岩切天平の甍

親愛なる友へ

クリスマス・パーティー

2007年12月24日 | Weblog

とっぷり暮れたBird in hand村に到着。車を止めるとみんな走って家に入って行った。「ふぅ。」まずは一息。

廊下でハンサムな青年とすれ違う。にっこり笑って「ハーイ、マイネイムイズ、マイケル。」おお、若いのに、私の様な変なチャイニーズに人見知りもしないで感じのいいやつだなぁ、と握手。ん?マイケル?ひょっとして十年前に遊んだガキのマイケルかい?バドミントンのラケットを顔にぐるぐる巻きにしてキャッチャーのまねをしてた・・。「あのー、ご兄弟にマシューって名前の人、います?」「いるよ。マシューは僕の弟ですよ。」やっぱし!「マシューも来てるの?」「下の部屋にいるよ。」

階段を降りると、いるいる。二、三百畳はゆうにあろうかと思われる大広間(教会に使う部屋)にエイモスじいさんとリディアンばあさん、その息子娘に孫ひ孫、そして日本人ドライバー夫妻まで入れて総勢六十人は下らない。暖炉のそばには長老達がどっしりと陣取って、反対側のキッチンでは女達がおしゃべりの花盛り。テーブルをセット中の若者達の間をちびたちが歓声をあげて走り回っている。みんな教会やマーサの結婚式で見た顔だ。

男達全員とお決まりの握手をして回ると、この家の主人のジョンに早速用をいいつけられる。
「君たちはまずは配膳係をやりなさい。」
とりあえず働いて、皆に受け入れさせようといういつもの心遣いだ。

賛美歌をひとつ歌い、目を閉じてお祈り。ふいに訪れた静寂に、ガス灯の音と赤ん坊の声と家族の気配、ずらりと並ぶひげ面が壮観。
そして、食べる食べる食べる。オイスタースープ、グレイズド・ハム、サラダ、フルーツ、アップル・パイ、ケーキ、アイスクリーム、ジェロ・・・。 料理を運んで、水をくんで、皿を下げて、「おーい、こっちだ、水をくれぃ。」「クラッカー持って来て。」「コーヒー、コーヒー。」
人使いの荒い連中だ。

食事が終わるとまた歌いまくる。交代で誰かが選んだ曲を皆でコーラスする。 薪がパチパチとはぜる音をバックに、クリスマス・ソングが澄み渡る。暖炉の横で“きよしこの夜”を聞いていると、マーサがにこにこしながらやって来た。「ここで聞いていると気持ちいいでしょう?暖かくて寝ちゃうわね。よかったらこっちに来て一緒に歌っていいのよ。」

ひとしきり歌うと次はプレゼント・コーナー。じいさんばあさんが皆に一人ずつ贈り物を渡して歩く。まるで節分のようにキャンディをまいて、それを小さな子供達が必死で拾い集める。ジョンがやって来て「これは僕からのクリスマス・プレゼントだ。来るって知らなかったから何も用意してなくてね。イマニュエルが君たちを連れて来てくれて嬉しいよ。」と二十ドル札が入った封筒をくれた。

まるで日本の寄せ正月だ。お年玉、おせち、おじさん、おばさん、いとこ。

こんな居心地の良い、温かいところに居てはいけない・・・。

若者達は流行っているらしい“セトラー・ゲーム”に熱中、男の子は納屋でホッケー、大人達は暖炉の前に椅子を持ち寄って「さあ、可笑しい話を聞きましょう。」
一人のおばさんが真ん中に出て来て。「それでね、バンのね、ドアを開けたら、ウッフッフ。そしたらね、イーッヒッヒッ。」話す前から一人で涙を流して笑っている。「ドライバーの顔が、カオがっ、ここにっ、もーダメ!アーッハッハッ。」何だか分からないけどみんな笑っている。

ソファではアレンが赤ん坊にメロメロ。レベッカ母さんが「アレン、食べな!」とキャンディを投げる。長男が結婚して、できた初孫に母親の名前をつけたんだ。さぞ嬉しかろうな。

