連句通信126号
2008年9月21日発行
奄美懐かし 古賀直子
転勤族だった夫と共に奄美大島の南端、古仁屋に赴いたのは、30年も昔のことでしょうか。1、2年で転々と勤務地が代る男に嫁においでと言われ、ほいほいと乗った私、いつものように家財取りまとめて鹿児島の港から旅立ちました。
船の名は「喜界」、なんだか僧俊寛の気持だなあと思った記憶があります。
琉球弧南下の旅や星月夜
さて、一夜明ければ奄美の港、もあーっと暑い空気、異国だねえが第一印象でした。迎えの車中、ハブ(毒へび)も出る、気をつけてと言われ緊張しました。
官舎につくと庭にバナナ、パパイヤ、目が点でした。
それからの日々、飲むのも仕事の内という夫と夜な夜な黒糖焼酎(糖黍から作る焼酎)の酒盛りに招かれ、そして酔うほどに島唄。島んちゅは二人集まれば島唄です。蛇皮線の調べに乗る島唄の素敵なこと、心を持っていかれそうでした。
「元 ちとせ」という奄美出身の歌手がいますが、彼女に負けず劣らずの人がそこら中にいるのです。奄美島唄の内容は恋あり、為政者への憤りあり、島の神への畏れあり、いろいろですが、特異な裏声の出し方による唄い方は聴いていて胸に沁みいる哀切さがあります。
島唄の嫋々流れゆく良夜
一世一代の思いで大枚はたいて大島紬を手に入れ、蛇皮線の稽古に通い、焼酎の蔵元と懇ろになり、まさに桃源郷でした。
仕留めたばかりの猪の焼肉、たった今潜って獲った伊勢海老の刺身、狭い官舎の夜も更けて、夫の出世は遠のきましたが、ま、いいかと納得してしまう日々でした。
長男が中三の三学期、東京に舞い戻り、入れる高校はあるかしらと、酔いから覚めてあたふたし、もっと後、二男は大学卒業時の就職最終面接で、奄美から東京に引っ越して感じたカルチャーショックが私の原点などと言って、面接官にどんなところが、と聞かれ、「東京ではハイビスカスの鉢植が売られているのがカルチャーショックでした」と間抜けな答をしてみすみす第一志望の会社を棒に振り、のんきな親に連れられた奄美暮らしのつけが子に及んだのでした。ハイビスカスは道端の大木であると彼の記憶に刷り込まれていたのです。
ヒビスカス真つ赤台風注意報
大島紬も蛇皮線も押入れにしまい込んで、手にすることもなく、夫まで茫々の彼方、
もう一度奄美に連れてって! なんて言ってみましょうか。
恋しかり珊瑚の海の澄むところ
今では彼の地もマリンリゾートとしてモダンに変身しているとか、、。
二句表 「河馬も静かに」
河馬も今宵静かに眠れ天の川 六魚
願いの糸に結ぶ月影 薫
ウ
唐辛子たっぷりこんにゃく炒り上げて 直子
村中が沸くダムの建設 祐
成金の趣味は高級スポーツカー 薫
狐の提灯今日も嫁入り 祐
紅葉散る金襴緞子映す酒 六魚
築地小町の祝う還暦 直子
ナオ
ゴンドラの節朗々と漣に 六魚
運河をのぞむ教会広場 祐
向日葵の迷路で遊ぶ親子連れ 薫
月をめがけて水鉄砲を 祐
書判を急いで習う新大臣 薫
北京五輪でメダルいくつか 祐
ナウ
花鳥の羽鮮やかに丘の道 直子
春の名残の風すぎる頃 六魚
2008年8月2日 ベルブ会議室
十二帳「稲光」 膝送り
天地人変だぞ今日の稲光 玉木 祐
窓辺にひらりとまる馬追 藤尾 薫
ウ
写メールに名残の月を送りいて 古賀 直子
グラスに注ぐ朝酒の色 太田 六魚
五右衛門の風呂につかりて浪花節 祐
富士の高嶺は凍晴れに映え 薫
ナオ
バーゲンで亭主好みの烏帽子買い 直
