インザビルディング / In the Building

音楽(HIPHOP etc),小説(ミステリ etc),漫画,落語…
Who'z in da building?

粗忽の国

2006-04-29 | 5F: 寄席会場
八五郎「困ったね。宿替えだぁって荷物背負って朝早く先の家ぇ出たってのに、
    新しい家の場所忘れちまったい。と、ここはどこだろうね。参ったなぁ。」

通行人「えー少々うかがいますが」

「ん?なんだい」

「えー、堀の内の御祖師様行くのぁこの道でいいんですか」

「うーん、そうだな。まずここがどこかわかりゃ教えられるかもしれねぇ」

「なんだい。お前さんも迷子かい?ならしょうがねぇや
 (気を取り直して、歩き出し)みょうほうれんげえきょう、なんみょうほうれんげえきょう」

「ははっ、何だいあいつぁ。よく見ると枕かついで歩いてらぁ。弁当じゃねえんだから。
 ・・・さてはあいつも粗忽もんだな!へへ、おいらもかかぁに粗忽だ半人前だなんて
 言われるが、他にもいるもんだね。」

侍「あーすまないが、そこの者。わしはどこに行く?」

「ん?お、お侍さん?何です、いきなり。
 あぁたがどこ行きてぇのかぁあっしにはわからねぇんですが」

「む、それはそうだな。おう、そうじゃ!身共は使者に参るところであった。
 ・・・しかし、あぁどこのお屋敷だったかな。・・・失念してしまった。無念!切腹せねば」

「ちょ、ちょっと待っ・・!事情は知らねぇが切腹することぁねえでしょ?」

「(少し落ち着き)う、うむ少し焦りもうした。身共、幼少の頃よりの粗忽者。よくものを忘れる。
 (勢いよく)そ、そうじゃご貴殿、身共の臀をつねりくれまいか?」

「(不思議な顔をして)なんです?尻をつねるんですか?」

「うむ、身共、臀をつねると失念したことをはたと思い出すことが度々ござる。
 使者を無事に果たさねば武士の面目が無い。ご貴殿、臀を、臀を(涙ぐみ)お願いもうす」

「わかったよ。つねりゃいいんだね。じゃあ尻ぃこっち向けてくんねぇ。
 あーいいかい?(指をかまえ)いくよ?せーのっ!(思いきりつねる)」

「お!おお!思い出した。感謝する!急ぐので失礼する!」

「(走り去る武士を見送り)はぁ、変わった人もいるもんだね。
 へへっ、しかしお侍さんにも粗忽者ってのぁいるんだね。
 しかし、さっきからここはぁ随分、粗忽者が多いね・・・」

謎の老人「それぁそうじゃ。(微笑み)ここは粗忽の国じゃからな」

八五郎「だ、誰でぇ!?」

「わしは粗忽天、粗忽の神様じゃ」

「粗忽天?粗忽の国?じいさん何言ってやがんでぇ?粗忽の神様なんてぃ聞いたことねぇや」

「うむ、最近神様始めたんじゃが、神様業も出尽くしておってな。
 まだ、誰も手がけていない市場のニッチを狙ってのベンチャー神様じゃ。
 まぁそれはいいとして粗忽者というのは生きづらいものじゃろう?
 そこでわしは粗忽者を集めて、粗忽が当たり前の国を、
 粗忽が馬鹿にされない国を作ってやろうとしているのじゃ」

「まぁ粗忽者だと、かかぁには何だかんだいわれるしね。
 こっちだって粗忽になりたくてなってるわけじゃねえんだけどよ」

「そうじゃろ!じゃあ粗忽の国に住むか?」

「んー、そんなに慌てさせちゃいけねぇや。かかぁによく言われるんだい。
 お前さんは落ち着きゃ一人前だってな。(深呼吸して)すー、はー」

「な、何を悩むことがあるんじゃ。わしは神様じゃぞ!?」

「(軽く)・・・いいよぉ、おれぁ。」

「い、いいのか?粗忽の国に住めば粗忽者としての幸せをじゃな」
 
「かかぁが待ってんだぃ。行くよ」

「(涙ぐみ)あえて苦難の道を、粗忽者の茨の道を歩むというのか?
 うむ、お前さんは一人前の粗忽者じゃ!感動した!では行くがいい」

すると突然八五郎の周りに突風が巻き起こり八五郎の体が宙に浮いた。

八五郎「(床に両手を叩きつけ)うわぁ何だいこれぁ。(顔をあげ)
    あ!ここぁ引っ越しする新しい長屋だよ!ははっ、着いたよ
    ありがてぇな、神様!(勢いよく戸をあける)かかぁ!い、今ついた!」

おふく「お前さん、いったいどこ行ってたんだい!?今日は宿替えだよ
    朝早く荷を持って出たのに今はもう夕方だよ!」

「いやそれがよ、粗忽の神様がよ!」

「なにをわけのわからないこといってるんだい」

「いやだから粗忽のかみさまが」

「わたしがどうかしたかい?」

「おめぇのことぁ呼んでないよ」

「だってお前さん言ったじゃないか。粗忽のかみさんって」

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