岩切天平の甍

親愛なる友へ

Youth

2007年12月26日 | Weblog

「夕方出かけるんだけど、乗せて行ってくれる?」
「いいよ。どこ行くの?」
「アレンとこのケイティアンの実家で夕飯食べるんだ。」
クリスマス・ウィークは遊び倒すつもりらしい。

アーミッシュの人達は、教会を単位とした小さなグループで暮らしている。
教会の建物は持たず、隔週の日曜日、メンバー持ち回りで自宅に集まり、礼拝を行う。子供が増え、一件の家に入りきれなくなると教会は分割され、新しい教会が作られて、小さなコミュニティーを一つの家族のように暮らす。
血縁結婚を避けるため、毎週末と祭日、遠く離れた教会の若者たちを会わせる“ユース”と呼ばれる交流会が持たれる。交代で教会員の家が食事を用意して、夜遅くまでバレーボールやゲームをしたり、一緒に賛美歌を歌う。

ケイティアンの実家はなんだかがやがやと賑やかだ。
今朝さよならって言ったばかりのデイビッドが出て来た。
何事もなかったような顔で、こっちだと納屋に入って行く。

古くて大きな納屋は装飾品の小さな風車を作る工場。階段を登って二階に上がると体育館くらいのスペースにネットを貼って青年男女がバレーボールをやっていた。順番を待って周りで見ている若者も入れると五十人くらい居るだろうか。これが噂の“ユース”らしい。

どこをほっつき歩いていたのか、家に寄り付かないラップ家のティーンたちもいる。メルビンが「やあ」と笑う。横にはガールフレンド、デイビッドの末娘メリー、コートの中では十八歳のエイモスがボール追っている。小さい頃からの労働で、みんな体格がいい。ネットは僕には届きそうもないくらい高く張られているのに、それを越えて見事にブロックを決める。

デイビッドおやじはなぜかそわそわと落ち着かない。一ゲーム終わって選手交代のどさくさに若者の中に交じってしまった。「ぜーぜー・・へっへ、見た?俺のサーブ、なかなかやるだろう。ぜーぜー。」

外に出ると、敷地を出たところにシャコタンやフェンダーの出っ張った族車が数台停まっていて、その周りでヤンキーアーミッシュ達がタバコを吸っている。こりゃあなつかしい光景だな。

「ごはんですよー。」の声にみんな一斉に母屋に向かう。ダイニング・ルームになだれ込み、大テーブルの上に並べられた料理を皿に山盛りにして地下室へ降りて行く。アンパンマンみたいな顔をしたケイティアンの母さんが「まるでアニマルだわね。」と笑う。

部屋の奥にはこの家の長老じいさんを真ん中に男親たちがどっかりと座って、わいわいと料理を盛りつける若者たちをじっと見ている。「ちゃんと見とるぞ。」と言うことか・・。アンパンマンの横に、女先生が手伝っていた。「こんばんは。ケイティアンの妹だったんだね。」

ほどなく階下から歌声が聞こえ始めた。あわてて降りて行くとデイビッドおやじがこっちこっちと手招きしている。
まぶしいランプの下、女子がしっかりとした歌でリード。男子が素朴な様子でコーラスを合わせる。
壁に張り付いて口ずさんでいるデイビッドの声が、曲が進むにつれて大きくなり、じりじりとそばに近寄って、気がつくと、若者の間に座って一番大きな声で歌っている。なんてラブリーなおやじなんだろう。
合唱が終わると女子の一人が、「一緒に歌ってくれてありがとう。」と宣言。男共は目をきょろきょろさせて、僕は甘酸っぱい思いに「ぐぐっ」と来た。

「イマニュエルとレベッカもユースで知り合ったんだっけ?」
「そうだよ。」
「初めてレベッカに言った言葉、覚えてる?」
「いや、忘れちゃったな。」
「私は覚えてるわよ。」
「こわいねー。」
「タバコ吸った事はある?」
「うーん、ちょっとね。二十二、三歳の頃かな。」
「やっぱりあんなだったんだね。」
「そうさ。」


かぼちゃ

2007年12月26日 | Weblog

九時、朝食。おしゃべりの続き。
「ねえ、ミシシッピ、行く?」
「うーん、赤ん坊連れてっちゃだめよね。いい旅行者じゃないもの。ううん、全然良くないわ。」

ハリケーンカトリーナが南部を襲ってから再建がなかなか進まず、未だにボランティアを募集しているのだそうだ。建築の仕事が得意なアーミッシュの人達もバンをチャーターし、十時間かけて行く。あのバンで行くのかなぁ・・。

「このカボチャ、すごく甘いと思わない?」
「濃いオレンジ色ね。どうやって料理したの?」
「オーブンで焼いただけよ。日本のカボチャ。」
「種、どうした?乾かしたら芽がでるかしらね。」

子だくさんのアーミッシュ、人口はどんどん増える。
人は増えても土地が増えるわけではないから、皆が皆、農業をやって行くわけにもいかない。ある者は家具を作り、ある者は観光業、建築業、工場労働者・・・。
笑い合う彼らの顔を眺めながらぼんやりと人口問題を思う。
昔は人が少なかったからそれで良かったのかもしれないけど、
どう思うのか訊いてみようか・・、止めておく。
絶滅に向かってゆっくりと、幸せな日々を送るんだろう。

デイビッドが泣きそうな顔をして言う。
「イマニュエル、引っ越すのがどんな気持ちか分かるよ・・・。」
黙っているイマニュエルの横でレベッカが、
「何だかみんな騒いでるけど、へんよね。あたしはリラックスしてて、ただ引っ越すだけ。もう忙しくってね・・・。」

「あー、食い過ぎだ!散歩に行こう。」
男達は外に、牧場の角まで歩く。「どうする?ここから。」立ち止まって三人顔を突き合わせる。「うーん、あの橋まで行って帰って来るってのは?」また歩き出す。いつでも皆で話し合って物事を決めるのが面白い。「あっ、空き缶だ!これ持って行くと十セントになるんだよね。」とデイビッド。エイモス、「あそこにもあるよ、十セント。」
デイビッドは巨大な肩を落として空き缶を拾いながらつぶやいた。
「どんな気持ちか分かるよ。」