下着の趣き日替わりの味 六
蘇鉄咲く浜に漁船のモーター音 祐
修道院には猫のひょっこり 直
ナウ
鐘打てばあたり一面花吹雪 薫
鞦韆ゆらす女童の影 六
2008年8月2日 於永山学習室
二十韻「一葉落つ」
一葉落つわれの過ぎるを待つごとく 古賀直子
急かせているか蜩の声 峯田政志
障子貼る晦日の月の登り来て 玉木 祐
お腹空いたと鞄投げ出し 梅田 實
ウ
出関の汽車のトンネル煙濛々 おおた六魚
片道切符であなた追っかけ 直子
異国の貴公子ちょっと無理かしら 政志
写メール送りなしのつぶてに 祐
猪鍋を食いにおいでと過疎の村 實
薬膳だと灯明を上げ 六魚
ナオ
ばばさまはあれこれそれで恙無く 直子
隣家に頼む塀の建築 政志
新婚を気づかいており覗きおり 祐
細面にて似合う薄 實
月の影百物語半ばして 六魚
ぽつりぽつりと琴の爪弾き 直子
ナウ
こなからときらずは今も止められず 政志
合格したよエープリルフール 祐
花の下コンパにおはこ飛び出して 實
蛙跳びしてやんや喝采 六魚
2008.8.17 首尾(於 関戸公民館第3学習室)
二十韻「畏友なお」
畏友なおぴょこぴょこ歩く生身魂 峯田政志
今日は近くでかなかなが呼ぶ 玉木 祐
満月を無心に眺む縁に出て 梅田 實
初孫の名を案じあれこれ おおた六魚
ウ
到来の酒は辛口薦被 古賀直子
弾みの恋に燃えるかまとと 志
殿を待つ奥に局のいそいそと 祐
今宵の相手はつまずいたとこ 實
顔見世の未だ未だ続く京雀 六
千枚漬けの味加減よし 直
ナオ
義経の伝説噺子に語り 志
馬賊の裔で包に住まいて 祐
花嫁はきらめく宝石身を飾り 實
蚤の喰い跡キスでなめなめ 六
土用干し仕舞い忘れの庭に月 直
ほったらかしで独り旅行く 志
ナウ
沖縄の珊瑚滅亡悲しみて 祐
裏の里山鳥交る頃 實
花散らす十二単を飾る室 六
いにしえ偲ぶ朧夜の夢 直
2008年8月17日 於て関戸公民館
二句表「袋が思い」
買い物の袋が思い鰯雲 藤尾 薫
よっこらしょと立待ちの月 坂本統一
ウ
猫じゃらし活けてあります床の間に 古谷禎子
しびれ切らしたジーパンの足 古賀直子
新米のマッサージ師はうっかりと おおた六魚
韓国旅行三寒四温 玉木 祐
あかあかと篝火燃える里神楽 薫
おててつないであなたとわたし 統一
ナオ
瀬をはやみ恋わずらいいとはいじらしい 直子
ハイそれではとブスリ注射器 六魚
だぼ鯊も釣れずに帰る坊主の日 禎子
東京湾で晩涼の酒 祐
半被着ていなせだねぇ木遣り唄 薫
利休ねずみの雨が降ります 一
ナウ
クッキーの焼き上がりたる花の昼 直
思い出したりきょうは椿寿忌 魚
2008年9月6日首尾 於桜ヶ丘ヴィータワークショップ
二句表「レコードで聴く」
新涼やレコードで聴くプレスリー 古賀直子
名曲喫茶名月の影 おおた六魚
ウ
竹の春心ときめく時ならん 玉木 祐
あれも買いたしこれも買いたし 坂本統一
鎌倉の美男の仏笑みもせず 六魚
股引なんて捨ててしまおう 古谷禎子
鏡見てジュエリー似合う冬日和 藤尾 薫
埋蔵金はだまし絵の中 統一
ナオ
口車乗って乗らせて子沢山 直子
相棒さんはまたドジふんで 禎子
そう云えば昨夜の夢は泥鰌汁 六魚
百物語おそろしき月 祐
朗読は白石加代子興至る 薫
老々介護認々介護 統一
ナウ
霏々と降る花愛しくも霏々と降り 六魚
子猫抱きいてあげる盃 禎子
2008.9.6 於関戸公民館ワークショップルーム