冨田敬士の翻訳ノート

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RANDOM HOUSEの法律用語辞典

2009-05-10 15:49:53 | 書籍
英語力を強化するには英英辞典の使用が欠かせないと昔からよく言われてきた。英英辞典を使用することで英語の感覚が身につき、読解力や聴解力が格段に向上する。これは一般英語の分野に限ったことではない。専門分野でも英英の用語辞典を活用することで英文の理解力が大幅に向上するはずである。高度な英語力が要求さる翻訳者は専門分野の英英辞典もぜひ活用したい。
 法律分野の英英辞典といえば、以前からThomson社のBlack’s Law Dictionaryが有名で、ネイティブの法律家も大抵はこれを勧めている。しかし、この辞典は以外に使いづらい。ネイティブが当然知っているようなことは省略してあるし、その一方で、なかの解説は微に入り細に入り徹底している。例えばactionという語を引くと、5ページにわたって細かい文字の解説が続く。英米法や法律英語の全般的な知識がないと、何が要点なのか、知りたいことがどこに書いてあるかはっきりしない。それに2000頁近いボリュームの重量感は、ひんぱんに引くには物理的に適していない。ちょうどオックスフォードの大辞典のようなもので、いくら優れているといわれても、英語の学習段階では十分に使いこなせない。
 この点”RANDOM HOUSE WEBSTER’S DICTIONARY OF THE LAW”は使いやすい辞典だと思う。携帯版とはいえない大きさだが,500ページぐらいの中型辞書なので、手に持って気軽に引くことができる。文字も比較的大きく見やすいので、細かい文字が見づらい人にはうってつけである。しかし、何といってもこの辞典の長所は英文の解説が口語的でわかりやすいこと。例えば売買取引でよく使われるclosingという用語を引くと、次のように定義されている。
"the completion of a transaction, especially a real estate transaction or major corporate transaction, usually at a meeting attended by counsel for all parties. A detailed written summary of the financial aspects of the transaction being closed is called a closing statement."
 これに対して別の用語辞典の定義は次のようになっている。
"the consummation of a transaction involving the sale of real estate or of an interest in real estate, usually by payment of the purchase price (or some agreed portion), delivery of the deed or other instrument of title, and finalizing of collateral matters."
 以上のように、「ランダムハウス」の定義は口語的で具体的であるが、後者の定義は表現が古めかしく、legal jargonを多用し、わかりやすいとは言えない。
 そのほか「ランダムハウス」にはUsageやNoteの欄を多数設け、言葉の用法や法律面の解説をするなど斬新な工夫も見られる。見出し語数は約8000語。そのほかネット検索の一助として政府機関や国際機関のホームページ・アドレスを掲載したのも親切である。因みに価格であるが、インターネットで買えば1800円ぐらいで入手できる。
 筆者はかなり以前からこの辞典のお世話になっているが、用語の解釈や英文の書き方など相変わらず貴重な情報源になっている。2000年に出版されたままなので、そろそろ改訂の時期かもしれない。

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