「冬場は元のねぐらには
以前敷き詰めた枝の布団すらないんだ」
と、
南に渡った鳥が久しぶりに北に帰ってきて言いました。
「それでも元々はあんたが作った巣だったんだろう?」
「そうだよ。けれどもふかふかしてたのがなくなってね、夏とおんなじヒヤヒヤした風通しになってるのさ」
「そりゃキツイね」
「だから早く南に帰りたいわけさ」
彼はもう南に新しい巣を作っているのだ
「もうここには眠る巣もないと言うわけさ」
彼はひとしきり囀ると
飛び立ちました。
あたたかい巣こそ
彼が長年求めていたものだったからです
彼は毎日何気なく羽毛に顔を埋めながら
そのことを感じていました。
鳥には信じる友ができました。
再び歌を歌えるようになったのは
その友が常に励まし
彼が歌えるように支えてくれるからでもありました。
彼は再び新しい巣でさえずり始めましたが
新しい歌を歌おうと言われた時
自分に一体歌えるのだろうか?という不安もありました。
彼は
それでも友の励ましを信じて毎日毎日歌の練習を始めたのです。
その友には信頼できる別の鳥がいて
その鳥はさえずりも完璧な見事な歌を歌う鳥でありました
その友はその信頼できる完璧な鳥から
彼のことを、歌を歌うに値する鳥なのか?と、疑問を抱かれ警戒するよう友に助言していました。
彼は時折友の言葉が変質することに気づいていました。
それは完璧な鳥の助言がその友に不安や不信をもたらすからなのではないかと
彼の心を不安にさせるのでありました。
そんな時
歌えなかった頃の悪い癖が出そうになるのでありました。
朝枝の上で
今朝はもう歌の練習を、やめてしまおうか?
そんな葛藤や苦しみに襲われるのでありました。
それでも彼は
その友が自分の歌を信じてくれていることを疑ってはいけない。
初めて自分の歌を信じてくれた友の事をちゃんと信じよう
そう想うのでありました。
不安をやり過ごすために彼は毎日毎日歌いました。
さえずりの練習をしました。
新しい歌の練習を。
ある朝彼は気づいていました。
「僕は誰のために歌っているのだ?友のためか?それは違うんじゃないか?」
「僕は僕の歌を、信じてくれる友のおかげで歌い始めた。けれどもそれはきっかけだ。これからも信じてくれる友は大切だし信じていく。相手が僕のことを信じるかどうかなんて相手の人生。それはそれでいいんだ。」
「僕が不安になるのは、友の方ばかり向いているからだ。僕の歌は友のためでもあるけれど、周りのいろんな鳥たちや他の生き物たちに元気を与えていきたいという夢や希望があるからなんだ」
彼はしらじらと開けてゆく東の空を見つめながらつぶやいていました。
その瞳には
光が宿っておりました。
「僕が信じるべきはまずは自分だなあ。」
一番自分の歌を信じていないのは彼なのだと気づいていました。
彼は一生懸命歌い始めました
古い巣の呪縛から解き放たれた彼は
無心に歌い始めました
誰のためとか
何のためとか
知らないうちに何にも思わなくなっていました。
彼のさえずりの周りに花が咲き始め
いろんな鳥たちや虫たち
動物達が集まり始めました。
彼が無心になった時
初めて彼の新しいさえずりは
その波のような空気の震えと波動を出し始めたのです
それはいろんな生き物たちに希望を与え始めました
彼は友に感謝していました。
信じて疑わず
それはそれでいいのだと想いました。
それだけでいいことなのだと想いました。
それだけでなく他にも友ができてきました。
彼はいろんな友を信じ疑いませんでした。
その事は彼の歌に深みを与えてくれたのです。
古い巣にいた時は
誰も彼のことを信じてはくれなくて
彼は一生懸命去勢を張っていましたが
今では自然体。
信じてくれた友や支えてくれた友らのおかげだなあとしみじみ想いました。
伸びやかな歌の波動は彼の愛の歌でありました。
新しい巣の周りで聴いていた年老いた1羽の鳥が言いました。
「私の天使。歌をずーっと聞かせておくれ。あんたの歌を聞かないとさみしくなるんだよ」
彼の目から涙が溢れました
彼は泣きながら
いつまでもいつまでも歌を歌っておりました。
命の絶える日まで歌っておりました。
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