新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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とりあえず落ち着いた関空麻疹騒動を振り返ってリスコミはこうしよう

2016-11-02 07:05:52 | マスコミでのコメント・取材・出演

夏の日本を騒がせた麻疹騒動、あれは何だったのか・・・
教訓はいろいろ残ったはずですが、事後ふりかえりのリスコミ文章を2題、いずれも転載可の媒体に書きましたのでこちらでも紹介します。みなさまのお仕事のご参考になれば幸いです。コピペご随意にどうぞ。

1.ヤンゴン日本人会会報「ぱだう」&HP
 ちょうどアウンサンスーチー氏が日本訪問中のミャンマー。日本からの進出拡大の流れにそって現地に駐在する日本人も毎年50%増のペースで増えています。管理人は、科研費をもらってここに年2回通っておりまして、日本人会報にもご縁をいただいています。
http://ygn-jpn-association.com/medical/

このような、限られた集団がターゲットへのコミュニケーションでは、共通認識の地名や「中の人」の間ではよく知られていることなど入れ込み距離感を縮めるのがコツです。たとえば産業医の方などは、会社の「中の人」だけにわかる単語やエピソードなどちりばめるのも良いでしょう。

http://ygn-jpn-association.com/medical-8/

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(以下コピペ)

はしか(麻疹)にご用心

                関西福祉大学 勝田吉彰

8月から9月にかけて日本国内では、どこかの国からか持ち込まれた「はしか(麻疹)」が関西空港を舞台に感染が広がった件で大騒動、あらゆるマスコミがはしか、はしかの大合唱になりました(私もTV・ラジオに6回ほどお声かけいただき、元AKBの高橋みなみさんとお話できたのは役得でした。話題がはしかオンリーだったのがちょっと残念ですが:笑)。

今回は、日本ではしかがこれ程大騒動になるのはなぜか、それがミャンマー在住とどう関係するのかお話しましょう。

 はしかと日本とアジア諸国

2015年3月に、WHOが日本について「麻疹排除宣言」を出しました。これは日本に定着する麻疹(土着ウイルスといいます)はもう存在しないよという“クリーン宣言”です。冒頭で、“どこかの国から持ち込まれた”と断定型で書いたのは、ここが根拠です。日本の感染者数はかつて20万、2008年が1万ちょっと、2015年はわずか35例という数字になっています。いまやラッシュの山手線にぎゅうぎゅう押し込まれようが、新宿駅や大阪駅の雑踏に揉まれようが、はしかのウイルスにご対面することは“新聞ダネになる位の確率”しかないのです。対してアジアの状況は、WHOが発表している分布図を見ると、インド・インドネシア・中国・モンゴルが最も濃いこげ茶色がついています。いかにも大変そうです。我らがミャンマーといえば、これらの国々よりはワンランク薄い色になっています。ただし皆さまご存じの通り、この国には怖い怖い少数民族武装勢力がカラシニコフ銃を手に睨みをきかせる、中央政府の保健スポーツ省お役人のコントロールが及ぶとはとても思えない地域がたくさんあります。現に、ナガ自治州では謎の奇病で子供が連続死という事件があり、調べてみたらはしかだったなんてショッキングな出来事も起こっています。だから、ミャンマーの現況がこの通りなのか、神のみぞ知るです(21世紀のパンロン会議の出席者ひとりひとりに聞いて足し算したらわかるかもと空想しましたが、日本の感染症法に規定する全数報告がこれら地域に存在するとはとても思えませんから、やはり無理でしょう)。こげ茶色地域だと思っておいた方がよいかもしれません。

 

はしかと予防接種

いまヤンゴンで活躍しておられるボリューム層の20~30歳代が結構リスキーなので注意してください。はしかの予防接種は2回接種が原則です。1歳時と  に2回目。しかし以前は1回接種でした。2007年に日本国内ではしかの流行が起こりいくつかの大学が学校閉鎖に追い込まれた事件をきっかけに、年齢を指定して2回目接種をおこなう施策がとられたりしましたが、その網目からもれた世代が20代後半から30代。日本の両親に聞いてみたり母子手帳を確認してもらったりして確認、1回目の接種を受けたきりであれば2回目接種を受けるのが良いでしょう。ヤンゴン市内の医療機関であれば、私立でも公立でも受けることができます。40代以上はといえば、これは麻疹排除宣言以前の“まだクリーンではなかった日本”を生きてきた世代で、すでに感染して免疫を持っている可能性が高いです。

