所得税の効果の話の補足なのだが、一般的には所得税をかけると、特に累進的な所得税をかけると高所得者の労働意欲を削ぐ、またはそれが労働の供給量を減じるという議論がされる。この点に関してはこの前、所得効果と代替効果の両方の影響があるので所得税をかけたからといって労働供給量に悪影響があるとは限らないし、実際実証的にもそれが裏付けられている訳でない。
しかし、税金には税金を徴収するということがもたらす効果があると同時に、徴収された税金が使われることによってもたらされる効果もある。特に、税金には所得再分配が目的の一つとして考慮されている面が有るので、高所得者から徴収した税金が低所得者層に分配されることによって社会の不平等を解消し、社会の公平性を保つ働きがある。その結果、所得が上がるにしたがって課税される税率が上がっていき、逆に言うと所得が低いと税率が低い(さらには一定額が逆に政府から支給される制度がある国もある)ということになる。
だから、税金そのものの効果だけではなく、負担が所得の上昇に伴って上がっていくことによる税金の効果というのもある。この効果は、税率が急に変化するほど大きく、変化が緩やかであれば効果は少ない。だから、最高税率を元々越えているような人にとっては違いはないが、所得税の累進課税の階段を上っていく中高所得者層にとっては影響がある。また、低所得者層向けの給付が有る場合には、この効果はかなり大きなものと成ることになる。フリードマンが負の所得税を提唱したのも、福祉給付が持つそのような負の効果を緩和しようという意図があったからである。
だから、実質税率が上がっていくことによる効果は実は所得が低い方が大きな影響を与える面がある。だから、このような影響も考慮して制度を設計する必要があるがとりあえずのところよほど極端でもない限り、所得再分配を行うことは社会の公平性を高める有力な手段であるだろう。