Smoke will be with me!

cigar, cigarette, pipe tobacco等、タバコと私の濃密な時間

ダンヒルたばこ紳士

2006-10-18 | book
 Alfred H. Dunhillによって書かれたThe Gentle Art of Smoking。これを著書・パイプのけむりでお馴染みの音楽家、團伊玖麿氏が翻訳したのがこのダンヒルたばこ紳士である。

 昭和42年(1967年)初版、当時の価格は420円。古い本にも関わらず、pipe smokerの間ではバイブルとしてもてはやされ、時には信じられない価格で取引きされることもあるらしい。

 Dunhill、團伊玖麿、そして表紙にはベントのパイプとくればpipe、そしてpipe tobaccoの本だろうと考えるのが普通だ。しかしこれはパイプに特化した本ではなく、他にもcigar、cigarette、そしてsnuff(嗅ぎたばこ)にまで及ぶ。その歴史に始まり、製法、保存法などtobacco全般について書かれた本だ。
 
 オリジナルのThe Gentle Art of Smokingが出版されたのは團氏の翻訳よりも10年以上前の1954年。こうして読んでみると、Dunhillという人は実によくtobaccoのことを知っている。書かれた時代を考えるとその凄さが倍増する。Dunhillという会社は父親が創業者。だから彼は二代目。若、ぼんぼん、ジュニアだが…いやいやどうして、この人は凄い。ただ者ではない。
 
 どちらかと言えば、私は旨い一服が出来ればそれでいいと思うタイプだが、知ることで得る旨さというのもあるのではないかと、この本を読むと思う。もしsmokerが一冊だけ、日本語で書かれた本を持つとしたら…私はこのダンヒルたばこ紳士をオススメする。なぜならそれは、この本が単なるたばこ指南ではないからだ。

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生物としての静物

2006-02-02 | book
 もしかしたら開高健の本を読むのは始めてかもしれない。少なくとも単行本を読むのは初めてだ。

 この本はある人がパイプスモーキングを始めるきっかけとなった本だと知って、どうしてもこの本を読みたくなった。読まなければならないと思った。ところが、ページをめくってみると、意外なことにパイプのことについて触れている部分はほんの少し。タバコやライターの話しもいくつかあるものの、なぜ彼はこの本を読んでパイプにのめり込んだのだろう…

 しかし、二度、そして三度と読むに従って、一つの事実が見えてきた。作者の身の回りにあるモノ達、それに対する作者の思いはモノを単なる物としてではなく自分の体の一部として、または良き相棒として受け入れ、時には正面から向き合っている。日本のヘミングウェイと称される作家は酒を愛し、釣りを愛し、タバコを愛した。パイプもまた然りである。特にパイプは"夜の虚具"と呼び、昼の虚具であるシガレットとは違い、夜こっそりと、ちびちび吸う一人の愉しみであることを強調している。

 この本が世に出たのは今から約20年前。 その時代はまだシガレットに市民権があり、パイプスモーキングはキワモノであったらしい。だからこそ作者は夜中、酒を片手に煙を燻らせた。相棒のパイプで、である。

 誰もが本物の相棒と供に暮らしたいと思うだろう。しかし本物と出会うにはそれなりの投資が必要だ。感情の起伏が激しかった作家のことであるから、かなりの投資をしたのは想像に難くない。しかし良き相棒となった物たちはいつも作家のそばにいて、彼の心を和ませてくれたはずだ。

 静物はいかにして生物(いきもの)になるのか…この本はそれを教えてくれる。そして私は、あのパイプスモーカーに少しだけ近づけた気がした。

カラー版・パイプ

2005-10-04 | book
 "パイプ党入門"の続編にあたるのが、この"カラー版・パイプ"である。パイプ党入門が趣味としてのパイプ喫煙全体に書かれているのに対し、この本はパイプそのものを中心にまとめられている。ブライヤーを中心にパイプが出来るまでの製作工程やヨーロッパに端を発するファンシーパイプの作家達も取り上げられていて、パイプ作家の存在すら知らなかった私にとって、非常に楽しい本になった。

