H7N9ヒト感染、上海の27歳男性例をめぐり、中国青年報が詳細なルポを掲載、それを読み解くと臨床像が浮かび上がってきます。今回は、当サイトで紹介したものをリフレッシュ(一部翻訳違いの箇所を訂正)、考察も加えてアップしました。
臨床家の皆さんの参考になれば幸いです。
URLは
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/201304/529951.html
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(以下コピペ)
パンデミックに挑む:トピックス
2013. 4. 10
中国一般報道から読み解くH7N9感染の臨床像
H7N9型鳥インフルエンザの感染者、その重症例がどのような臨床経過をたどるのかは、ベールに包まれている。現地報道(中国青年報)に上海第五人民病院で亡くなった27歳男性例をめぐるドキュメンタリー仕立てのルポが載っているのでそこから臨床症状の経過を読み解いてみた。浮き上がってくるのは、「基礎疾患の無い健常成人に、短期間で急速進行するウイルス肺炎」の姿だ。
症例は27歳男性 呉亮亮氏(顔写真入り実名報道)。今年1月に江蘇省から上海に出てきて岳父母の店を手伝っていた。担当は豚肉セクションで6時から18時まで12時間労働。
2月27日、仕事中に不調を訴え、帰宅後に39度の発熱。近医を受診して点滴を受けて帰宅注)。いったん解熱をみている。
2月28日の午前に再び発熱し、近医を再受診し点滴うけるが、この時点では解熱せず。
3月2日になって、上海第五人民病院救急部を受診。X線検査の結果、上肺野に陰影を認めて肺炎疑いの診断で治療を提案され入院となっている。
3月4日、咳と呼吸困難が始まる。呼吸器内科病棟14階一般病棟の2人部屋に入院(この時点においても隔離の発想は無かったようだ)。同日、同じ病棟1階で87歳男性がH7N9で亡くなっている。食欲は減退し昼食は粥を1/2杯のみ。
3月5日、咳と食欲不振が増悪、ほとんど食べられず。夜間ほとんど眠れず、呼吸困難で当直医を呼ぶも適切な処置なされず。
3月6日 カルテによれば、16時に呼吸促迫悪化、臥位困難、チアノーゼ。両肺呼吸音粗。ICU転送。午後に家族は主治医から重篤であることと、「心理準備」をするよう告げられる。妻混乱して父親に電話。伝染性を理由に家族のICU入室を断られる。
3月7日、親族約40人が病院に集まるが、妻だけがICU入室を許可される。気管内挿管、レビンチューブが入り会話困難。
3月10日8時、家族がICUに招じ入れられる。瞼は青黒く、2倍ぐらいに腫れ上がっていた(←この描写は出血傾向と浮腫か?)。12時10分帰らぬ人となる。家族は病院の過失と指摘して107万元の賠償を求め訴訟提起を試みた。その後病院側との協議により見舞金13万元で決着した。
このケースでは、抗ウイルス薬投与を開始されるべき発症後48時間のクリティカルタイムを「生理的食塩水の点滴」でおわってしまっていた。つまり、プラセボ投与群(?)的にH7N9の自然経過を追った事例に(結果として)なっている。
ここから読み取れるのは、
(1)基礎疾患および喫煙歴のない健康な青年が(妻が「“他踏实憨厚,不抽烟不喝酒,身体一直很健康”」と言ってるのをそう解釈して)
(2)最初の2日間弛張熱のような熱型を示し
(3)第4病日に肺炎がX線上確認される状態になり(おそらく肺炎そのものの発症はもう少し前だろうか)
(4)急性呼吸促迫症候群になり
(5)浮腫、チアノーゼを呈しながら発症から12日間の経過で帰らぬ人となる
という経過だ。肺炎の発症が早く、2009年のH1N1型インフルエンザ発生初期に盛んに報告されていたと同様、若年層にウイルス性肺炎が急速に進行するということなのかもしれない。
この稿の元ソースは中国青年報の一般報道であることを改めてお断りしておきたい。本稿では元々「身体一直很健康」だったと妻が言うのを「基礎疾患なし」と解釈し、唇が紺色というのをチアノーゼと解釈し・・・とある程度筆者の解釈が入っている。X線写真ではなく“夫婦の結婚写真”やら“墓場で祈る妻の写真”が、さらには“妻が動転して父親に電話する様子”や“病室で語りかける様子”や“残された子供の様子”などがてんこ盛りの情緒的報道の中から、岩山から宝石を掘り出すような作業をしながら読み解くしか当面は手段がない。いつの日か、症例報告の形で国際ジャーナルに投稿されることを期待したいものだ。
■参考情報
・中国青年報
H7N9逝者死亡记录:凄凉!上海H7N9禽流感逝者死亡记录 被病毒撕碎的人生
http://stock.591hx.com/article/2013-04-08/0000684534s.shtml
(http://stock.591hx.com 2013年04月08日 12:55:41 中国青年网)
■注)
親戚が欧米メディア(The Guardian)の取材に答えたところでは、生理的食塩水の点滴であった模様。
・China reports nine bird flu cases amid allegations of cover up on social media
http://www.guardian.co.uk/world/2013/apr/03/china-reports-bird-flu-cases
過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(関西福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けている。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組んでいる。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。
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