるぞ。キミはムリだろうな。そんなに仕事を抱えていたら何時メシを食いに行けるのかね?」などと気の毒がりながら、スマナサそうに消えていく。
自分は元気を取り戻して仕事に取り掛かる。今夜中に仕上げないと明日が大変だ、と思う。何しろ、手元にはほとんど情報がない。やむを得ず、あちらの模造紙へ、こちらの模造紙へと、思いついたことの断片をマジックで書きまくる。何十枚の模造紙を使ったことか?
ふふふ・・・と笑いが込み上げる。これが自分の得意ワザなのだ。後は、ハサミを使って、継ぎはぎしていくだけだ。さしたるアイディアがなくても、とにかく思い付きを書いて行けばよいのだ。後から前後関係や概念ごとにまとめて、並べ替えすりゃいいだけだからな。これはKJ法と言ってね。オレのようなバカには、至極、便利がいいもんだ。と考えながら仕事が進んでいく。
何時間、没頭したことか。何百枚もの模造紙を切り刻んで、ついに1枚の模造紙への貼り付けが終わる。出来た。無から有を捏造する技術の完成だ。オレはさして能力もないのに、こんなテクニックを若いときに身に付けたお陰で、そして律儀に期限を必ず守ってやって来たお陰で、ここまで出世できたのだ。ふふふ・・・と、再び笑いが込み上げてくる。やっとメシにありつける。と思って外へ出る。
外へ出ると朝だった。朝焼けの空と太陽が目にまぶしい。東京の近郊にしては草深い田舎みたいなところだ。多数の通勤者がぞろぞろと土手の上のプラットホームに向かって歩いている。押し合いへし合いの状況だ。そうだ。オレはひょっとすると会社の幹部を見送りに来たんだっけ?
よく見ると、雑踏の中に、あちらに一人、こちらに一人と知った顔が混じっている。入社早々お世話になった元A課長。自分が係長をしているときに世話になった元B部長。そうそうたる先輩諸氏が歩いている。みんな、東京駅行きの電車に乗ると言う。
自分は、電車全体が見渡せる丘に陣取って、お別れの手を振っている。超満員の電車に乗った一人ずつの顔の識別はできないが、電車のあちらこちらから、こちらに向かって手を振って応えてくれている。電車はゆっくりと進み始める。ご苦労様でした。自分は、一人、後の大事を託された重要人物を気取って、手を振り続ける。聞けば、その電車は東京駅で銀河鉄道特別列車に接続していて、乗客は全員、西方浄土行きに乗り換えることになっているらしい。
電車が視界から消え去って、自分は仕事に戻るべく土手を降りる。土手を降りながら考える。自分も午後にはあの電車に乗る予定だ。早く仕事を片付けないと、あの電車に間に合わないかも…。と至極真面目に考えている。
ここで目が覚める。朝だ。朝の寝覚めは、久しぶりの達成感に包まれて、爽やかなものだった。よし、今日はバリバリ仕事をやるぞ!と、やる気満々で布団をはね除けた。







