原発安全対策に2・2兆円 40年運転では回収困難
東京電力福島第1原発事故後、電力9社が原発(47基)に投じる安全対策の総額が約2・2兆円に膨らみ、原子炉等規制法で定められた運転期間(40年)を超えて長期運転しなければ、電気料金からの投資回収が一部で難しいことが、西日本新聞が実施した9社へのアンケートで分かった。原発再稼働に向けて新規制基準をクリアするには多額の安全投資が不可欠だが、投資するほど原発は止められず、脱原発を望む世論とは懸け離れる。
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本紙は、昨年施行された新規制基準で、事故時に原子炉格納容器の圧力を下げる「フィルター付きベント」の設置などが義務づけられたことから、電力9社に安全投資額や原発設備の資産価値(減価償却が終わっていない投資分、2013年度決算ベース)などを聞いた。
それによると、原発の資産価値は9社総額で約2兆800億円。安全投資額も施設が完成した後に上乗せされ、資産価値は倍増する計算だ。
原発の減価償却費は電気料金の原価に含まれ、料金から徴収する仕組みだが、慶応大の金子勝教授は「安全投資が資産価値を既に上回るような電力会社は、これまでと同じような償却を続けるなら、40年を超えて運転しなければ回収できないのは明らか。国や電力会社はそのことを、きちんと説明すべきだ」と指摘する。
九州電力によると、玄海、川内両原発でベントや免震重要棟などの整備を含めた安全投資額は三千数百億円。両原発の資産価値(約2100億円)を守るために、1・5倍ほどの投資をする計算。電気料金単価に反映させると1キロワット時当たり1円の上昇に相当するといい、運転期間が40年以内の回収が難しい原発が出てくるとみられる。九電は今後、どの原発を何年運転するかの計画は明らかにせず、「(長期の減価償却で)十分に回収可能だ」と説明している。
ほかにも、運転年数が20年以下の新しい原発を持つ電力会社は回収に自信を見せるが、再稼働を見通せない東京電力や、老朽化原発が多い関西電力は「安全投資と回収は今後対応を検討する」(広報担当)と慎重な回答にとどまった。
◆原発の減価償却制度◆ 減価償却は、資産取得時の投資額を、資産の利用期間に割り振って毎年の経費として計上する手続き。原発設備の償却費用は電気料金から賄う。安全投資などがあれば、原発の資産額はその分、上乗せされる。廃炉が決定すると利益を生み出さない設備となるため、未償却の費用を一括で損失計上しなければならなかった。だが、会計規則の見直しで一部の原発資産は、廃炉後も継続して減価償却できるようになった。
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西日本新聞社