日本型ベスト&ブライテストの絶頂と限界
「カミソリ」と呼ばれた男が、安定企業の代表格だった東京電力を創業以来の危機に陥れた。
輝けるエリートは、守勢に回ると弱かった。
東京電力の勝俣恒久会長(71)にとって、3月11日は運命を暗転させた忌まわしい日となった。
その日まで勝俣の権勢は揺るぎないものだった。
子飼いの清水正孝を後任社長に抜擢し、3年を迎えようとしていた。
世論の反発が予想されたにもかかわらず、あえて資源エネルギー庁長官だった石田徹を顧問に招き、この天下りを副社長に起用するつもりでいた。
かつて東電を統べた王たちー木川田一隆や平岩外四ーと同様に彼の「院政」は長く続きそうだった。
〝凶報″を知ったのは中国・北京でのことである。
現地時間の午後3時前(日本時間の午後4時前)、移動中のバスのなか、前席の元木昌彦・元「週刊現代」編集長からiPadを渡された。
元木はアサヒコムのニュースで大地震を知った。
後ろにいる東電の鼓紀男副社長に、かなり大きいよ、と・iPadを手渡すと、2人はじっと画面を見つめていたようだった。
天下り指摘に激高
勝俣はこのとき、自身が団長の訪中団を率いていた。
団員はマスコミのOBたちだった。
後に「週刊文春」は「中国ツアー『大手マスコミ接待リスト』を入手!」と報じたが、団員にはその「週刊文春」元編集長の花田紀凱もいた。
花田は「やましいものではない」と言うが、7日間の訪中旅行の「参加費は5万円。
全部まかなえるとは思っていません」とも語る。
団員名簿には、毎日や西日本、信濃毎日各紙のOBや中日新聞相談役ら26人が名を連ねる。
東電はマスコミに気前が良かった。
勝俣と鼓は携帯電話で連絡を試みたが通じない。
気は焦っただろうが、成田空港は封鎖され、その日のうちに帰れない。
帰国したのは翌12日だった。
その日、福島第一原発1号機は水素爆発した。
瞬く間に人類史に残るチェルノブイリ級の災厄へと広がっていった。
つい1週間前まで勝俣王朝に衰微の兆候は微塵も無かった。
…以下略。
編集部 大鹿靖明
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