Sun Set Blog

日々と読書と思うコト。

Rain

2006年08月19日 | Days

 走り始めたときには、雨は降っていなかった。
 湿度がすごいな、とは思ったけれど、あまり深く考えずいつものように走り始めた。
 走るときには結構ボリュームを大きくして音楽を聴いているので、その分他の感覚が鈍くなっているかもしれない。皮膚感覚のようなもの、天気の変化を感じ取る感覚めいたものは、お気に入りの音楽に取って代わられている。
 いつもと同じコースを、いつもと同じペースで走る。湿度のせいか、どうも身体が重い気がする。けれどもそういうのは走りはじめにだけ感じるもので、いつも距離をこなしていく内にこなれていく。
 ゆっくりと坂道を上る。いつものコースの中には数回の上りと下りが含まれていて、もういい加減にすればいいのにと思うくらいアップダウンを繰り返す。たぶん起伏があっていいコースなのだと思う。横浜にしては、車通りも少ないし。

 最初は、小粒が腕に当った。あれ? と思い、それでも同じペースで進んでいた。そうこうしているうちに雨粒は大きく、激しくなってきて、ある瞬間に誰かが何かの紐でも引いたかのように、突然勢いよく雨が降り始めた。大粒の雨、そして 遠くから雷の音。
 雨だ。と当たり前の感想を抱く。
 それも随分と激しい雨。
 突然の豪雨。

 もちろん、今日は天気予報では午前中から雨のはずだったのだ。けれどもうまい具合で日中は雨がほとんど降らず、そのおかげもあって店は予算も大きくクリアし、気分だってよかったのだ。後はお約束になっているジョギングをして今日も気持ちよく一日を終えるはずだったのだ。

 ところが、気がつくと僕は土砂降りの雨の中を走っていて、Tシャツもジャージも、靴も何もかもびしょ濡れだ。
 よくドラマなんかで雨の中を走ったりする人がいるけれど、そういうのとは全然違う。傍目には随分と物好きに見えそうな感じだ。

 少し大きな交差点が赤信号になっている。ちょうど歩道橋があったので、その下に逃げ込む。
 そして、突然やって来た土砂降りを初めてちゃんと見つめる。渦中にいたら見つめることなんてできない。歩道橋の下に入って、簡易的な雨宿りをしてはじめて、少しだけ客観的に雨の光景を見つめることができた。

 街灯に照らされた部分では、雨はその姿をちゃんとさらしているように見える。勢いよく、一様に降り続ける雨は、まるで季節の変化を告げるある種のきっかけみたいだ。夏が盛りを迎え、まるでチェックポイントのように何度か雨が降る。そしてその雨を超えるたびに、少しずつ街は秋へと近付いていく。雨の前と後では、目には見えなくてもそれでも何かが確かに変わっている。

 信号が青に変わる。僕は普段なら右に曲がるところをそのまま直進して、早く家に帰ることができるコースを選ぶ。
 ショートカット。
 普段のコースは部屋を中心としたものとなっていて、最初北のほうにぐるっと半円を描くように走り、後半は南のほうに同じような半円を描く。ようは部屋を中心に5キロずつの楕円形のようなコースを設けているのだ。それはとりあえずリスクを避けるためのコース設定だ。走っている間に具合が悪くなったときには、途中でいくらでもショートカットできるようになっている。部屋が中心なので、どこにいても大体半径分の距離で帰ってくることができる。

 帰る途中、高速道路の上を通る。橋のような道路の下を、高速道路が走っているのだ。
 眼下に見える高速道路は車通りが少なく、ただ雨だけが一様に降り続けている。坂道の上の方なので、普段ならその橋のような場所からは、遠くたくさんの団地の明かりが見える。その団地の明かりを見ると、いつも自分がいるところがとても人口の多い場所なのだということを実感させられる。普段はいちいちそういうことを考えない。それでも、夜の団地の明かりはそんなことを連想させるには充分すぎるほどで、見るたびにふいに思う。まるである種の反射のように。
 でもそのときには団地の明かりもほとんど見えなかった。目を開けられないくらいの激しい雨だったのだ。

 もし雨の匂いのようなものがわかるのなら、今日は走らなかったのになと最後の坂道を下りながら思った。普段ならその坂道の遠くに、みなとみらいのいくつかのビルの明かりが見える。でもやっぱり目を開けていられないくらいなので、あまりよくわからない。

 そして、最後には飛び込むように部屋に戻ったのだ。
 それが昨日の夜の話。

 今日は23時過ぎに走りはじめ、雨が降ってなかったので10キロコースを1時間15分ほどかけて走る。湿度がすごくて、随分と体力を消耗する。同じ距離なのに、湿度が違うだけで消耗度が随分と違う。そんなのは当たり前なのかもしれないけれど、身体で実感するといちいち不思議に思う。


―――――――――

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 それにしても、リンク先のページの一番下のプレゼント欄の駄洒落はなんとかならないのでしょうか……

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2 コメント

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Rain (ゆめの)
2006-08-19 03:31:26
なんだか、すごく久しぶりにSun Setさんらしい魅力にあふれた文章に出会えたので嬉しいです。どうやったら、こんな文章が書けるのかしら。雨に降られて大変でしたね、というよりは、突然のアクシンデントを楽しんでいるようにも感じられました。
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こんばんは。 (Sun Set)
2006-08-26 01:36:24
こんばんは。

Sun Setさんらしい文章というものがもしあるのだとしたら、そういうのを書くのはたぶん簡単で、何度でも、いつでもできるような気がするのです。けれども、バランスを考えてしまい、いつもいつもとはなっていないような気がします。

いずれにしても、文章に喜んでいただけるのはとても嬉しいです。

ありがとうございます。

ちなみに、雨に降られたことが風邪を引いた原因かもしれません……

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