 あと、もし1歳未満のお子様を連れて赴任されている方は(あるいは、そういう方が赴任して来られる予定の会社の方はアドバイスしてあげてください)、ぜひ接種を受けてください。日本では第一回目の接種が1歳時点でここから無料になりますが、ミャンマー赴任にあたっては自費でも受けて来た方が安心かと思います。

 ミャンマーの人々とはしか

発展途上国の多くでは、上記WHO流行図のとおり色がついていますから市中でウイルスにご対面するチャンスが日常的にあります。そのような環境では子供の頃にほぼ全員が罹っているので、大人になったら大体免疫をもっていて発症しません。したがって、ミャンマー人医師と話していると、「はしか? 小児科の話だろ」という反応になります。(実のところ、デング熱についても同様の事情で同様の反応) 空気感染もあるはしかでは、貧富の差はあまり関係ありませんから、ヤンゴン駅ホームで噛みたばこ売ってるおじさんも、牛車で畑を耕してる農民も、日英語を操り皆さまの会社の戦力になってる現地スタッフも、条件はほぼ一緒の上記事情です。だからはしか(英語ではMeasles)に罹ったと言うと怪訝な顔をされますが、

 はしか(麻疹)の基礎知識

麻疹ウイルスによって感染。ウイルスに暴露して(吸い込んで)約10~12日、最大18日の潜伏期を経て、発熱や咳などカゼと似た症状で発症します。口の中に白い斑点(コプリック斑)ができるのも目印。いったん発熱が緩和し、再び体温上昇とともに全身に発疹がでます。一部、こじらせると中耳炎や肺炎を合併することもあります。小児で怖いのは脳炎(SSPE)の合併で、重い後遺症が残ることもあります。

 感染様式は空気感染・飛沫感染・接触感染いずれも可能性があります。至近距離で咳を浴びたりしなくとも、空間の共有でも十分可能性があります。ミャンマー生活では通勤ラッシュからも、ごった返すショッピングセンターからも、とりあえず解放されている皆さまも多いと思いますが、要注意はオフィスです。もしスタッフが発熱したら、とにかく職場に来させないこと。皆さまの勤労観念が半分感染しかかったミャンマー人スタッフの中には、一部、出勤しようとする人がいるかもしれませんが、ルールとして発熱したら会社に出てこないことを徹底してください。これは麻疹以外の感染症にも共通して、皆さま自身を守ることにつながります。 

治療は特効薬は無く、対症療法のみとなります。こう書くと、家で寝てりゃ良いのねと思いがちですが、ここはミャンマー。対症療法がとても重要になります。40℃の発熱が続けば脱水のリスクに直結しミャンマーの灼熱が輪をかけます。前述の、はしかと診断されず「謎の奇病」のまま亡くなってしまったナガ自治州の子供たちは大変気の毒ですが、そういう運命にならないように、受診して適切な解熱剤の処方を受け、しっかり水分と電解質を補給してください(2015年からポカリスエットがヤンゴンで買えるようになったのは朗報ですね)。回復後の目安は、日本の学校保健安全法に定められた出席停止期間である「解熱後3日間」を目安としてください。
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2.岡山さんぽメールマガジン
 産業保健総合支援センター。管理人は外務省退官、帰国後よりこちらのご縁で産業保健にかかわっています。年に1回デューティーの原稿、時期的にも重なったので今年のテーマは麻疹騒動教訓。

読者ターゲットは、産業医・産業保健師・産業看護師・衛生管理者など。「職場」を意識した書き方になっています。
http://www.okayamas.johas.go.jp/04-mail-back01.html

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(以下コピペ)

