「自殺と原発事故に因果関係」東電に賠償命令
東京電力福島第一原子力発電所の事故で避難を余儀なくされ、その後自殺した福島県川俣町の女性の遺族が起こした裁判で、福島地方裁判所は「自殺と原発事故の間には因果関係があり、生まれ育った地でみずから死を選択した精神的苦痛は極めて大きい」として、東京電力に対して遺族に合わせて4900万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
東京電力によりますと、原発事故が自殺の原因だとして遺族が訴えた裁判で、賠償を命じる判決が出たのは初めてだということです。
福島県川俣町の渡邉はま子さん(当時58)は、原発事故によって住んでいた山木屋地区から避難生活を余儀なくされたあと、一時帰宅をした平成23年7月、体にガソリンなどをかけ火をつけて自殺したことから、夫と3人の子どもが「避難生活でうつ病になったことが原因だ」として東京電力を訴えていました。
26日の判決で福島地方裁判所の潮見直之裁判長は、「女性は福島市内のアパートに避難して以降、うつ病を発症していた可能性が高く、いつ帰還できるか見通しが持てない状況で強いストレスを受けていた。
避難生活の再開が迫っていたことが直接の契機になって自殺したと認められ、自殺と原発事故の間には因果関係がある」と指摘しました。
そのうえで、「展望の見えない避難生活へ戻らなければならない絶望や、生まれ育った地でみずから死を選択することとした精神的苦痛は、容易に想像しがたく極めて大きい」として、4人の遺族に合わせて4900万円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。
東京電力によりますと、原発事故が自殺の原因だとして遺族が訴えた裁判で、賠償を命じる判決が出たのは初めてだということです。
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「寄り添った意義のある判決」
自殺した渡邉はま子さんの夫の幹夫さんは判決のあと記者会見し、「自分たち家族の思いに寄り添った意義のある判決をいただいたと思う。これまで悩み苦しんだ家族も救われる。山木屋地区の自宅に戻ったら、はま子の遺影に『ゆっくり休んでくれ』と報告したい」と話していました。
また、会見に同席した広田次男弁護士は判決について、「全面的な勝訴と評価できる。原発事故を原因とする裁判の先例としての意義は大きい。きょうの判決は、今後の別の裁判にも引き継がれ大きな影響を与えるだろう。東京電力はこの判決を真摯(しんし)に受け止めて控訴しないでほしい」と話していました。
「内容精査したうえで対応検討」
判決を受けて東京電力は、「渡邉はま子さんがお亡くなりになられたことについて、心よりご冥福をお祈りいたします。本件の対応に対する詳細は回答を差し控えるが、今後、判決内容を精査したうえで対応について検討してまいります。判決が言い渡されたのは事実であり、引き続き真摯(しんし)に対応してまいります」というコメントを出しました。
自殺までの経緯
自殺した渡邉はま子さんは、福島県川俣町の山木屋地区で夫の幹夫さんや子どもたちと一緒に暮らしていました。
この地区は福島第一原子力発電所からおよそ35キロ離れていたため、事故の直後には避難の指示は出されませんでしたが、1か月以上たってから「放射線量が比較的高い」として避難を求められ、自宅を離れることを余儀なくされました。
はま子さんは幹夫さんと共に親せきの家などを転々としたあと、福島市内のアパートに移りました。
原発事故の前、はま子さんは、近所の人たちを自宅に招待して一緒にカラオケをしたり、自分で育てた花をおすそ分けしたりするなど、社交的で明るい性格だったといいます。
しかし、夫婦で勤めていた農場の閉鎖や慣れないアパート暮らし、それに、子どもたちと離れて暮らすなどめまぐるしく環境が変わるなかで、はま子さんの様子に変化が見られるようになったということです。
はま子さんは「眠れない」と頻繁に訴えるようになったうえ、食欲も減り、将来を悲観することばが出るようになっていたといいます。
幹夫さんは、はま子さんが「山木屋に戻りたい」と言って泣いたことなどから、原発事故からおよそ3か月半後の6月30日に山木屋地区の自宅に2人で一時帰宅しました。
このとき、はま子さんは「ずっと残る」「アパートには戻りたくない」などと言って夜中になっても泣いていたということです。
そして翌7月1日の早朝、はま子さんは自宅の敷地内でみずからの体に火をつけました。
幹夫さんが見つけたときにはまだ一部火が残っていた状態で、火を払ったといいます。
はま子さんは救急搬送されましたが、その後、死亡が確認されました。
遺書はありませんでした。
震災と原発事故理由の自殺者数は
内閣府のまとめによりますと東日本大震災と原発事故を理由に自殺した人は、震災が起きた年の6月から先月までのおよそ3年間で9つの都府県で130人となっています。
このうち、最も多いのは福島県で全体のおよそ40%に当たる56人、次いで宮城県の37人、岩手県の30人となっています。
福島県では、原発事故が起きた年の平成23年は10人でしたが、おととしが13人、去年が23人と増えているほか、ことしに入っても先月までの間に自殺した人は10人と、宮城の2人、岩手の1人に対して多くなっています。
福島県では、今回の川俣町の女性の裁判以外にも、原発事故を理由に自殺した人の遺族が東京電力に賠償を求める裁判は少なくとも2件ありますが、東京電力側はいずれも「原発事故が自殺の原因とは言えない」などとして争う姿勢を見せていて裁判が続いています。