 カラー版というだけあって写真も多く、眺めて楽しい仕上がりになっている。もっとも、この本も70年代の物であるから、どうしても古さは感じてしまうのだが…

 中でも私が惹かれたのは、当時のヨーロッパにおけるパイプ事情である。特に私が惹かれたのは、自分だけのタバコ・マイミックスチャーを作ってくれるブレンダーがいるというヨーロッパの店だ。台帳に自分だけのオリジナルブレンドが残され、注文すれば届けてくれるそうだ。嗜み、趣味としての喫煙が大手を振っていられた時代のヨーロッパ…夢のような話しである。

 今ではアイルランドのパブが全面禁煙になったり、フランスのカフェでは禁煙席が設けられるようになったところも少なくない。きっと当時と同じではないだろうが、いつの日か、タバコ屋巡り、パイプ屋巡りをしたいと思わせてくれる。

パイプ党入門

2005-08-29 | book
 習うより慣れろ、パイプスモーキングはこの言葉に集約されている…それは事実だと思う。実際経験しなければわからないことの方が多いだろうし、そもそも趣味の世界とはそういうものであるからだ。時に、多過ぎる情報は正しい判断の妨げとなる場合もあると私は思う。だから絶対資料が必要だと言い切ることは危険である。知り過ぎるのは良くないが、"趣味をより楽しくするある程度の情報は必要である"、これが私の考えだ。

 Webを検索すれば様々な情報は手に入る今日だが、それでも私は活字の資料が欲しかった。読み物からパイプのことを知りたい、そう思ったのだ。ところが、残念なことにパイプ関連の書籍は新しいものが少ない。そのほとんどは最後のパイプブームだった70年代に集中し、ネットオークションでは定価よりも高い価格で取引されることも珍しくない。手に入れたパイプ党入門は定価が750円、私は500円で買った。まずまずの買い物だったと思う。

 30年ほど前の入門書は昔の本だなぁという第一印象。レイアウトにコンピュータが使われなかった時代の書籍は新鮮だ。内容はと言うと…

 パイプスモーキングに関する基本は全ておさえられているし、パイプの自作や自分で作るタバコのブレンド・マイミックスチャーにまで触れられている。私のような初心者が読むには最適な本ではないだろうか。カラー写真が少ないのが難点ではあるが、古い書籍であるが故、多少の経験を積んだスモーカーなら資料的な価値を見いだせるかもしれない。情報としては古いので、決して"今"は見えてこない。まあこれは仕方のないところである。

 この本の良いところは、入門書にありがちな押しつけがましいところが無いことだろう。著者のパイプスモーキングに対する気持ちがよく出ている良い本だと思う。パイプは茶道や華道のような"道"ではない、流派は存在しないのだ。基本だけを覚え、あとは慣れていくだけ…パイプという趣味を理解した著者だからこその内容になっている。

 私はこの本を辞書のように使っている。ちょっとした時にパラパラとページをめくることの出来る書籍という資料は、やはりイイ。

けむりのゆくえ

2005-08-19 | book
 珠玉のエッセイと呼べる本を久しぶりに読んだ。早川良一郎の"けむりのゆくえ"である。

 故・早川氏は作家でもなんでもなく、ただのパイプスモーカーである。その彼が50歳になったときに書き、199部限定の私家版として出版した"A Study of Smoking"が日本エッセイストクラブ大賞を受賞し、本になったのだ 。パイプに興味を持ってからというもの、ずっとこの本を探していた。私が購入したのは、昭和49年に出版されたものを改定して新たに編集し直したものだが、それでも8年前の本。なかなか見つからなかった。それはさておき…

 つまり、この本に書かれているのは戦前、戦中、戦後から70年代までなのであるが、著者は実に飄々と日本にとって激動の時代を過ごしてきた。それは文章にも表れている。まさにパイプのけむりのように、である。どのエピソードにも優しさがあふれ、読む者を惹きつける。出版から30年が過ぎた今でも、それは決して色褪せていない。むしろこの飄々とした文体から著者の持つ強さを感じることさえある。それほど素晴らしいエッセイなのだ。

 きっと著者は今でも銀座をふらふらと彷徨っているに違いない。もしかしたら私が気付かないだけで、何度もすれ違ったかもしれない…そんな風に思う。是非パイプを燻らしながら、いや、パイプが無くともゆったりと読みたい本である。