1.相談員便り 
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『麻疹(はしか)騒動の教訓』 岡山産業保健総合支援センター相談員 勝田吉彰 
8月から関西空港を舞台に世間を騒がせた麻疹(はしか)騒動。関空を 発端とする感染は一旦の収束をみましたが、産業衛生にも大いにかか わる教訓がたくさん残りました。今回は、この麻疹アウトブレイクを振り 返りたいと思います。
 1. 麻疹は「国境を越える感染症」として今後、繰り返し入ってくる。 
麻疹に関して、WHOは2015年3月に日本に対して「麻疹排除宣言」を出 しました。これは、日本国内に定着した(土着の)麻疹ウイルスはもはや 存在しないというお墨付きです。この宣言以降に日本国内で確認された 麻疹は基本的に輸入例、すなわち「国境を越えてきた感染症」で、2015 年にはわずか35例を数えるのみとなりました。 一方で、国境を越える人の動きが爆発的に増えるにつれ、感染症から 国境が無くなってきたのは、一昨年のエボラや昨年韓国でのMERS騒動 を見ても明らかです。
麻疹についてみると、特にその流行地と日本との 間に人の流れが増えているのです。WHOの麻疹発生地図を見ると、特 に濃い焦げ茶色がついているのがインド・インドネシア・中国・モンゴルと いった国々で、フィリピンは次のランクの色がついています。そしてここ 数年、これらの国々との間にLCC(格安航空)の新規就航が相次ぎ、こ れらの国々からやって来る人々、これらの国々に行って帰ってくる人々 を通じた「感染症の通り道」は広く太くなるばかりです。 今回の流行が、LCCの新規就航が相次ぐ関西空港というのはまさに象徴 的でしたが、この、濃厚流行地に太いパイプがつながる状況が今後も継 続する以上、今回のような騒動は繰り返し発生する前提で、職場のなか で麻疹感染者が発生することを想定してゆくことが必要です。 
 
2. 人が集まる「マスギャザリング」の問題 WHOの麻疹排除宣言を受けた、国内に麻疹が無い国にどこからか持ち 込まれて感染拡大する。そういうありがたくないストーリーが展開したの は日本だけではありません。2013年から14年にかけてのアメリカ合衆国、 ロサンジェルスの本家ディズニーランドでそれは起こりました。どこの国 からか持ち込まれた麻疹がディズニーランドの喧騒のなかで次々感染し、 米国全土はおろかカナダやメキシコまで広がってしまいました。こうした、 大勢の人々が集まり、また広範囲に散ってゆくのを「マスギャザリング」と いい、感染症や公衆衛生の専門家を悩ませる事象となっています。有名 なところではサウジアラビアのメッカに200~300万人が集まるイスラム教 の巡礼やオリンピックなどがあります。
今回の発生でも、幕張メッセで開 催されたジャスティンビーバーの大規模コンサートに感染者が行ってしま い騒動の火に油を注ぎました。 麻疹に限らずマスギャザリングで拡大する感染症はさまざまにあります。 こうした大規模イベントに参加した人がいないかどうか、あなたの会社を 守るためには、普段から把握をこころがけましょう。
 
 3. 感染に弱いのは20~30代の「ワクチン1回接種世代」 かつて日本の麻疹ワクチン定期接種は1回でした。免疫が不完全な人 も多く、2007年には麻疹大流行で有名大学がいくつも休校になってしまう という出来事がありました。(先進国のはずなのに)麻疹輸出国という国 際社会からの批難を浴びた日本政府は、その後2回接種に切り替え、 また、特定年齢に2回目のワクチン接種を5年間継続という施策をおこな い、なんとか2015年の排除宣言に漕ぎつけたわけです。しかしここで網 の目から漏れた世代があります。26~39歳ですが、少し広くとって20代か らアラフォーと覚えておくとよいでしょう。この世代はワクチン接種を1回し か受けていない割合が高く、未接種なら2回目を受けていただく必要が あります。母子手帳の確認、親への確認、罹患歴の確認(実際に麻疹に かかっていれば、免疫がついている)をおこなってもらいます。関空の麻 疹発生を受けた啓発活動もあり、現在は一時的にワクチンが品薄な現 状にありますが、それが解消すれば(お近くの医療機関に問い合わせれ ば良いでしょう)、この世代の社員には2回目接種について啓発していた だければと思います。 
WHOの麻疹発生地図 
http://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/ surveillance_type/active/big_measles_reportedcases6months.jpg?ua=1 

 

 


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