評・永江 朗
うまいタイトルだなあ、と感心する本がときどきある。佐々木紀彦 『米国製エリートは本当にすごいのか?』もそうした一冊。
著者は経済誌の記者で、二年間休職して米スタンフォード大学大学院に留学した。そのときの体験について書いたのが本書である。でもこれがもし『慶大卒経済誌記者の米国留学体験記』とか『私か見たアメリカの大学院』なんて書名だったら売れなかったろう。
反語的タイトルの裏にあるのは。
「全然すごくない」か「やっぱりすごい」のどちらかである。で、この本を読むと、アメリカの一流大学でも学部はたいしたことないけど、大学院でおこなわれるエリート教育はすごいよ、ということがわかる。
興味深いのは、米国のエリート教育では経済学と歴史学を重視しているという話。経済学は今の世の中を深ぐ理解するのに必要だし、過去に学ばなければ前進はない。
こういう話を読むと、いまだ東大法学部卒を頂点とする日本のシステムは時代錯誤なのかとも思う。
また、学部生には大量の本を読ませ、レポートを書かせ、発表や討議をさせるという話にも、なるほどと思った。その量、四年間で推計四百八十冊。アメリカで電子書籍が売れるはずだ。
…以下後略。