沈まぬ太陽 (2009)

2009-10-31 04:29:54 | Weblog
沈まぬ太陽 (2009)

U.S. Release Date:

■監督:若松節朗
■原作:山崎豊子
■キャスト:渡辺謙/三浦友和/松雪泰子/石坂浩二/鈴木京香/戸田恵梨香/木村多江/宇津井健/加藤剛
■音楽:住友紀人
■字幕:
■お勧め度:★★

 「『白い巨塔』『華麗なる一族』の人気作家・山崎豊子が綿密な取材の基に書き上げた渾身のベストセラー巨編を壮大なスケールで映画化した社会派ヒューマン・ドラマ。激動の昭和30年代から60年代を背景に、巨大組織に翻弄され、海外僻地への左遷や歴史的な航空事故、政界をも巻き込む会社再建といった波瀾の渦中に図らずも身を置いた主人公が不屈の信念で過酷な状況を克服しようともがく姿を通し、人間の尊厳とは何かを問いかけていく。主演は「硫黄島からの手紙」の渡辺謙。監督は「ホワイトアウト」の若松節朗。
 国民航空の労働組合委員長を務める恩地元。職場環境の改善を会社側へ訴えていた彼はやがて、海外赴任を命じられる。それはパキスタンやイラン、ケニアなど、まともな路線就航もない任地を転々とさせられるという、あからさまな懲罰的人事だった。だが、恩地は自らの信念を曲げることなく、長きに渡る海外勤務を全うしていく。一方、同じく組合員として共に闘った恩地の同期、行天四郎。彼はその後、本社での重要なポストと引き換えに会社側へ寝返り、エリートコースを歩みながら恩地と対立していくこととなる。こうして10年ののち、孤独と焦燥感に苛まれた海外転勤から、ようやく本社へ復帰を果たした恩地。しかし、会社側に苦境を強いられている組合の同志たちと同じく、恩地も不遇の日々を過ごすことに。そんな中、航空史上最大のジャンボ機墜落事故が起こる。恩地は遺族係に就き、未曾有の悲劇の数々に遭遇する。また、国民航空の建て直しを図るべく政府の要請で就任した新会長から会長室の室長に抜擢された恩地の前には、さらなる苦難の道のりが続くのだが…。」(allcinema.net/より。)

この作品はどれくらい原作に忠実に作ったのだろうか、これは分からない。という事を先に書いておかないと、原作者の批判ないし中傷になるので。

はっきり言って駄作。日本航空という会社に焦点を当てて、その60年代からの歴史を描き、ジャンボ機墜落事故をメインに持ってきたのは構成上はいいが、「白い巨塔」(田宮二郎版)もそうだったが「観」というものが完全に抜け落ちている。結果的には史実っぽいものを繋ぎ合わせただけのエセ・ドキュメンタリー作品。「観」とは歴史観、世界観、価値観、そして哲学といったようなもの。60年代から90年代を描くのであれば、少なくともなんらかの歴史観はあっていいはずだし無ければならないだろう。60年代から70年代の労働運動は戦前の名残りで、基本的にはマルクス主義とエセ・マルクス主義、ないし俗に言う共産主義が混ざったものがベースになっていた。これが80年代、90年代になると衰退し、労使協調の労働組合に取って代わられた。理由は革命ロシアのスターリン主義(独裁主義)、官僚主義的変質と堕落と中国の文化革命。後者は「共産主義」とは名ばかりの毛沢東の精神主義(マルクス主義は唯物主義)。これと労働行為ということに関する価値観の変化、公安による数件の謀略殺人とマスコミの寝返り(60年安保報道自主規制)。日本の労働組合と運動はこうして衰退した。こうした歴史の流れと歴史観を一切、描かずに一人の男の労働組合との係わりを描いても、なんの信憑性も説得力も無い。単に彼の「伝記」に過ぎない。恩地元(渡辺謙)がなぜここまで労働運動に固執したのか、あるいはその背景は全く描かれていないし分からない。もう一つは、この作家は一部のサラリーマン/給与所得者至上主義に堕ちいっている。「白い巨塔」もそうだったが、東大(架空)ないし日航というエリート組織しか眼中に無く、それらを支えた中小企業や個人事業者は一切、その存在すらも無視している。70年代の高度経済成長が主に労働組合の無い中小企業の努力の結晶だった事を忘れているか無視している。後者から見ると、アフリカに飛ばされてサファリで遊んで暮らして、それでも給料を貰っている恩地元なんてのは、極楽トンボでしかない。そいつがどんな苦難に追い込まれたとしても、何の同情の余地も無い。さらに、恩地は企業人としても失格だろう。日本に帰ってきてもジャンボ機墜落の遺族係りが心地よくて、その他の仕事からは逃げている。これは当然の事で、アフリカ等で現地の人々と親密な係わりを築いた彼としては、本社での駆け引きは苦痛でしかない。この作品が恩地の生き様を描いたものであるとするならば、本末転倒。テーマ的にも支離滅裂に近い。日航機事故の原因を隔壁破裂による垂直尾翼喪失と結論づけたようだが、その原因を修理ミスにし、その原因を日航の企業体質にしている。その体質改善のために首相から頼まれて抜擢された新会長(石坂浩二)は、首相命令で辞任。この問題、どうなったわけ?今も同じ?だったら乗らない方がいいだろう。フィクションなのかドキュメンタリーなのかも分からない。まあ、流行作家の作品の映画化作品としては、期待する方が間違っているのだろうが。しかしその欠点を補うのが映画化の使命じゃないか。製作者(角川映画、ただし春樹ではない、と東宝)の力不足が感じられる。結果的には見所はキャストのみ。というより原作の欠陥と力不足をキャストで誤魔化している。まあ、悪口はこれくらいにして、と言っても見所はほとんど無いが。こういう場合は個人的な趣味に走るしかない。三浦友和はヒドい。こいつは、あのアイドル歌手(くだらないので名前も出さない)と結婚しただけだろう。演技力ゼロ。いいのは石坂浩二。女優では「フラガール」以来の松雪泰子がいい女になった。鈴木京香の恩地の妻役は少しもったいないだろう。演技力からすれば渡辺謙より上だろう。渡辺謙を使ったのは海外勤務で英語をしゃべる必要があるからだけだろう。意外といいのが恩地の娘役の戸田恵梨香。これにベテラン陣がいい感じで出ている。傍役では宇津井健、加藤剛。3時間という超大作ながら、これは推測に過ぎないが、原作の出来の悪さを我慢できる場合のみ耐えられるだろう。作品の悲劇性は恩地の処遇というより原作(者)の上記のような欠陥だろう。


ヒアリング度:
感動度:
二度以上見たい度:
劇場で見たい度:★
ビデオ/DVDで欲しい度:
ビデオ/DVDで見た方がいい度:
ムカつく度:★★★
考えさせられる度:
(「ヒアリング度」は英語のヒアリングの勉強になるかどうかの度合)