新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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北朝鮮の融和ムードのなかで医学界が考えておかねばならないこと:その1

2018-04-30 12:17:43 | 北朝鮮

南北首脳会談につづいて、次は米朝首脳会談・・・ということで、北朝鮮をめぐる雰囲気は急展開しています。
こういうときの、変化は本当に本当に早いです。当管理人は、いまは誰もが変化を認めなびいているミャンマーに、定点観測に通う・・というテーマで科研費を頂戴したりしているわけですが、まあ、いったん舵を切られた国の変化というのは、そりゃあスゴイものですよ。ちょっと前の常識が通じなくなります。ミャンマーは、いまを去ること6年前の2011年までは、ちょうど昨年までの北朝鮮とおなじようなイメージの国でした。軍事政権が君臨し、スーチーさんを軟禁したりするから(それ以外にも色々あり)西側諸国は足並みそろえて経済制裁(これも北と同じですね)を続けていたものでした。それが2011年の軍事政権の終焉とともに、2012年頃からは経済界の「ミャンマー詣で」なる現象が生じ、リアルな投資ブーム、政府ODAによるインフラ整備、工業団地の整備といった奔流のさなかにあります。

軍事暗黒政権時代のミャンマーからいまのミャンマーを続けてみれば、これから10数年のあいだに北朝鮮に起こるであろうことをなんとなくイメージできます。ちなみにいまのミャンマーは、アウンサンスーチー氏と並立して軍もしっかり権力の一端をもっており(ミンアウンフライン将軍という軍トップの動向は、日本における統合幕僚長のそれの100倍ぐらい注目されている)まったく表舞台から退場しておりません。国会議員にも大量の軍人枠。北朝鮮だって現行の権力層は退場しないでしょうから、この点もミャンマーと同じになろうと思っています。

さて、以上は前置き、ここから本論、われわれ医学界はどうかかわることになるのか。
アジアのなかに、援助して国全体のレベル引上げに協力しなければならない国が出現したとき、そこには医療協力というものが必ずでてきます。国を代表する国立病院には技術支援として精鋭が送られる。ヒトもモノも。ミャンマーでいえば、ヤンゴン総合病院の新棟は別名JICA病院なんて呼ばれたりしています。日本の国際保健医療学会にゆけば、いまやミャンマー関連の演題があちらの会場、こちらの会場と発表されているのを見ることができます。

そしてワンテンポかツーテンポおいて、進出した日本人や西側の人間や現地富裕層を診る医療機関が必要になってきます。SOSインターナショナルやラッフルズのようなチェーンが日本の医師募集サイトに広告出したり・・

というわけで、北朝鮮の医療状況がいまどういう現状になっているのか、我々医療界も勉強はじめても良いのではと思います。かの国の当局から発表される数字がかなり恣意的であるというのは、何度か聞いてきたところではありますし、管理人自身、北京在勤中にたっぷり過労死しそうな位かかわった脱北者案件からも実感はされます。しかし、本当のところは神のみぞ知るである以上、まずは公式、WHO統計を紐解いてみるほかないでしょう。

まずは総論。
http://www.who.int/countries/prk/en/
人口2500万、平均余命は男女 67、74.
多くの項目でnot availableになっていて先が思いやられますが(苦笑)

なんといっても結核。
https://extranet.who.int/sree/Reports?op=Replet&name=/WHO_HQ_Reports/G2/PROD/EXT/TBCountryProfile&ISO2=KP&outtype=html

120,323例(!!)
うち医療受けられているのは87%(13%の結核感染者は放置!)
有病率は右肩上がりで上がる一方
年齢層では35-45歳、次いで45-54歳

結核については一般報道でもいろいろ。
この国には2つの最終兵器がある。ひとつはミサイル、もうひとつは結核・・・とか
https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-04-11/north-korea-s-other-weapon-is-poised-to-explode
https://www.washingtonpost.com/news/monkey-cage/wp/2018/04/12/north-korea-has-a-big-tuberculosis-problem-its-about-to-get-worse/?noredirect=on&utm_term=.387c5f164f66

もうひとつはマラリア問題
昨年2017年の4月頃、いく隻かの漁船漂着とともに、「体制崩壊で日本に大量の難民が!?」という論調が日本のメディアで盛り上がったことがありました。北京の脱北者案件でヘロヘロになった元医務官(苦笑)のところにもいく本かの取材を頂戴しマラリアについても聞かれたのですが、あの当時の私の答えは明確でした。ノープロブレムですと。「日本国領土内に」「蚊のシーズンではない4月に」あらわれたマラリア感染者から、どんどん拡散するかという問いに対する答弁としては、まあそうでしょう。(日本国内にもハマダラ蚊の棲息は確認されておりますから、8月ならちょっと違ったお答えになっていたかもしれませんが)

しかし、支援の一環として医療界の人間がかかわるということになれば、もちろん、上記答弁では通用しなくなります。
かの国のマラリアに関するWHO統計はこうです。


file:///C:/Users/katsuda/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/ZXJ1HK5V/profile_prk_en.pdf

DMZ近辺に・・・というのは耳にしてきたところでありますが、あらためて見直してみると、黄海南道、黄海北道、江原道あたりに中程度の色(1-10)がついているのがわかります。三日熱が100%。

蚊対策、マラリア支援ならスミスリン付き蚊帳をはじめノウハウが色々ありますから、JICA平壌事務所の専門家が腕を振るう・・・というのが〇年後の光景になるのでしょうか。

一方で「いまは大丈夫そうだけど、体制が変わって強権色が弱まるとかえってリスクが高まるもの」もあります。たとえば鳥インフルエンザ。管理人が北京在勤中の2004年か05年、北朝鮮で鳥インフルH5N1発生がありましたが、WHO北京の専門家はあまり心配したこと言ってなかったのを覚えています。まあ、それはそうで、強権体制では隔離、鳥市場の閉鎖、没収、流言対策、etc、確実なる履行が可能だったりします。しかしながら、人民が経済に目覚め、締め付けが弱まれば・・・ここは先進国のノウハウをしっかり入れるべきところでしょう。

メンタルヘルス。こちらはトラウマケアですね。脱北のみなさまが語られていたところでは、失敗すると(世間一般が勝手にイメージするような銃殺刑が即待っているわけではなく)中腰にならないと頭がつかえる真っ暗な地下室に収監されるのだそうです。つまり、我々が思ってるほど殺されない。おそらくは、トラウマを抱えたまま生きている方々は思われている以上い多いはずで、慢性的トラウマケア。これは大変ですが何から始めるか。PFAは妥当として、EMDRだなんだと受けてくれる専門家がいるのだろうか(ミャンマーと状況が違うかもしれない)。。。

 


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