夜は更けて、じいさんはキャンディの袋を手に椅子でねむり込む。
ばあさんは一人で歩き回って片付け。時々僕に「何時だい?」と聞いては大きな声で時間を言う。「十時半!」「十一時!」

「おやすみ。」「ありがとう、ジョン。」「テンペイ、エンジンかけて車あっためて。」「あなたが運転するの?大丈夫?眠っちゃだめよ。」
馬の白い息、ライトの向こうで手を振るエイモスじいさんの声、ゆっくりとゆっくりと遠ざかって行く馬車のカラカラという音と赤いランプの点滅。

みんなを降ろして午前一時到着。

「あー、助かった。」



雇われドライバー

2007年12月24日 | Weblog

朝四時、イマニュエルを仕事に送って行く。
ラップ家では自宅で額縁を作っている。それを市場に売りに行く。

クリスマス・イブの夜はレベッカ母さんの親族が集まるから一緒に行きましょうと誘われていた。ラップ家から会場までは車で二時間はかかる。「僕の車にも何人か乗れるよ。」と言ったら「大丈夫よ、大きいバンを借りたから、一緒に行きましょうよ。」と言うので、運転しなくていいと喜んでいた。が。

「ところでイマニュエル、今夜のバンは誰が運転するの?」
「君だよ。いやかい?」
「いや・・喜んで・・(やっぱし・・、そんな気がしたんだ。)マーサの結婚式の時に借りたバンかい?(あれはボロだったなぁ。)」
「いや、違う・・。」
「そりゃ良かった。じゃあ後でね。」

昼過ぎ、ジョニーと二人でバンのピックアップに向かう。
とうもろこし畑の美しい丘を巡り走る。刈り跡が連なって光る向こうに赤く塗られた古い納屋が鮮やかだ。

「ここだよ。」
「あっ、そ・・やっぱし、このバンか・・。」
家に入るとでっかい犬に吠えられる。奥のキッチンから声、「こっちに来い、こっちに来い!」犬に言っているのかと思ったら僕に言っているらしい。
入って行くと、これ以上太れないくらい太ったおじさんがテーブルと椅子の間に挟まって、みかんを食べながら昼メロを見ていた。
「大丈夫、噛み付きゃしないから、そこに座りなさい。」
太りすぎて動くのがおっくうらしい。

電話のボタンを押しながら「ちょっと保険会社と話してよ。若いドライバーはいやがるんだよね。で、おまえ、いくつ?」「四十三だけど・・Old enoughかな?」「ひえっ、四十三・・・。」
帽子を取って白髪を見せる。「ほらね。」
「OK、じゃあ白い車を持って行ってよ。オイルチェックしてね。あと空気圧もね。しばらく見てないから。」
「あいよ。」

白い大型のバンはゴミだらけ。床にシャツが落ちている。飲み捨てたコーヒーカップ。エンジンがカラカラ音をたて、ブレーキはキーキー言っている。

帰りにアレンの女房ケイティアンと赤ん坊を、ラップ家でレベッカ母さんと赤ん坊のマリリン、マーカス、リディアンとカミさんを乗せ二時半出発。途中でジュニアの新妻ルーシーをピックアップ。大きい兄貴たちは他の車で来るらしい。

ガソリンスタンドでエンジンオイルをチェックするとゲージがまったくぬれていない。「何これ?オイル入って無いじゃん!」背筋を冷たいものが・・。オイルを買って入れてもなかなかゲージがオイル面に触れない。二本、三本、ガボガボ入れてようやく先っぽがぬれた。

いやだなー、昨日あんな事故の話聞いたばっかりなのに・・・赤ん坊二人に若夫婦に子供達かぁ・・・これでタイヤが取れたら俺は悪党の極みだなー。
冷や汗をかきながらハンドルをにぎりしめる僕の後ろでレベッカがのんきにおしめを替えている。

遠く並んで走る山々にむらさき色の夕日が沈んで行った。